第219話 そして、その場は混沌に染まった
それは、遡ること数時間前、英雄転生召喚の為の準備をすると言って春風と凛依冴が2人っきりになった時のことだった。
「……あの、師匠?」
「なぁに、マイスウィートハニー?」
「……何で、この『衣装』がここにあるんですか?」
春風の目の前に置かれたその「衣装」。
それは、春風が凛依冴との「旅行」中に立ち寄った、とある国の小さな村で開催された、ある「イベント」で着たもので、同時に春風にとって大変複雑な「思い出」が詰まったものでもあった。その辺りについて語ろうとすると長くなってしまうので、その話はひとまず置いておくとしよう。
話は戻って、たらりと冷や汗を流してそう尋ねた春風に、凛依冴は満面の笑みで答える。
「勿論、こんなこともあろうかと思って地球から持ってきたからよ!」
「……確かこれ、あの村に古くから伝わる大事な『衣装』の筈では?」
「問題ないわ! だってこれ、正確には本物じゃなくって、春風の為に作った特注品だから!」
と、親指を立てながらそう答えた凛依冴に、春風は「ハァ」と溜め息を吐いて、
「あの、どうしてもこれを着なきゃ駄目なんですか?」
と、ジト目で凛依冴に尋ねると、
「駄目よ! これから春風がやるのはとっても神聖な儀式なんだから、それ相応の格好をしなくっちゃ!」
「いや、だからってこの『衣装』はないでしょ!?」
「大丈夫よ! この衣装は元々こういう時の為に着るものだもん! それに専用のカツラもあるし、化粧だってするから!」
「だから、そういう問題じゃないでしょ!?」
春風はなんとか凛依冴に考え直してもらおうと必死で訴えたが、
「駄目ぇ?」
と、凛依冴は目をウルウルとさせてジッと春風を見つめてきた。
「うぐぅ……」
そんな凛依冴を見て、春風は観念したのか、
「……わかりました、着ます」
と、がっくりと肩を落としてそう言った。それを見た凛依冴が「わーい!」と子供のように喜んだのは、ここだけの話だ。
「……で、こうなったわけでして」
『どんなわけだぁあああああ!』
春風の説明に対し、一部を除いた殆ど人がそう突っ込みを入れた。
その反応に春風は、
「……やっぱり、変だったかな?」
と、恐る恐る尋ねると、
『いや変じゃないよ! 寧ろ……』
「寧ろ?」
『メッチャ可愛いよこんちくしょおおおおおおお!』
(ええぇ?)
頭を抱えて叫ぶ人達を見て、春風はドン引きした。
それを見た凛依冴は、ニヤリと笑って、
「ほぉら、やっぱり似合ってるわよぉ」
と、肘を軽くコツンと春風に当ててきた。
(うぅ、でも恥ずかしい)
と、春風は顔を赤くして俯いた後、チラリとリアナ、歩夢、イブリーヌを見た。
次の瞬間、
「ハルゥウウウウウウウッ!」
「ふーちゃあああああああんっ!」
「ハル様ぁあああああああっ!」
と、3人とも一斉に鼻血を噴き出した。
「うぉ! ちょっと3人とも大丈夫!?」
驚いた春風がリアナ達に駆け寄ろうとすると……。
ドサッ!
「ん?」
近くで何かが倒れた音がしたので、気になった春風がその方向を向くと、その正体は、
「は、ハル兄さん、す、素敵ですぅ……」
「ル、ルーシー!?」
顔を赤くして鼻血を流すルーシーだった。しかも、目をぐるぐると回して、だ。
「え、ちょっと、何この状況!?」
あまりの状況に春風がオロオロしていると、
「春風様」
「ん?」
横から名前を呼ばれたので、春風はすぐにその声がした方を向くと、
「……とっても、可愛いです」
「ジゼルさん、アンタもか!?」
そこにはうっとりとした表情のジゼルがいた。しかも、その瞳にはハートマークが出ていた。
「あああああ、ハル、ハル可愛いすぎるよぉおおおお」
「フーちゃん、フーちゃん、フーちゃん!」
「ハル様ハル様ハル様ぁあああ……」
『可愛すぎるよぉおおおおお! 本当に男かよこんちくしょぉおおおおお!?』
「もうどうすりゃあ良いんだよこれぇえええええっ!?」
あまりにもカオスなこの状況に、春風は頭を抱えてそう絶叫するのだった。
謝罪)
大変申し訳ありません。前回の春風君が着ている衣装についての説明を少し修正しました。




