第224話 「英雄」の中に、○○がいた
「英雄」を召喚しようとして、亡き両親と育ての親の妻を転生させた。
そのとんでもない「奇跡」は、召喚した本人である春風は勿論、協力した2柱の神々も、周囲の人達も驚かせた。
その後、夜ももう遅かったので、詳しい話とかは明日に回して、その場は一旦解散となった。
翌日、謁見の間。
集まった春風達が見守る中、玉座に座るギルバートとエリノーラを前に、
「はじめまして、ギルバート皇帝陛下。この度『英雄』として転生しました、春風の父の、光国冬夜と申します」
「冬夜君の妻で、春風の母の、光国雪花です」
「幸村静流です。春風の育ての親、幸村涼司の妻です」
と、「英雄」として転生した冬夜、雪花、静流は、丁寧な口調でそう自己紹介した。
それに対して、
「ようこそ『英雄』達よ。俺がここ、ウォーリス帝国皇帝、ギルバート・アーチボルト・ウォーリスだ。改めて、よろしくな」
「皇妃のエリノーラ・アドリアナ・ウォーリスよ。よろしくね」
と、ギルバートとエリノーラは皇族らしい威厳に満ちた態度でそう返した。
その後、冬夜ら3人は丁寧なお辞儀をすると、ギルバートが口を開く。
「いやぁ、未だに信じられねぇわ。まさか、春風の両親達が『英雄』として転生するなんてな」
と、先程までの威厳に満ちた態度と違ってくだけた口調で話すギルバートに、冬夜が少し暗い表情で答える。
「そうですね。死んだ僕達は本来なら、あの闇……いや、冥界の中でいつかは消える筈だったんですが、僕と妻のセっちゃんは息子の春風の事が、静流さんは夫の涼司さんの事が凄く心残りだったんです」
(お父さん……)
冬夜の話を聞いて、春風はなんともいえない表情になった。
だが、
「ですが春風のおかげで、僕とセっちゃんはこうしてまた春風に会うことが出来て、凄く嬉しいです。まぁ、ちょっと若返ってしまったけど」
「っ!」
と、真っ直ぐギルバートを見てそう話す冬夜を見て、春風は思わず泣きそうになった。実際泣いてはいないのだが。
更に、
「私も……」
「ん?」
「私も、まさかリョウちゃん……夫の涼司が、春風君の育ての親になっていたと知って、私も凄く嬉しいです。ああ、でも……」
『?』
「出来れば、もう少しだけ若い状態で転生したかったなって想いもありますけどね」
ちょっと文句がありますと言いたげな感じでそう話す静流を見て、
(あ、それは、すみません)
と、春風は心の中でそう謝罪した。それと同時に、謁見の間にいる誰もが、「あ〜」となんとも言えない表情になった。
するとそこへ、ギルバートが再び口を開いた。
「あー、英雄の皆さん、ちょっと良いだろうか」
「「「?」」」
「召喚されて早々悪いと思ってはいるんだが、早速、今のこの世界の状況を……」
ギルバートが現在の状況に関する説明をしようとしたその時、
「ああ、それにつきましては大丈夫です」
と、冬夜がスッと右手を差し出して「待った」をかけた。
「? 大丈夫……とは?」
ギルバートが「?」を浮かべてそう尋ねると、
「春風」
と、冬夜は春風の方を見て、
「実は、この世界に転生する直前、僕達は君の記憶を見たんだ」
「え、それって……」
「ああ、当然、僕達が死んだ『あの日』から今日までの記憶も含まれているよ。だから、状況は理解した」
「お、お父さん、それじゃあ……」
「ああ、僕達3人も、君達と一緒に戦うよ。そして……」
そう言って冬夜は春風に近づき、
「僕達は、今度こそ、君と共に生きる」
スッと右手を差し出した。
「! ありがとう!」
そう言うと、春風はその手を握った。
その光景に周囲が感動していると、またギルバートが口を開いた。
「ああ、ところで英雄さん方」
「「「?」」」
「あんたら、ステータスっていうか、『職能』はどうなってんだ? 『英雄』ってんだから、結構強そうなのを持ってると思うんだが」
そう尋ねてきたギルバートに、冬夜ら「英雄」達はそれぞれのステータスウインドウを開き、自身の職能を見せた。
春風達が「どれどれ」とその部分を見ると、
『……は?』
と、その場にいる者達、特に召喚された勇者達は、その職能、特に冬夜の職能を見て、大きく目を見開いた。
何故なら、そこにはこう表示されていたからだ。
幸村静流、職能……自由騎士。
光国雪花、職能……戦巫女。
そして、光国冬夜、職能……魔王。
3人の英雄達を除いた全員が何も言えずにいる中、
(大変です、地球の神様の皆さん)
春風は目を瞑った状態で顔を上に向けて、
(召喚した『英雄』の中に、『魔王』が混じってましたぁ!)
と、心の中でそう叫んだ。




