第225話 それぞれの職能
転生召喚された3人の職能を見て、謁見の間にいる誰もが沈黙している中、
「あー、すまねぇが、英雄さん方」
先に口を開いたのは、ギルバートだった。
「はい、何でしょうか?」
「アンタらの職能が、どういうものなのか説明してくれるとありがたいんだが」
ギルバートは何処かぎこちなさそうにそう頼むと、3人は「わかりました」と言って、自身の職能を説明した。
自由騎士(固有職能)……己の「信念」と「守りたい存在」を守る為に戦う自由な騎士。あらゆる武器、魔術、そして騎士の技を扱うことによって、敵陣に突っ込む攻撃役にも、仲間を守る防御役にもなれる。
戦巫女(固有職能)……戦闘技術を備えた巫女。武術、魔術を得意とすると同時に、特殊な力を秘めた「舞」を踊ることによって味方をサポートする事を得意とする。
魔王(固有職能)……魔力の扱いとあらゆる魔術を極めた魔術師の頂点。この世に存在する全ての魔術が大幅に強化され、弱い魔術でも数千の敵を殲滅出来ると同時に、数千の味方を癒す事も出来る。
「「「とまぁ、こんな感じです」」」
3人がそう説明し終えると、
『ちょっとぉおおおおおおおっ!』
と、勇者達が一斉に春風に詰め寄った。
「うぉっ! どうしたのみんな!?」
突然の事に春風が驚いていると、
「お前、なんてもん召喚してんだよぉおおおおおっ!」
「静流さんと雪花さんは良いとして、冬夜さんのはないでしょおおおおおっ!」
と、鉄雄と美羽が鬼の様な形相で怒鳴ってきた。それは、他の勇者達も同様だった。
「お、おい、どうしたんだお前ら、一体何をそんなに怒ってるんだ?」
ギルバートが恐る恐るそう尋ねると、
「あのですね、冬夜さんの『魔王』って職能は、僕達『勇者』にとって、宿敵とも言える存在で、物語でいうなら『ラスボス』、つまり『諸悪の根源』とも言える存在なんです」
と、水音が溜め息混じりにそう答えた。
それを聞いて、ギルバートは「へぇ、そうなんだ」と呟くと、
「……て、お前なんてもん召喚してんだよぉおおおおおおおっ!」
と、勇者達と同じ様に鬼の形相でそう怒鳴った。
「え、えーとー、その……」
春風はどう答えたら良いのかわからずオロオロしていると、
「別に気にしてませんよ」
と、冬夜があっけらかんとした表情で答えた。
ギルバートはその答えに、
「え、良いのか?」
と尋ねると、
「ええ、僕自身、この職能っていうの凄く気に入ってますし、何より……」
「何より?」
「この力があれば、春風とセっちゃんの敵を皆殺しに出来るじゃないですか」
笑顔でそう言った冬夜の言葉に、春風と雪花を含めた周囲の人達は、
『……え?』
と、皆一斉にキョトンと首を傾げた。
誰もが数秒程沈黙していると、
「ちょっと冬夜君、駄目でしょそんなこと言っちゃ!」
と、雪花が「メッ!」と子供を叱る感じで冬夜にそう怒鳴った。
それに対して冬夜はというと、
「え、何怒ってるのセっちゃん? 僕にとって大事なのはセっちゃんと春風の幸せだけで、その他は本当にどうでも良いんだよ」
と、何故怒られているのか本当にわからないといった表情で答えた。
数秒後、
「おいハル、お前の親父さんどうなってんだよ!?」
「そうだよハルッち、なんか凄い重いセリフ吐いてんだけど!?」
と、鉄雄と恵樹が春風に問い詰めると、
「……ごめん、お父さんは元々あんな感じなんだよ」
『うっそだろオイッ!?』
もの凄く気まずそうに答える春風に、周囲の人達はショックを受けた。
すると、
「あ、そうだ、春風」
と、何かを思いついたかの様に冬夜が春風に話しかけた。
「何、お父さん?」
「僕もセっちゃんも静流さんも、こうして転生したわけだから、これを機に思い切って僕達の呼び名を変えてほしいんだ。ほら、君はもう新しい『お父さん』がいるわけだし」
「え、それは……」
冬夜のその言葉に、春風は少しだけ悲しそうな表情になるが、
「大丈夫よ春風」
「お母さん?」
「たとえ呼び名が変わっても、私達が『家族』ってことに変わりはないんだから」
と、優しく話す雪花に、春風は少し考えて、
「うん、わかった。じゃあ、なんて呼べば良いのかな?」
と尋ねた。
それを聞いた冬夜はニコリと笑うと、
「決まってるだろ、『兄さん』と、『姉さん』だ」
と、自身と雪花を交互に指差してそう答えた。それに続くように、
「あら、じゃあ私は『母さん』ね!」
と、静流も明るい口調でそう言った。
春風は少しの間目をぱちくりとさせると、
「ハハ、『英雄』を召喚したと思ったら、『家族』が出来ちゃったよ」
と、乾いた笑いをこぼしながらそう呟いて、
「……うん、わかったよ。えっと、よろしく、兄さん、姉さん、母さん」
と、恥ずかしそうに顔を赤くして、冬夜達3人の『英雄』をそう呼んだ。
それを聞いた3人は、
「「「うん、よろしく!」」」
と、嬉しそうに同時に春風に抱きついた。
ギルバートはそんな彼らの姿を見て、
「ハハハ、こりゃ随分とエライのが召喚されちまったなぁ」
「ええ、そうですね」
と、エリノーラと共に笑いながらそう呟くのだった。
謝罪)
大変申し訳ありません。
本当に勝手ながら、昨日投稿した前回の話を読んで、「ああ、ここは修正した方がいいな」と思い、話の最後の部分と、静流さんと雪花さんの職能を変更しました。
静流……戦巫女 → 聖重騎士
雪花……戦乙女 → 戦巫女
因みに、イメージとしては、静流=前衛・盾役、雪花=中衛・遊撃、冬夜=後衛・魔術役になります。
そして、それとは別に、次又はその次辺りで、第9章が終わります(予定ですが)。




