第208話 仲直りと、「改めて」
今回は、いつもより短い話になってます。
(うーん、参ったなぁ……)
恵樹の謝罪を聞いて、春風はどう返したら良いのかを考えた。
その後、春風は「うん」と無言で頷いて、ゆっくりと口を開く。
「ねぇ、ケータ」
「な、何?」
「ケータはさ、お父さんのこと、今も尊敬してるの?」
その質問を聞いて、恵樹は一瞬「え?」となったが、すぐに真面目な表情になって、
「そうだね、俺が言うのもなんだけど、子供みたいに好奇心が旺盛で、一度こうと決めたらすぐに突っ走っちゃう所もあるけど、自分の仕事にとても誇りを持った父ちゃんを、俺、凄く尊敬してるよ」
そう答えた恵樹を見て、春風は「そっか」と呟いて小さくニヤリと笑うと、
「うん、許す」
「! ハルッち……」
「でも、1つ条件みたいなものがある」
「え、何?」
「俺の方から、どうしても言いたいことが1つあるんだ。それを言う事を許してほしいんだよね」
と、春風が出したその条件を聞いて、
「えぇ? あー、うん、良いよ」
と、恵樹はポカンとしながらも「OK」を出すと、
「ありがとう」
と、春風は笑顔でそう言った。
その後、深呼吸をして気持ちを整えると、真剣な眼差しを恵樹に向けて、
「この世界に来てすぐに皆の事を置いて外に飛び出した俺に、こんなことを言う資格がないのはわかってるんだけど……」
その言葉を聞いて、恵樹はゴクリと固唾を飲んだ。
「俺は、ケータの事、『大切な仲間』だって思ってる。勿論、ケータだけじゃなく、テツやミウさん、イオリさんやシオリさんのこともそう思ってる」
「ハルッち……」
「そして俺は、これからも皆と『仲間』でありたいって思ってる。ただ、その為にも……ていうか、ある意味『今更感』が半端ないんだけど、どうしても、本当にどうしても必要なことを言うね」
「な……何?」
かなり真剣な表情でそう話す春風に、恵樹はタラリ冷や汗を流すと、春風は穏やかな笑みを浮かべて、
「はじめまして、光国春風です。『春』の『風』って書いて、『春風』です」
と言って、恵樹の前にスッと右手を差し出した。
それを見て、恵樹は一瞬「あ……」と言ってポカンとなったが、すぐに「ハハ」と笑って、
「俺、野上恵樹! フレンドリーに、『ケータ』って呼んでよ!」
と、満面の笑みで差し出されたその手をギュッと握った。
それを聞いて、
「うん。よろしくケータ!」
と、春風も笑顔でそう返した。その後、
「じゃあ、この話は取り敢えず終わりってことで。あ、でも……」
「?」
「もし、全部話せる時が来たらさ、その時は聞いてくれるかな?」
「! うん、いつでも待ってるよ」
「ありがとう。でもって、ごめん」
「良いよ良いよ、俺、幾らでも待っちゃうからさ!」
そう言って、お互い笑い合う2人だったが、
「ところでさ、ケータ」
「? 何、ハルッち」
キョトンと首を傾げる恵樹に、春風は「とある方向」を指差して、
「あれ、どう突っ込みを入れたら良いのかな?」
「あれ?」
恵樹はそう言って、春風が指を差した方向ーー扉の方を見ると、
「……あ!」
と、恵樹はちょっとだけ驚いた表情になった。
そして、肝心の扉の方はというと、
「うぅ〜」
「ううぅ〜っ」
と、何やら複数の啜り泣く声を聞いて、恵樹は、
「あ〜、あれねぇ〜」
と、再び冷や汗をタラリと流した。
「どうしよう、ケータ」
「う、うーん。どうしよっか……」
2人はお互い顔を見合わせて、なんとも困った様な笑みを浮かべるのだった。




