間話27 春風と冬夜と恵樹
お待たせしました、間話27弾です。
それは、春風が「英雄転生召喚」を終えて間もない時のことだった。
その日の夜、帝城内にある春風の自室に、部屋の主である春風、春風に召喚された「英雄」である冬夜、そして、召喚された「勇者」の1人にして、この度、春風の「友達」となった、野上恵樹の3人が集まっていた。
「……」
落ち着いた表情の春風と冬夜とは対照的に、恵樹は何処か緊張した様子だった。
理由は簡単。いくら転生して見た目は自分達と同じくらいの少年だとしても、今、目の前にいるのは、7年前の「科学者大虐殺事件」で死んだ、春風の父親である「科学者・光国冬夜」本人であると同時に、ジャーナリストである恵樹の父親がかつて追っていた事件の真実を知っている人間だからだ。
それなりに広い部屋の中で3人は暫くの間沈黙していると、
「さて、野上恵樹君、で良いのかな?」
先に口を開いたのは、冬夜だった。
「は、はい!」
冬夜に名前を呼ばれて、恵樹は飛び上がる勢いで返事をした。
「あぁ、ごめんね。出来れたらで良いから、その、落ち着いてほしいっていうか……」
驚いた冬夜は、何とか恵樹を落ち着かせようとしたが、それが、逆に恵樹を更に緊張させた。
見かねた春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、緊張する恵樹の方を向いて、
「大丈夫だよケータ、おとうさ……じゃなかった、兄さんは、ちょっと不器用なだけだから」
と、フォローを入れた。因みに、冬夜を「お父さん」ではなく「兄さん」と呼び直したのは、謁見の間で冬夜から、
「『兄さん』と呼んでくれ」
言われたからだ。
春風に宥められた恵樹は、
「う、うん、わかった」
と言って、深呼吸して気持ちを落ち着かせると、改めて冬夜に向き合った。
冬夜はそれを見て「ホッ」と一安心すると、真剣な表情で口を開いた。
「じゃあ、改めて、恵樹君って呼べば良いかな?」
「はい、大丈夫です」
「転生する時に春風の『記憶』を見たけど、君と君のお父さんは、僕とセっちゃんが死んだ7年前の『あの事件』を知りたかったんだよね?」
「……はい」
恵樹が言いにくそうに答えると、冬夜は「そっか」と呟いて、
「恵樹君。君は、今でも『あの事件』の真相を知りたいって思ってる?」
と尋ねた。
それを聞いて、恵樹は答えるべきか躊躇ったが、やがて意を決した表情で、
「はい」
と答えた。
冬夜は再び「そっか」と小さく呟くと、
「大変申し訳ないと思ってはいるけど、それを今、ここで言うことは出来ない」
「……そうですか」
冬夜の言葉に、恵樹はシュンとなったが、冬夜は話を続ける。
「だからね……」
「?」
「このゴタゴタが片付いて、地球もこの世界も救ったら、僕とセっちゃんと春風、恵樹君と神代内閣総理大臣、そして、君のお父さんも交えて、『あの事件』の真相を話す事を約束するよ。勿論、条件付きだけど」
「!」
その言葉を聞いて、恵樹は顔を明るくして、
「あ、ありがとうございます!」
と、深く頭を下げてお礼を言った。
春風はそんな恵樹を見て、
(良かったねケータ)
と、穏やかな笑みを浮かべると、
「さてと、じゃあこの話はここまでにして、本題に入ろうか」
「……え?」
真剣な表情を崩さない冬夜のその言葉に、恵樹は首を傾げると、
「弟と……春風と『友達』になってくれて、ありがとう」
と、今度は冬夜が恵樹に向かって頭を下げた。
恵樹はそれを見て
「え、ちょっと!?」
と慌てふためいていると、
「その上で、恵樹君にお願いしたい事があるんだ」
と、冬夜は顔を上げずに話を続けた。
「え、お、お願いしたいこと?」
恵樹がそう尋ねると、冬夜はゆっくりと顔を上げて、
「……その、恥ずかしい事なんだけど、僕はどうも、『人』として問題のある人間で、それなりに他の人との繋がりは大事にしてる方なんだけど、心の底から『友達』って呼べる人、あんまりいないんだ」
「え、そうなんですか!?」
「うん。だから、その……」
冬夜は恵樹に右手を差し出して、
「僕とも、『友達』になってほしいんだ。出来れば、敬語は無しで」
と、恥ずかしそうに顔を赤くして言った。
「え? えっと、じゃあ……『とうや』ってどう書くんですか?」
「『冬』の『夜』。それで『冬夜』って言うんだ」
「それじゃあ……」
恵樹は少しの間考えた後、
「うん、よろしくフユッち! 俺の事はフレンドリーに、『ケータ』って呼んでよ!」
と言って、その手を掴んだ。
その後、3人は笑い合うと、扉の向こうで話を聞いていた水音と鉄雄、そして何故か一緒にいる七色の綺羅星の男子メンバーと双子の皇子を交えて、楽しいボーイズトークに花を咲かせた。
というわけで、今回の話は、本編第226話の、後の話をイメージして書きました。
そして、ここからは謝罪になりますが、恵樹君のお父さんの職業は今でもジャーナリストなので、203話の「当時ジャーナリストだった」の部分を、まことに勝手ながら修正しました。本当にすみません。
そして予告になりますが、次で間章4が終わりになります。




