間話14 春風と双子の皇子様
お待たせしました。間話第14弾です。
それは、春風と歩夢、そして「マリーさん」こと凛依冴の、夜の会話があった翌日のことだった。
朝食を済ませた春風は、自分の部屋(帝城の客室の1つ)で決闘に向けての準備……をする筈だったのだが、現在、春風は部屋に備えつけられた机に突っ伏していた。
原因はわかっている。昨夜の歩夢と凛依冴との会話の内容だ。
(うう、俺はなんてことを言ってしまったんだ)
実はあの後、冷静になった春風は、自分が言った事を激しく後悔した。
いくら歩夢達のことを大切に思っていても、いくら本人達が受け入れてくれたからといっても、2人の女性に「2人共好きだ」なんて、どう考えても男としてどうなんだと思ってしまったからだ。
(『ハーレム』の趣味なんてないし、そもそもそんなの漫画の世界だけの話だと思ってたのに……)
おかげで今朝の朝食の時、あまりの気まずさと恥ずかしさに、歩夢と凛依冴の顔をまともに見ることが出来なかったのである。流石に周囲には悟られないようにしていたが。
(リアナやイブリーヌ様のことも考えなきゃいけないのに、一体俺はどうすれば良いんだ?)
暫くの間そんなことを考えていたのだが、
「あーもう、やめだやめだ! 今はとにかく、3日後の決闘の準備だ!」
と考えることをやめて、春風は今度こそ決闘の準備に取り掛かることにした。
(エリノーラ様の命令がある以上、レベル上げは出来ない。だったら……)
そう考えた春風は、机の上に「ある物」を置いた。
それは、自身のもう1つの武器である銀の籠手「アガートラーム」だ。
彼岸花の呪いによって、春風は他の武器を装備することが出来ない。しかし、このアガートラームは武器であると同時に防具、そして「自身の体(左腕)の延長」でもある為、呪いの対象外になっていたのだ。
(よし、今日はこいつの改造と、新しいタクティカル・アタッチメントの製作だ)
そう意気込んだ春風は、すぐに作業に取り掛かった。
といっても、アガートラームの改造プランは既に決まっていた。
現在、アガートラームのは加工された4つの魔石が嵌め込まれている。火、水、土、そして風だ。そして、第1の改造プランは、そこへ新たな魔石を追加することだ。
実は、春風が「見習い賢者」から「半熟賢者」にランクアップした時、[魔石生成]のスキルに新たな「力」が加わっていた。
光と闇の属性の魔石が作れる様になったのだ。
そんなわけで、春風は早速光属性の魔石を生み出そうとしたが、
「……何をしているのですか、オズワルド様?」
不意にとある方向から視線を感じた春風がその方向を向くと、部屋の扉の隙間から、第3皇子オズワルドがジッと春風を見つめていた。
「オズワルドではない、ただの空気だ」
尋ねてきた春風に対してそう答えたオズワルド。
「そんな存在感ありまくりの空気があるか!」
と、突っ込みを入れたかった春風だが、皇族相手にそんなこと出来るわけもなくどうしたものかと考えていると、
「おい」
ーーポカ!
「あいた!」
背後で誰かに頭を叩かれたオズワルドは、叩かれた部分を押さえて後ろを振り向くと、そこには双子の兄である第2皇子エドマンドがいた。
「な、何をするんだエド!? 痛いじゃないか!」
「彼の邪魔をするんじゃねぇ!」
「邪魔だと!? 異世界人かつ半人前とはいえ、本物の賢者が目の前で何かをやろうとしているんだぞ!? 見たいと思うのは当然じゃないか!」
「だったらもう少し皇族らしくしろ! 今のお前、かなり怪しい奴だぞ!」
「な、なんだとぉ!?」
そして始まる双子の皇子の口論を見て、春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、
「あの、よろしければ中で見ていきませんか?」
と、2人を部屋の中に誘った。
「む、良いのか!? では失礼する!」
「ハァ、すまない。では、お言葉に甘えさせてもらおうか」
嬉しそうに目をキラキラと輝かせたオズワルドと、溜め息を吐きながらも一緒に見ることにしたエドマンド。2人はそう言って春風の部屋に入った。
それから暫くして、春風はアガートラームを改造し、「アガートラームMkーⅡ」と新たなタクティカル・アタッチメントを完成させ、それを見たエドマンドとオズワルドは、「オオ!」と驚きと喜びの声をあげた。
そして、この出来事をきっかけに、後に春風はエドマンドとオズワルドと、世界を超えた友情を育むことになるのだが、それはまた、別のお話。
それと同時に、水音は勿論、鉄雄や恵樹らから嫉妬の眼差しを向けられることにもなるのだが、それもまた別のお話だ。
今回は、前回の間話第13弾の後の話をテーマに書きました。




