第272話 決戦、断罪官5 リアナ&歩夢vsギャレット3
(……コイツ、何を言ってるの?)
ギャレットの言葉の意味を、リアナは理解出来ないでいた。そしてそれは、隣にいる歩夢も同様だった。
「あなた、一体何を言ってるの?」
と、歩夢がギャレットに向かってそう尋ねると、ギャレットは自身の身に纏っている鎧を掴むと、
「フン!」
と言って、その鎧を引き剥がした。
「「!」」
裸になったその上半身には、無数の切り傷や火傷の痕があった。それを見て2人が絶句していると、
「へ。わからねぇってんなら、冥土の土産に教えてやるぜ」
と、ギャレットは自身の過去を話し始めた。
「17年前、俺は小隊を率いて、とある『村』を滅ぼせという任務についていた。そこは、人間だけじゃなく『悪しき種族』と認定されている『獣人』と『妖精』、更にそれらの血を引く『混血』達が住む村だった。一目見た瞬間、そいつらに危険なものを感じた俺達は、すぐにその村に攻め入った」
「「……」」
「あれは大仕事だったぜ。アイツらマジで強かったからな。隊員達も何人か犠牲になっちまったわ。特に、俺が最後に戦った1人の『女』が厄介だった。あの『女』、武器だけじゃなく魔力の扱いにも長けていたからな。赤ん坊を抱えているにも関わらず、この俺の体はこんなにも傷だらけにしやがったんだ。なんとか勝つ事が出来たが、あの『女』、最後の力を振り絞って赤ん坊を川に流しやがったんだ。追いかけようとしたが、俺も受けたダメージがデカくて、結局それは出来なかった。任務自体は『成功』って事になったが、俺にとっては、まだ終わってねぇんだよ!」
そう話すギャレットの表情は、激しい怒りと狂気に満ちていた。
そんなギャレットを見て、歩夢はタラリと冷や汗を流したが、リアナはというと、
「……その赤ん坊が、私だっていうの?」
と、何処か落ち着いた感じでギャレットにそう尋ねた。
「ああ、そうだ! あれからかなり時が経っちまってるが、その姿と魔力を交えた戦い方は間違いねぇ! テメェはあの時、俺が取り逃がしたあの『女』の子供だ! ククク、まさか今日、こんな所で会えるとはなぁ! マジで神に感謝しなきゃいけねぇ! テメェを殺せば、俺の『任務』は漸く終わるってもんだぜぇ!」
狂ったように笑いながらそう答えたギャレットを見て、歩夢は嫌悪感を覚えたが、
「……そう、アンタが、私の生まれ故郷を滅ぼしたってわけね」
と、落ち着いた口調でそう言った。
「クハハハ、憎いか!? 憎いよなぁこの俺が!? そうだろそうだろ!? 当然だよな!? だったらかかって来な嬢ちゃん! テメェのその憎しみ諸共、この俺が粉砕してやるぜぇ!」
ギャレットは笑いながらそう挑発すると、歩夢は「コイツ!」と更に嫌悪感を募らせた。
だが、
「……ごめん、どう反応すれば良いのかわかんないや」
と、リアナは申し訳ないといった感じで謝罪した。
その言葉を聞いたギャレットは、
「……は?」
と間抜け顔を晒すと、
「え、リ、リアナ、あの人の話、ちゃんと聞いてた?」
と、歩夢がリアナに問い詰めてきた。
するとリアナは、
「だ、だって、アイツの言ったことが本当なら、私まだ赤ちゃんだったんだよ!? しかもそれから17年も経ってるんだよ!? 今更『俺が仇だ!』なんて言われても、全然実感湧かないし、いまいちピンと来ないんだもん! ていうか……」
と、開き直ったかのようにそう答えると、最後に、
「ぶっちゃけ、アイツの過去話なんて、どうでも良いし!」
「「ど!?」」
「でもって何気にアイツ、自分の裸(上半身だけだけど)見せつけてるけど、ハルの方が良い体つきしてるもん!」
「「んな!?」」
まさかのリアナの発言に、ショックを受ける歩夢とギャレット。特に、体つきを春風と比べられたことに関して、ギャレットはもの凄い精神的ダメージを受けた。
しかし、そんなギャレットに構わず、
「というわけでユメ!」
と、リアナは未だ呆けてる歩夢に話しかける。
「は、はい!」
「どうでも良い話はこれでお終いにして、全力でアイツをぶっ飛ばすよ!」
「え、えっと、それは、何の為に?」
歩夢は恐る恐る尋ねると、
「決まってるでしょ!? ハルと幸せな未来を築く為だよ! 勿論ユメも一緒にね!」
と、リアナはハッキリとそう答えた。
それ聞いた歩夢は、
「……うん、そうだね!」
と言うと、ギャレットに向き直って薙刀型神器を構えて、
「いこう、リアナ。一緒にアイツをやっつけよう!」
と、ギャレットに向かってそう言い放った。
それに続くように、
「よーし! いくよ、ユメ!」
と、リアナも燃え盛る薔薇を構え直した。
一方、思いっきり精神的ダメージを受けたギャレットはというと、
「……『どうでも良い』だと? 『体つきはハルの方が良い』だと?」
と、プルプルと体を震わせていた。
そして、
「上等じゃねーかこのガキャア! この俺様にそんな口きいたこと、後悔させてやるぜぇっ!」
と激しく激昂するのだった。




