第263話 春風、悩む
断罪官が帝国に来る。
ギルバートからそう告げられた春風は今、
(まったく、次から次へとなんだよもう……)
と、心の中でそう呟きながら、1人自室のベッドに上でうつ伏せになっていた。
あの後春風は、詳しい話を聞く為に、ギルバートと共に帝城内の執務室に向かった。当然、その間の訓練は自主練するように言っておいた。
そして執務室に入った後、ギルバートに向かって、
「あの、それで、断罪官が来るというのは、どういう事でしょうか?」
と尋ねると、
「あぁ、実はな……」
と、ギルバートは部下から受けた、とある報告を春風に話し始めた。
報告によると、モーゼス達がセイクリア王国に帰還した後、モーゼス本人はすぐに自室に篭りきりになってしまい、その話を信者から報告という形で聞いた断罪官達は、その翌日、ウィルフレッドに何も言わずにセイクリア王国を発ってウォーリス帝国に向かったという。
(オイオイ、ウィルフレッド陛下は大丈夫なのか?)
話を聞き終えて、嫌な予感がした春風は、タラリと冷や汗を流しながら口を開く。
「あの、もしかして連中の目的って……」
「勿論、お前の『抹殺』だ」
キッパリとそう言ったギルバートに春風は、
「ですよねぇえええええ」
と、がっくりと肩を落とした。
落ち込む春風を見てギルバートは、
「そんな落ち込む事ねぇって。言ったろ? 『お前はもう俺達のもの』だって。連中が何を言おうが、お前をみすみす殺させるかっての」
と、「ガハハ」と高笑いしながらそう言った。
だがそれでも、春風の気が晴れる事はなかった。
そして現在、自室に戻った春風は、
「チクショウ。何でこんな時に来るんだよぉ。世界救ったら相手してやるから大人しくしてくれよぉ」
と呟く程、かなりネガティブな状態になっていた。
そんな春風を見て、
「は、春風様……」
ジゼルはどう声をかければ良いのかわからず、ただオロオロしていた。
するとそこへ、
「ハル、入って良い?」
と、部屋の扉をノックする音と共にリアナの声がした。
「……どうぞ」
春風はうつ伏せの状態から顔を上げてリアナにそう言うと、ガチャリと扉が開いて、
「お邪魔しまぁす」
と、リアナが入ってきた。
ただ、入ってきたのはリアナだけでなく、歩夢とイブリーヌも一緒だった。
「あれ? ユメちゃんにイブリーヌ様もどうしたんですか?」
2人の姿を確認して、春風はベッドから起き上がりながらそう尋ねると、
「フーちゃん、陛下から話は聞いたよ。それで、イブリーヌ様がどうしても話したい事があるって」
と、歩夢が答えた。
春風は「え?」と言って首を傾げると、イブリーヌが春風の前に出て、
「ハル様、この度は我がセイクリア王国の人間が、本当に申し訳ありませんでした」
と、深々と頭を下げて謝罪した。
それを見て、春風は、
「え、そんな! イブリーヌ様が謝る事ではありませんよ! ですから顔を上げてください!」
と、大慌てでイブリーヌにそう言った。
だが、
「で、ですが……」
と、イブリーヌは頭を下げたまま何か言おうとしたので、春風はそっとイブリーヌの肩に手を触れて、
「お願いします。どうか、顔を上げてください」
と、優しく言った。
それが通じたのか、イブリーヌはゆっくりと顔を上げた。
その表情は、まさに「悲しみ」と「怒り」が入り混じっていたようだった。
だが、穏やかに微笑む春風の顔を見て、イブリーヌは表情を綻ばせた。
春風はそれを見て、「良し」と頷くと、
「イブリーヌ様が気にするほどの事ではありませんよ。『いつでも来い』って連中に言ったのは俺ですし。先程までは……何と言いますか、どうしても解決しなきゃいけない『問題』を抱えておりまして、どうしたものかと悩んでいたんです」
と、現在の春風の状況について説明した。
それを聞いた歩夢が、
「? 何か悩んでる事があるの?」
と尋ねると、それに続くようにリアナも、
「あ、そういえばハル、訓練中も何処か悩んでる様子だったよね。一体何を悩んでるの?」
と尋ねてきた。
そんな2人を見て、春風は「ハァ」と溜め息を吐いて答える。
「実は、ルイーズさん達の『罰』について考えてたんだ」




