第286話 決戦、断罪官19 「戦鬼」と「師匠」と「英雄達」の戦い4
それは、まだルークが断罪官に配属されたばかりの頃だった。
代々ウォーレンやルーク達「アークライト」の一族は、教会に入って必要な訓練を終えるとそのまま断罪官に配属され、以降はそこで五神教会を影で支えるという役割を担っていた。
そしてルークが「神聖騎士」の職能を授かり、五神教会に入って訓練を受けた後、断罪官に所属することになると、すぐに父であるウォーレンの側に配属された。
ただ、この時のルークは、そのことに疑問や不安を抱いていた。
ウォーレンのことは父として尊敬しているし、断罪官という部隊の役割も十分理解はしている。
しかし、いくらこちらに大義があるとはいえ、やっていることは「人殺し」にかわりはないのだ。
それが、ルークの心の中に、小さな「迷い」を生み出していた。
だが、初めての任務で、彼のその疑問や不安は木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。
それは、辺境の地で活動する盗賊団の討伐任務だった。その盗賊団の中に、「異端者(固有職保持者のこと)」がいるという情報が入ったからだ。
任務を受けた早速ルークとウォーレン、そして数人の隊員達は、早速その盗賊団がいる地に赴いた。
そこで彼らが見たのは、数十を超える盗賊達と、彼らによって酷使される奴隷達、そして、目的の「異端者」である盗賊達の親玉だった。情報によると、その親玉は他人を意のままに操る固有職能を有していた。
「ルークよ、私と共に来い。我々がやろうとしていることを、その瞳と精神に刻むのだ」
と、ルークにそう命令すると、ウォーレンは親玉との戦闘を開始した。
親玉は自身の力でウォーレンを操ろうとしたが、神より最大級の加護を受け、「鉄鬼」の異名を持つ歴戦の猛者であるウォーレンには一切通用しなかった。
そして戦いは、ウォーレンの勝利に終わった……と思ったが、なんと親玉は最後の力を振り絞って、手下である盗賊達と奴隷達にウォーレン達の抹殺を命令したのだ。命令をした親玉は、そのまま命を落とした。
ウォーレン達はすぐに武器をとって戦った。しかし、手下や奴隷の中には、強力な戦闘系職能を持つ者がいた為、かなりの苦戦を強いられた。それだけでも厄介なのだが、もっと厄介なのは、その中にはまだ幼い子供までもがいて、その子もウォーレン達を殺そうとしてきたのだ。
(な、何だ? 何なんだこれは!?)
それは、まさに「地獄」のような光景だった。
いくら異端者とその周囲の人達を殺すのが任務とはいえ、「子供までも殺す必要があるのか?」と、この時のルークはそう考えていた。
しかし、操られていたとはいえ、自分達を殺そうとしているという「事実」と、その原因を作った存在に対する激しい「怒り」が、ルークの「迷い」を破壊した。
「こんなことが……こんなことが許されるものか!」
そう叫んだルークは、手にした剣で次々と操られた者達を殺していった。その戦いぶりは、「鉄鬼」の異名を持つウォーレンにも負けないものがあった。
そして全てが終わると、ルークは自分が殺した幼い子供の亡き骸を抱えると、一筋の涙を流しながらウォーレンに尋ねる。
「父上、これが我々の『使命』なんですよね?」
ウォーレンは答える。
「そうだ。このようなことを二度と起こさせない為に、我々は存在しているのだ」
それから任務が終わると、ウォーレンとは違う小隊に配属されたルークは、そこで次々とウォーレンに負けないくらいの活躍をしただけじゃなく、これからの戦いに向けた知恵と技術を磨いていった。
やがて小隊を率いて戦うだけじゃなく、単独でも異端者討伐任務を出来るようになったルークは、断罪官副隊長の地位を授かり、以降はウォーレンと共に数多くの任務をこなしていったのだ。
全ては、自身がかつて経験した「地獄」と「悲劇」を、起こさせないようにする為に。
そして、時は現在。
満身創痍のルークは、目の前にいる水音達に向かって、
「そうだ! もう2度と! 2度とあんなことを起こさせない為にも、我々はここで、倒れるわけにはいかないんだぁ!」
とそう叫ぶと、杖代わりにした剣を持ち直して構え、力を込め始めた。
以上、今回はルーク副隊長の過去話でした。




