第185話 春風vs水音15 水音の「力」
水音が固有職保持者に覚醒した同時刻。
場所は地球、国は日本。
それは、とある大きな和風の屋敷にて、1人の和服姿の女性が、とある一室を見ていた時だった。
「!」
不意に何かの気配を感じたその女性は、辺りをキョロキョロと見回したが、そこには誰もいなかった。
しかし、それでも何かを感じた女性は、ポツリと小さく呟いた。
「……水音?」
その呟きに応える者はなかった。
すると、
「お母さん?」
廊下の曲がり角から、1人の少女が現れて、その女性をそう呼んだ。
「どうかしたの?」
少女が心配している表情でそう尋ねると、女性は首を横に振るって、
「なんでもないわ、ごめんね」
と、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
その後、女性は部屋の戸を閉めると、少女と共にその場を後にした。
そして今、その水音がいる異世界エルードでは、
「ふ、ふざけるなぁっ!」
と、怒りの形相の女神マールが、春風と水音に向かって何本もの水の槍を放った。
「来るよ、水音!」
「ああ!」
2人は放たれたその水の槍を、全て紙一重で回避した。
しかし、
「まだまだぁ!」
マールはその後も、更に何本も水の槍を増やして、
「まずはお前だ、勇者……いや、反逆者水音ぉ!」
その全てを、水音に放った。
「あ、危ない!」
と誰かがそう叫んだが、肝心の水音は落ち着いた様子で、
「はあああああああ……」
と、右手に力を溜めているかの様な仕草をした。
すると、水音の右手から青い光が噴出し、大きな握り拳を作りあげた。
水音はそれを見て「よし」と頷くと、
「[鬼闘術]、怒剛拳!」
と叫び、迫ってきた水の槍に向かってその青い大きな握り拳を突き出した。
そして、水の槍が拳に当たった瞬間、パァンと大きな音を立てて、水の槍は全て消滅した。
「な……馬鹿な!」
あまりの出来事に、マールは呆然となった。
そんなマールを前に、水音は「フゥ」と一息入れていると、
「おお、スゲェ! 久々に見たよその力!」
と、春風が目をキラキラさせて近寄ってきた。
水音はちょっとだけギョっとなった後、苦笑いして口を開く。
「うん、僕も驚いてるよ。ちょっと変わった形になったけど、こんな風に力を出せたの、本当に久しぶりなんだ」
「え、そうなの……って、そういえば決闘中その力使ってなかったよね? 何で?」
「……実は、この世界に召喚されてから、思うように力が引き出せなかったんだ」
「マジで?」
「マジで。でも、今なら何でそうなったのかわかった気がする」
水音はそう言うと、未だ呆然としているマールの方を向いて言う。
「あいつが僕に植え付けた職能が、僕の力を抑え込んでたんだ。だから力を引き出す事が出来なかったんだ」
「成る程、そう言うわけか」
「でも、今の僕なら、この力を地球にいた時以上に使いこなせる事が出来るかもしれない」
水音のその発言に、ハッとなったマールは、
「な、な、舐めるなぁ!」
と、怒りに任せて攻撃してきた。
だが、やはり水音は落ち着いた様子で、今度は両手でそれぞれ青い握り拳を作り、
「怒剛拳、連打ぁ!」
と、先程放った技の両手バージョンを、その攻撃に向けて放った。
結果、全ての攻撃は水音に当たる前に消滅した。
「そ、そんな……」
その事実に、マールは再び呆然となった。
「フゥ」
「大丈夫、水音?」
明らかに疲れた様子の水音を見て、春風が心配そうに声をかけると、
「久々に力を使って暴れたから、結構疲れた」
と、息を切らしながら答えた水音だったが、その表情は、何処か満足気だった。
春風はそれを見て、「フフ」と小さく笑うと、
「じゃ、水音はちょっと休んでて」
と言って、未だに立ち直ってないマールを見ると、
「今度は、俺が凄いのを見せる番だ!」
と、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「え、な、何をする気なの?」
水音が恐る恐る尋ねると、
「決まってんだろ……」
春風は胸を張って答えた。
「必殺技だ!」
それを聞いた水音を除く全ての人々は、
『な、なんだってぇえええええええっ!?』
と、皆一斉に驚きの声をあげた。




