第268話 決戦、断罪官
「……と、いうわけで、みんなでアンタらを迎え撃つことになりました」
わざとらしく「ハハハ」と笑いながら、春風は目の前にいる断罪官達にそう説明した。
それを聞いた彼らは全員ポカンとした表情になったが、
「問題はない。貴様がいくら仲間を揃えようとも、我らの目的は変わらないのだから。寧ろ、裏切り者のアリシアとその仲間達、そして桜庭水音まで引っ張り出したことには感謝している」
と、ウォーレンはアリシアとアデル達、そして水音を睨みつけながらそう言った。そんなウォーレンを見て、アリシアはぶるりと体を震わせ、水音はたらりと冷や汗を流した。
すると、
「旦那、ちょっと失礼するぜ」
と、ウォーレンの斜め後ろで春風の説明を聞いていたギャレットが、ダリアと共にズイッとウォーレンの前に出た。
「「……」」
2人はジッと春風を見つめると、
「「ゴフッ!」」
と、2人同時に血を吐いた。といっても、実際は「血を吐いた」仕草をしただけで、本当に血を吐いたわけではない。
そんな2人を見て周囲の人達がギョッと驚くと、
「どうした2人とも?」
と、ウォーレンが尋ねてきた。
2人は口元を拭いながら答える。
「く、旦那。あの春風って奴、こうして実際に見ると、本当に可愛い女の子みてぇな顔つきしてるじゃねぇか」
「そうですね。隊員達が純情を弄ばれ、大隊長がショックを受けたというのも納得が出来ます」
そう答えた2人に、春風は、
「ちょっと待てい! 俺の顔見て失礼なこと言わないでくれるかなぁ!」
と猛抗議したが、
「喧しい! テメェがそんな可愛い顔してるのが悪いんじゃねぇか!」
「そうだ! 男でありながら、そんな可憐な少女のような顔をした貴様が悪い! 我ら断罪官の誇りにかけて、貴様はここで殺す!」
と突っ込まれてしまい、それに続くように他の断罪官の隊員達から、
『そうだそうだ!』
『貴様が悪い!』
という声があがり、春風は「そんな……」とショックでその場に膝から崩れ落ちそうになった。勿論、そうなる前にリアナ達に支えられたが。そしてその横で、
「ねぇ、あいつら全員始末しちゃって良いかな?」
「勿論良いよ。寧ろ私も手伝うよ」
「ウフフ、なんともブッ潰しがいのありそうな人達ねぇ」
と、春風によって転生召喚された英雄達が、なにやら物騒な話をしていた。
その後、なんとか持ち直した春風は、「フゥ」と一息入れると、真っ直ぐウォーレンを見て口を開く。
「ウォーレンさん、今俺達はこうしてアンタらを迎え撃とうしていますが、出来ればアンタらにはこのままセイクリア王国に帰って欲しいと思っています。というか、今のこの状況、イブリーヌ様やギルバート陛下達がしっかりと見ていますので」
そう言った春風に対し、
「何、そうなのか!?」
と、驚きの声をあげたウォーレン。それはルークを含めた他の隊員達も同様だった。
しかし、
「そうはいかん、貴様によってモーゼス教主が精神的再起不能に陥った今、徐々に失いつつある我ら五神教会の誇りを取り戻す為、なんとしても貴様を討たねばならない。例え貴様が、異世界の神の使徒であってもな」
と真面目な表情でそう言うと、ウォーレンは背中に背負った大きな包みものを手に取り、それを包んでいた布を取りさった。
布の下に現れたもの、それは、以前ウォーレンが振るっていた「聖剣スパークル」よりも明らかに大きな、鞘に収まった剣……否、大剣だった。
春風はそれを見て、
「それがアンタの新しい武器ですか?」
と尋ねると、ウォーレンはその大剣を鞘から抜いて、
「そうだ、『炎神剣エクスプロシオン』。神より賜った、私の新たなる剣だ。この剣をもって、貴様を滅ぼす!」
と答えて、その大剣、エクスプロシオンを構えた。彼岸花と同じ真っ赤な刀身だが、まるで剣そのものが全てを焼き尽くす「紅蓮の炎」を思わせるかのような印象だった。
そしてウォーレンに続くように、隊員達もそれぞれの武器を構えた。
(やっぱ、そうなるよなぁ)
春風はそう考えると、彼岸花を鞘から抜いて構えた。
そして自分の側にいる仲間達に、
「みんな、隊員達の方をお願いするよ。あの人は……ウォーレンさんは、俺が戦う」
とお願いした。
それを聞いた仲間達は皆、
『任せとけ!』
と言わんばかりに、それぞれの武器を構えた。
ウォーレンはそんな春風達を見て、
「ほう、そうくるか。ならばこちらも……」
と言うと、隊員達に向かって、
「あの男は私が戦う。お前達は、奴の仲間を殺せ」
と命令した。
それを聞いた隊員達は皆、
『ハッ!』
と一斉に返事した。
そして、春風達「七色の綺羅星」と、ウォーレン達「断罪官」、両者はお互い睨み合った後、
「「行くぞぉっ!」」
『オーッ!』
戦いが、始まった。




