間話21 納得した者と、後悔した者
今日から新しい間章の始まりです。
それは、ウォーリス帝国帝都にある闘技場で、春風と水音の決闘が行われていた時のことだった。
闘技場での2人の戦いぶりは、ウォーリス帝国が誇る「魔道映像配信技術」によって世界中の人が見ていて、当然、その中にはセイクリア王国も含まれていた。
そして、セイクリア王国王都にある王城。その謁見の間では、国王ウィルフレッドら王族と、小夜子ら地球から召喚された勇者達が、リアルタイムで配信されている春風と水音の決闘を見ていた。
白熱する2人の戦いぶりを見て、小夜子と一部を除いたクラスメイト達は、
『ふ、2人共スゲェ!』
と、興奮した様子で見ていた。因みに、その一部はというと、
(な、何でだよ? 何でこいつ、こんなにスゲェんだよ!?)
と、春風の戦いぶりを見て、怒りをあらわにするか、嫉妬に満ちた眼差しを向けていた。
そんな中、玉座に座っているウィルフレッドはというと、小夜子達とは対照的に、とても静かな様子でその映像を見ていた。
その理由は決闘開始前に行われた、皇妃エリノーラによる春風についての、「紹介」という名の暴露だった。
(そうか……そうだったのか!)
エリノーラのその暴露を聞いた瞬間、ウィルフレッドの脳裏に浮かんだのは、
ーーだが俺が信じてる「神様」は故郷である「地球」の「神様」達だけだぁ!
勇者召喚が行われたあの日、春風が自分達に向かって言い放ったセリフだった。
(『あれ』は、そういう意味だったのか……)
その瞬間、ウィルフレッドはあの時、春風が言ったセリフの意味をここへきて漸く理解した。
「異世界の神の使徒、か……」
と、誰にも聞こえないように小さくそう呟くと、ウィルフレッドは目の前に映し出された決闘の映像を静かに見つめた。
一方その頃、五神教会総本部でも、決闘の映像は見れるようになっていて、信者は勿論、幹部、そして、教主であるモーゼスもその映像を執務室で見ていた。
(な、なんだこれは? 一体何の冗談だ?)
モーゼスもまた、エリノーラによる春風についての暴露を聞いていたが、納得していたウィルフレッドとは違って、モーゼスは信じられないと言わんばかりの表情になっていた。
(あ、あいつが、幸村春風が、『異世界の神の使徒』、だと? いや、それ以前に、奴が、固有職保持者? そして……)
「『賢者』!? 『賢者』だと!? 半熟はわからんが、奴が、『賢者』だとぉ!?」
春風の正体を知って、驚きのあまり心の声が途中から声に出てしまうくらい取り乱すモーゼス。彼が知った…否、知ってしまった『事実』は、それくらい衝撃的だった。
「な、なんという事だ。わ、私は、知らなかったとはいえ……」
そしてそれは、同時にモーゼスを『もう一つの事実』に至らせた。
それは、
「私は、『悪魔』に自由を与え、世界に解き放ってしまったぁあああああ!」
固有職保持者は、神にあだなす「悪魔」である。
そんな常識はモーゼスも知ってはいたのだが、彼自身は一度もその「悪魔」を見たことが無かった。その為、彼はその「悪魔」を、「架空の存在」としか認識していなかったのだ。
しかし、こうして目の前(映像ではあるが)に、その「悪魔」が現れた。
それは、長いこと五神教会のトップである教主をやっていたモーゼスにとって酷くショックを与えた。
教主でありながら、「悪魔」を世界に放った。
もしこの事実が世界中に知られてしまったら、五神教会はどうなってしまうのか? いや、それ以上に、教主である自分はどうなってしまうのか?
モーゼスは、それが一番不安で仕方がなかった。
そんな今の状態の中、モーゼスは、
「こ、こんなことなら……」
春風がセイクリア王国を飛び出したあの日、モーゼスは春風を「何も出来ない者」と決めつけ、放置することを選んだ。
しかし、
「こんなことなら、あの時どんな手を使ってでも、奴を殺しておけばよかったぁあああああああっ!」
モーゼスは現在、その「選択」をしてしまったことを、心の底から激しく後悔した。
というわけで、今回は春風君と水音君の決闘を見て、衝撃を受けた者達の話になりました。
そして、この後もいくつかの間話を投稿していく予定です。




