第214話 英雄転生召喚
『え、英雄……』
『転生召喚?』
アマテラスが告げたその言葉に、謁見の間にいる男性陣、女性陣は皆、一斉に頭上に「?」を浮かべた。
しかし、そんな彼、彼女らをよそに、アマテラスは説明を開始する。
「そ、わかりやすく言うと、別の世界の生物を召喚する『異世界召喚』と違って、『英雄転生召喚』ってのは、死んだ人間を『英雄』として転生させて、現世に召喚するっていう秘術なの」
あまりにもざっくりとしたその説明に、春風を含めた周囲がポカンとしていると、
「あー、ちょっと失礼しますが、それって『死者の蘇生』とは違うんですか?」
と、ギルバートが「ハーイ」と手を上げて、アマテラスに質問した。
「良い質問ね。『死者の蘇生』ていうのは、『死者』から『死んだという事実』を無かった事にして、肉体から離れた魂を再び肉体に戻す行為の事よ。もっとも、これは死んでからすぐの状態じゃないといけなくて、時間が経ちすぎると失敗するか魂の代わりに『変なもの』が入って、それはもう別のものになっちゃうの。主にゾンビみたいなものね。おまけに、これ自体がかなり高度な技術で、失敗すればそれを行った者は悲惨な未来が待っているっていう危険性があるのよ」
その説明を聞いた瞬間、謁見の間にいる一部を除いた人達は皆、サーっと顔を青ざめた。
更にアマテラスは説明を続ける。
「だ、け、ど、この『英雄転生召喚』っていうのは、死んだ人間を本来の肉体には戻さずに、『英雄』という特別な存在として新しく生まれ変わらせる為の秘術なの。だから、『生き返らせる』っていうのとは別のものというわけ」
「……そんな凄い秘術を使う権利を、俺に、ですか?」
アマテラスの説明を聞き終えて、春風は顔を下に向けると、そのままの体勢でアマテラスに尋ねた。
その問いに対して、アマテラスは真面目な表情でコクリと頷いた。
「……どうして、俺に?」
春風はブルブルと体を震わせて再びアマテラスに尋ねると、彼女は真面目な表情のまま答える。
「春風君。君がこの世界に降り立ってから、もうすぐ半年になるね」
「……そう、ですね。あの、地球は今どうなっているのですか?」
「大丈夫。今でも私達が、必死で消滅しないようにしてるわ」
「……そうですか」
「で、話は戻すけど、君がこの世界に降り立ってから今日まで、私達『神』から見ても、君は大きく成長したと思っているわ。偽者なうえに意識体とはいえ、『神』を名乗った者を必殺技で潰しちゃうくらいにね」
「……」
「勿論それだけじゃないよ。君は今まで数多くの『凄い奇跡』を起こして、沢山の人を笑顔にしてきた。だから、これは私達神々からそんな君への、『ちょっとしたご褒美』みたいなものよ」
「ご褒美、ですか」
「ええ。まぁ、ちょっとだけ本音を言えば、『この秘術を使ったらどんな奇跡が起きるのかな?』っていう私達の好奇心(?)的な想いもあるけどね」
そう言って「ハハハ」と苦笑いを浮かべるアマテラスを見て、春風を除いた人達は皆、
『え、えぇ……?』
と、一斉にドン引きした。
そんな彼、彼女らをよそに、春風は更に質問を続けた。
「あの、因みにこの秘術を使うとどの様な方が召喚されるのですか?」
「そうね、大体は君と『魂レベルで波長が合う人』って言えば良いかな」
「それって、他の世界の死者も含まれているのですか?」
「いや、基本的には術者と同じ世界の人間に限られるわ。春風君は地球人だから、当然呼び出されるのも地球人ね」
「そうですか……。あと、これもちょっとわからないのですが……」
「何?」
「もし仮に俺がこの秘術を使うとして、今の俺だと何人呼び出す事が出来ますか?」
「そうね、今の君だと、1人だけかな」
「1人……だけ」
「ええ。しかもこの秘術自体、今回は特例みたいなものだからね、君が使える回数は、生涯でたった1回だけなのよ」
「1回……だけ」
そう言うと、春風は顔を下に向けた状態で、ズーンと肩を落とした。
暫くすると、誰もが心配そうに見守る中、春風はゆっくりと口を開く。
「アマテラス様……」
「なぁに?」
「申し訳ありませんが、この秘術、俺には使えません」
真っ直ぐな眼差しをアマテラスに向けた状態で、春風ははっきりとそう言った。
そんな春風を見て、アマテラスだけでなく周囲の人達も、
『な、何だってぇええええええ!?』
と、皆、絶叫じみた悲鳴をあげるのだった。




