第223話 召喚されたのは……
主人公視点の話に戻ります。
「英雄転生召喚、発動!」
春風がそう唱えた瞬間、目の前にある「素体」が入った3つの大きな箱が、バキバキと音を立てて砕け散った。
中に入っていた3体の「素体」はというと、春風達の目の前で全て粒子の様に散った後、また新たな形へと再構成された。
そして誕生したのは、2、30代くらいの1人の女性と、春風と同じ年頃の2人の少年少女だった。因みに、3人共全裸ではなく、白い下着に近いものを着ていた。
周囲の人達が「おお!」と声を上げる中、誕生した3人がゆっくり目を開けた。その様子を見て、
「うん、成功だ」
と、ハデスがそう言うと、春風はハデスから離れて、その3人にゆっくりと近づいた。
ところが、
(あ、あれ? 力が……)
足に力が入らず、春風は前に向かって倒れそうになった。
「ハ、ハル!」
リアナがそう叫んだ次の瞬間、誕生した3人が春風に駆け寄って、倒れそうになった春風を優しく抱きとめた。
「……え?」
突然の事に春風がそう言って首を傾げると、3人の中の少年少女2人が、春風に向かって口を開く。
「「ただいま、春風」」
「っ!」
その言葉を聞いて、春風は目の前の少年少女を見た。
すると、一瞬2人の顔が懐かしい人物の顔と重なって、その瞬間、春風の目から一筋の涙が流れた。
「え、何で? え?」
どうして泣いているのかわからず、若干混乱気味の春風に対して、
「「ステータスオープン」」
と、少年少女がそう唱えて、春風に自分達のステータスを見せた。
「っ!?」
それを見た春風は驚いて、
「ゆ、ユメちゃん! 師匠!」
と、歩夢と凛依冴を呼んだ。
突然名前を呼ばれた2人が、
(何だろう?)
と思って春風の側に寄ると、目の前にいる少年少女の、ステータスウインドウに表示された名前を見て、その表情を固めた。
春風、歩夢、凛依冴。
3人の目の前に表示された名前は……。
少年は、光国冬夜。
少女は、光国雪花。
その名前を見て、春風は呟く。
「お、お父さん、お母さん……」
それは、7年前に春風を守って死んだ、大好きな両親の名前だった。
「う、嘘、どうして……?」
歩夢は「信じられない」といった表情でそう尋ねると、
「久しぶりだね、ユメちゃん」
と、少女、雪花がニコリと笑ってそう言った。その瞬間、
「せ、雪花おばさん!」
と、そう口に出した時、歩夢の目から大粒の涙が溢れた。
「……」
まさかの事に凛依冴が無言のまま固まっていると、
「やあ、マリーちゃん。君は随分と大きくなったね」
と、少年、冬夜が穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
その言葉を聞いて、凛依冴は表情を緩めて、
「あなたは、小さくなりましたね、冬夜博士」
と、春風と同じ様に一筋の涙を流しながらそう返した。
すると、
「オッホン!」
『?』
冬夜と雪花の背後にいる女性がそう咳き込んだ。
「あ、あの、あなたは?」
女性を召喚した本人である春風がそう尋ねると、女性も雪花と同じ様にニコリと笑って、
「ステータスオープン」
と、自身のステータスを表示し、名前を見せた。
幸村静流。
「……え?」
女性の名前を見た瞬間、春風の脳裏に、とある人物が浮かんだ。
(その名前……確か……)
春風がその人物を思い出そうとすると、その女性、静流が先に口を開いた。
「はじめまして、春風君。幸村静流と言います。リョウちゃん……夫がいつもお世話になってます」
(リョウちゃん? 夫……てまさか!?)
その瞬間、春風はその人物を思い出し、
「もしかして、オヤジの奥さん!?」
と、静流に向かってそう尋ねた。
そう、目の前にるこの女性、幸村静流とは、春風の育ての親である幸村涼司の、若くして死んだ妻の名前だった。
「ええ、そうよ。そして……」
そう言って、静流は冬夜と雪花を押しのけて春風に抱きつくと、
「あなたの、もう1人のお母さんよ!」
と、明るい口調でそう言った。
その後、春風を含め、中庭にいる誰もが沈黙していると、
「ど、どうしよう、ハデス様」
と、静流に抱きしめられた状態で、春風がハデスに話しかけた。
「な、何だい春風君?」
ハデスがぎこちなく春風にそう尋ねると、春風はゆっくりとハデスの方を向いて、
「お、俺、お父さんとお母さん達を、『英雄』に、しちゃいました」
と、ハデスと同じ様にぎこちない口調でそう言った。
そして、次の瞬間、
『な、何だってぇえええええええっ!?』
と、多くの驚きの声が、中庭から帝城内に響き渡った。
謝罪)
真に勝手ながらすみません。第218話の、中庭にいるメンバーに、アレス教会の信者達を追加しました。




