第217話 その頃のイブリーヌ
春風達がアマテラスから、「英雄転生召喚」について話し合っていた丁度その頃、謁見の間を飛び出したイブリーヌはというと、帝城内にある自室のベッドの上に寝転がっていた。因みに、部屋の外ではディックが心配そうにウロウロしていた。その際、その姿を複数の帝国兵が怪しいものを見る様な目で見ていたのだが、それは置いておこう。
「ハァ……」
仰向けの状態で溜め息を吐くイブリーヌが考えていたのは、謁見の間で春風の養父である涼司に言われたことだった。
(……『許さない』、か)
実を言うと、イブリーヌはここまで怒りを向けられるとは思っていなかったのだ。
何故なら、巻き込んでしまったとはいえ最終的にはこの世界を救うことを選んでくれた「勇者」達なのだから、もし仮にも故郷の世界にいる彼らの家族と話が出来るようになったとしても、勇者達と同じようにきっと喜んでくれると、心の何処かでそう思い込んでいた。
しかし今日、涼司から怒りの言葉を浴びせられたことによって、その幻想はガラガラと音を立てて崩れてしまった。
あれ程の怒りを向けられただけでなく、怒鳴り散らす涼司の涙を見て、初めてイブリーヌの中に、
(ああ、自分達はなんて酷いことをしてしまったのだろう)
と、罪の意識が芽生え、それと同時に、
(もしかすると、歩夢様達のご家族も、あの方と同じ思いをしているとしたら?)
という不安も生まれた。
ただでさえ涼司1人から、あれ程の怒りをぶつけられたのに、複数の人から一斉に同じ(もしくはそれ以上の)怒りをぶつけられたら、弱い自分はきっと耐えられないかもしれないと、恐怖するようになった。
(ああ、そういえばあの方にも、ちゃんと謝罪してませんでした)
更にここへきて、イブリーヌは涼司に対して謝罪してなかったことも思い出した。
涼司が怒鳴り散らしていた途中で、春風の祖国の偉い人である神代総一には謝罪したが、涼司には一言も謝罪していなかった。その時は何か言おうとしていたのだが、
「絶対に許さない!」
という涼司の叫びが、イブリーヌから何かを言おうとする勇気を奪ってしまったので、それ以上何も言えなかったのだ。そしてその叫びは、今もイブリーヌの頭から離れていなかった。
「お父様、お母様、お姉様、イブリーヌは一体、どうすれば良いのでしょうか?」
両手で顔を覆ったイブリーヌはそうぽつりと呟いたが、残念な事にそれに答えられる者は、誰もいなかった。
その時……。
バァンッ!
「イブりんちゃーん! 今良いかなぁ!?」
「きゃあああああああっ!」
部屋の扉を蹴破って入ってきたエリノーラに、イブリーヌは思わず悲鳴をあげた。
「もう! 悲鳴をあげるなんて酷いじゃないイブりんちゃん!」
「す、すみませんエリノーラ様……じゃなくって! いきなり何ですか!?」
謝りながらもそう突っ込みを入れたイブリーヌに向かって、エリノーラの笑顔で言う。
「そうそう、イブりんちゃん。今夜、春風ちゃんが『すっごいこと』やるって! だから、イブりんちゃんも一緒に見よ!?」
イブリーヌに近づいてそんな事を楽しそうに言うエリノーラに、イブリーヌは、
「……はい?」
と、「?」を浮かべてキョトンと首を傾げるのだった。




