間話17 春風とジゼル
お待たせしました、間話第17弾です。
(ハァ。ルーシー、一体何のつもりだったんだ?)
中庭でにルーシーとのやり取りが終わった後、春風はそんな事を考えながら自室に戻った。
扉を開けて中に入ると、
「おかえりなさい春風様」
と、ジゼルが優しく出迎えてくれた。
それに対して春風も、
「ただいま、ジゼルさん」
と笑顔で返すと、そのままゴロンとベッドに寝転んだ。
「ふぅ」
「どうかしました春風様? なんだか疲れている様子ですね」
「うーん。どうもこの国に来てすぐ色々あったから、ちょっと気持ちの整理がつかないってところかな」
「あー、まぁ確かに、女の子数人に告白したりされたりしましたからねぇ」
「うぐっ!」
ジゼルにからかい気味にそう言われて、春風は思わず自身の胸を押さえた。
その後、春風は「ハァ」と溜め息を吐いて、
「……ユメちゃんは」
「?」
「ユメちゃんは、俺が初めて好きになった子なんだ」
「……」
「最初は一緒に遊ぶ『友達』だったんだ。だけど、大きくなってくにつれて、少しずつ気になりだして、でも、7年間ずっと離れ離れになってて、俺は彼女を覚えてたけど、向こうは俺の事、覚えているのか不安になったりもしたけど、忘れないでいてくれて、嬉しかったんだ」
「春風様……」
「師匠の事もそうだ。小さい頃に何度か会って、ユメちゃんと一緒に仲良くなって、その後離れて暮らすようになって、再会して弟子になった後は一緒に過ごしていくうちにユメちゃんに負けないくらい、大切になってて、本当はいけない事だってわかってても、俺は2人が好きだって事から、絶対に目を背けたくないって思ったんだ」
「……」
「リアナの気持ちは嬉しいよ。俺も、心の何処かでリアナと一緒にいたいって思ったりもした。イブリーヌ様は、まだ少し理解が出来ないって思ってるよ。だって俺、彼女だけじゃなく、彼女の家族にも酷い事を言って、傷つけてしまった。そんな碌でもない俺の、何処に惚れる要素があるんだって、ずっと考えてた」
「それは……」
「ジゼルさん、俺、どうすれば良いのかな? 俺としては、もし許されるのなら、彼女達全員を幸せにしたい。それも、心のそこから『幸せだ』って思わせるくらいに。勿論、馬鹿な事を言ってるのはわかってるよ」
春風がそう話し終えると、部屋の中は沈黙に包まれた。
暫くすると、ジゼルが春風の側に近づいた。
「春風様」
「何?」
「春風様の『幸せ』に繋がるかどうかはわかりませんが、私は、春風様を縛る『過去』から解放されれば良いと思ってます」
「へ? 何を言って……」
春風が最後まで言おうとしたその時、ジゼルは言い放つ。
「アンディ博士」
「!?」
その名前を聞いた瞬間、春風はガバッと上半身を起こしてジゼルを見た。
「ど、どうして、その名を?」
春風がそう尋ねると、ジゼルは申し訳なさそうな表情になって、
「申し訳ありません春風様。実は私、春風様のランクアップに巻き込まれた時、あなたの記憶を見てしまったのです」
と春風に向かって謝罪した。
「記憶って、全部?」
「はい」
「もしかして、2年前の、『あの日』の事も?」
「……はい」
「うわ、マジっすか……」
そう言うと、春風は再びゴロンと寝転んだ。
それから少しの間沈黙していると、ジゼルは春風に近づき、その手にソッと自分の手を置いて口を開く。
「春風様、こんな事を言うのは良くないとわかっているのですが、それでも言わせてください」
「……何ですか?」
「春風様は、悪くありません。『あれ』は、あの人が選んだ『結末』です。春風様がそこまで気に病むことなどではありませんし、『罪』に思うような事でも決してありません。あなたは、頑張りました。良く、頑張りました」
そう言われて、春風はふとジゼルの顔を見ると、その顔は涙で濡れていた。
そんなジゼルを見て、春風は穏やかな笑みを浮かべると、
「……ありがとう、ございます」
と言って、ジゼルに背を向けた状態になった。
ジゼルはただ一言、
「すみません」
と言うと、机の上に置かれた零号の中に入った。
それを確認すると、春風は心の中で呟く。
(でもね、ジゼルさん。それでも俺は、やっぱり自分を許すことは出来ないんだ。どんなに許されないことをしても、彼は……アンディは、大切な『友達』なんだ。その『友達』を、俺は……)
ーー殺してしまったのだから。
今回の話で、僅かに語られた春風君の「過去」。
一体、彼に何が起こったのか?
その事については、予定としては今後の話の中に書くつもりです。




