第187話 決闘終わって……
「う、う〜ん?」
目覚めた時、春風はベッドの上にいた。
(あれ? 何で俺、こんな所にいるんだ?)
と思った春風は、ここで眠っていた理由を思い出そうとしたが、目が覚めたばかりの所為か、思い出す事が出来なかった。
すると、
「目が覚めた?」
と、聞き覚えのある声がしたので、春風はその声がした方に顔を向けると、
「……水音?」
そこにいたのは、水音だった。
「ここ、何処だ?」
春風はぼんやりとした表情で尋ねると、
「ここは帝城だよ。春風が気を失ってすぐ、ギルバート陛下がここへ運んでくれたんだ」
と、水音が教えてくれたので、春風は漸く自分がいる場所を理解する事が出来た。
そこは、よく見ると自分が寝泊まりしている帝城の一室の様だった。
(ああそうだ。俺は今、ウォーリス帝国に来ていて、それで……)
春風は少しずつ記憶がはっきりしていくのを感じると、やがてハッと全てを思い出して、ガバッと上半身を起こした。
「俺、負けちゃった!?」
「大丈夫、負けてないよ」
そう即答した水音の言葉をきいて、春風はホッと胸を撫で下ろすと、水音は首を横に振りながら、
「でも、勝ってもいないけどね」
と言ったので、春風はキョトンと「?」を浮かべて首を傾げた。
「どういう事?」
「春風が倒れた後、決闘は中止になったんだ。そしてさっきも言ったように、それからすぐにギルバート陛下が君をここまで背負ってくれたんだ。闘技場と帝城は目と鼻の先にあったからね」
「マジかよ。ギルバート陛下にお礼言わなきゃ……て、そうだ、みんなは!?」
「安心して、全員無事だよ。今はもう夜だから、部屋で寝てるんじゃないかな?」
「へ?」
水音にそう言われて、春風は改めて部屋全体を見回すと、部屋の中は薄暗く、外は水音が言うように既に夜だった。
その後、春風は「そうなんだ」と納得すると、
「……ごめん、水音」
と、水音に向かって申し訳なさそうな表情で謝罪した。
「え? どうして謝るの?」
「だって俺、水音やみんなの前で、折角技を決めたと思ったのにその後気絶しちゃうなんて、すっごいカッコ悪い所見せちゃったから……」
そう答えてシュンとなった春風を見て、水音は口を開く。
「……それなら、僕だってそうだよ」
「え?」
「この日の為に、ギルバート陛下やセレスティア様、そしてこの国で出会った沢山の人達が協力してくれたのに、それに応える事が出来なかったどころか、女神マール……あんな奴に付け入る隙を与えてしまって、挙句良いように操られて君を殺そうとしたんだ。陛下達に会わせる顔がないよ、本当に」
「水音……」
部屋全体がただでさえ薄暗いのに、ここへきて更に暗さが増した。
その状況に耐えられなかったのか、春風はハッとなって水音に尋ねる。
「そういえば、アレス様はどうしたの?」
「ああ、あの方なら、僕に『伝言』を預けて、元いた場所に帰ったよ」
「伝言?」
「『今回は残念だったけど、もしまたやるのでしたら、その時が来るのを楽しみにしています』だって」
その伝言を聞いて、春風は少し考え込むと、
「……だったら、さ」
「?」
「今回の一件が片付いて、地球もこの世界も守りきって、ひと段落ついたら……もう一度決闘しよう」
と、春風は水音に向かって、ニコリと笑ってそう言った。
それを見た水音は、
「うん。そうだね」
と言うと、
「あ、でも条件があるんだ」
春風は思い出したようにそう言うと、水音は「ハハ」と笑って、
「わかってるよ、『目立たず、騒がず、ひっそりと』」
「そうそう、で……」
「「みんなには、内緒でね」」
と、2人同時に言った。
その時、
『コラァアアアアアアア!』
「「うわぁあああああああ!」」
突然、ベッドの下からリアナ、ジゼル、歩夢、イブリーヌ、凛依冴、そして、何故かルーシーが出てきたので、春風と水音はびっくりして悲鳴をあげた。
「え、リ、リアナ? ジゼルさん? ユメちゃん? イブリーヌ様? 師匠? それに、何でルーシーが?」
春風は訳がわからないといった感じで混乱していると、
「俺達もいるぞ!」
と、バァンと乱暴に部屋の扉を開けて、ギルバート陛下と皇族達、そして七色の綺羅星メンバーが一斉に入ってきた。
「ギルバート陛下!?」
「それにみんなも!? え、どうなってんの!? いつからいたの!?」
思わぬ登場に2人が慌てふためいていると、
「もう、酷いよハル! 2人だけで楽しそうに会話するなんて」
「そうですよ! 本当に心配したんですから!」
「うん。フーちゃん達酷い」
「本当です! わたくし達がこんなに心配していたのに!」
「まったくよ2人共、師匠の私を差し置いて」
「えーと、す、すみません」
文句を言うリアナ達(ただし、ルーシーは除いて)に、春風が「ええ?」となっていると、
「水音」
「は、はい?」
ギルバートの背後からセレスティアが出てきて、水音の側に近づくと、
「むぐ!?」
セレスティアは水音の唇に、熱いキスをした。
その場にいた者達全員が「おおっ!」と驚きの声をあげると、
「これは、私を心配させた罰だ。この後しっかりと躾け直してやるからな」
とセレスティアに言われて、水音も「ええ?」となった。
そして、
「まったくよぉ。オイ、水音、それに春風」
「「?」」
ギルバートがズイッと春風と水音に近づいて、
「お前ら、俺らに内緒とは良い度胸してるじゃねぇか」
「「いえ、そのぉ……」」
「言っておくが、ひっそりとなんてさせねぇぞ。この一件が終わり次第、もう一度闘技場で決闘開催だからな!」
「「ええっ!?」」
「そしてお前ら2人とも、もう俺達ウォーリス帝国のものだからな! コイツは決定だ、異論も拒否権も認めねぇからな!」
「「そ、そんなぁあああああ!」」
ギルバートの言葉を聞いて、2人は同時にそう悲鳴をあげた。
それを聞いて、その場にいる者達は全員笑い出した。
今回はいつもより長い話になりました。
そして、次で第8章は終わりです。




