第202話 「届け物」と「伝言」
春風とアデレードが「再戦」の約束を交わした、まさにその時、
「ちょおっとぉおおおおお」
「「うわぁっ!」」
リアナがヌッと、2人の間に割って入ってきた。
「びっくりしたぁ! どうしたのリアナ!?」
驚いた春風がそう尋ねると、
「『どうしたの』じゃないよ。なぁに2人で良い雰囲気出してるのかなぁ?」
と、リアナはジト目になってそう尋ね返した。
「あー、ええっとぉ……」
アデレードが無言で固まってる中、春風が何か言おうとすると、
「はいはい、話が終わったらもう部屋から出ましょうねー、いつまでも怪我人に構ってないでねー」
と、リアナは春風の腕を強引に引っ張り、その後、2人はアデレードを残して部屋を出ていった。
ただ1人残されたアデレードは、口をあんぐりと開けたまま、何も言うことが出来ず呆然としていた。
それから暫くの間、春風はリアナにプンスカと怒られながら廊下を歩いていた。
今、2人が向かっているのは、謁見の間だ。その理由は、メイベルが春風に用があるのだという。
謁見の間に入ると、
「おう、来たか」
「待ったわよ、春風ちゃん」
と、ギルバートとエリノーラが出迎えた。そこには水音や凛依冴達、そしてメイベルの姿もあった。
春風がギルバート達の側まで近づくと、
「アーデの様子はどうだ?」
と、ギルバートが尋ねてきたので、
「はい、先程目を覚ましました」
と、春風は真っ直ぐギルバートを見てそう答えた。
「おぉ、そうか!」
「それと、『お互い強くなったらもう一度勝負しましょう』と、再戦の約束もしてきました」
「あらあら、アーデちゃんらしいわ!」
「あ、あと水音も一緒にです」
「え、何で僕まで!?」
「ああ、俺だけじゃなく、水音とも戦いたいってさ」
「えぇ、嘘だろ!?」
「ほほう、それは面白そうだな!」
「ちょっと、セレスティア様!?」
そのやり取りの後、「ハッハッハ」と笑う周囲の人達。
しかし、それからすぐに、
「オホン」
と、メイベルが咳き込んだので、春風達はメイベルの方を見た。
「ああ、そういえばメイベルさん、俺に何か用があるって聞きましたけど……」
春風はメイベルを見てそう言うと、メイベルは真面目な表情で春風に近づき、
「実は、フレデリック総本部長から、ハル君にって預かってるものがあるの」
「俺にですか?」
春風がそう尋ねると、メイベルは持っている鞄から1通の封筒を取り出し、春風に差し出した。
(何だろう?)
春風はその封筒を受け取り、封を破って中を見ると、そこには1枚のカードがあった。
「あ……これ」
それは、ハンターの免許証であるギルドカードだった。
そして、そこにはこう記されていた。
幸村春風 職能:半熟賢者。
春風はジッとそのギルドカードを見つめていると、
「それと、フレデリック総本部長から伝言よ」
と、メイベルが口を開いてそう言った。
春風はそれを聞いて「え?」と視線をギルドカードからメイベルに移すと、メイベルは伝言を告げた。
「『拠点はそのままにしてありますので、辛くなったらいつでも帰ってきてください。私達は待っていますから』」
「っ!」
その伝言を聞いて、春風は受け取ったギルドカードをスッと自身の胸元に寄せて、顔を下に向けた。
周りが心配そうに見つめる中、春風はゆっくりと口を開く。
「参ったな、俺、異世界人なのに、いつか、故郷に帰らなきゃいけないのに……」
『……』
「水音との決闘がシャーサルの人達に見られてたって知った時、『ああ、俺のハンター生活は終わったな』って思ってたのに……」
「ハル……」
リアナが春風に話しかけようとした時、春風は体を震わせて、
「そっか、俺、まだハンターを名乗って良いんだ……」
そう言って、春風は再びギルドカードを見つめて体を震わせたたまま、両膝を床につけた。
リアナ達が更に心配そうに春風を見つめると、春風は震えた声で、
「ありがとう、ございます、メイベルさん」
と、メイベルにお礼を言った。
その時、側にいたリアナは見た。
ギルドカードを持つ春風の手が、僅かに濡れていたのを……。




