第183話 春風vs水音13 「鬼」、誕生
時は少し遡り、意識と無意識の狭間にて。
「やめろぉおおおおおおおっ!」
そう叫んだ時、水音の体が青く光った。
「何!?」
もう1人の水音がそれに驚いていると、水音を拘束していた両腕の鎖が、バリンと大きな音を立てて砕け散り、その勢いに乗って、
「うおおおおおっ!」
「ぐあっ!」
水音はもう1人の水音を、力いっぱい殴り飛ばした。もう1人の水音は突然の事に対応出来ず、殴られた勢いでその場に尻餅をついた。
「く。な、何故だ? 君は、彼を倒したいんじゃなかったのか? その為に強くなりたいんじゃなかったのか?」
もう1人の水音は殴られた部分を押さえながら、水音に向かってそう尋ねると、
「お前は『僕』の癖に、『僕』の事何にも理解してないな」
と、水音は息をきらしながらそう答えた。
もう1人の水音が「何だと?」と言うと、
「僕が強くなりたかったのは、春風を助ける為だからだ!」
「……どういう意味だ?」
水音の言葉に、もう1人の水音はポカンとなった。そんな彼に構わず、水音は話を続ける。
「確かに春風は凄い奴だよ。どんなにピンチになっても、それを覆す程の奇跡を起こして、最後はカッコ良く切り抜けて、そんなあいつを何度も『凄い』、『カッコ良い』、『羨ましい』って思ったさ」
「……」
「だけどある時、師匠が僕にこう言ったんだ」
ーーあの子はいつだって、誰かの笑顔にする為に全力を出しちゃうわ。
ーーでもその所為で時々、自分の事を蔑ろにしちゃう事があるの。
ーーもし私の手の届かない所で、あの子が取り返しのつかない事になってしまったら、私はきっと、色んな意味で壊れてしまう。
ーーだから水音、もしも私が動けなくなる様な事になったら、私の代わりに春風を助けてほしいの。
ーーどんな手段を使っても良いから、お願い。
「そしてその言葉を聞いてから暫くして、師匠の言葉が本当だって理解させらたんだ。このまま春風をそのままにしたら、きっと何処かで動けなくなって、やがて潰れてしまうってね」
「……だから、彼を助ける為に強くなりたいと?」
「ああ、そうだ。いつかあいつが本当に潰れそうになった時、『弟弟子』としてじゃなく、時には『友達』として、時には『ライバル』として、あいつを助けたいって、そう心に決めたんだ」
真面目な表情でそう話した水音を見て、もう1人の水音は顔を下に向けて「そっか」と小さく言うと、
「なら、僕は消えるよ。君の話を聞いてたら、僕は存在しちゃいけないって事がわかったから」
と、スッと立ち上がって水音の前から消えようとした。
だが、
「待てよ!」
「え?」
水音はガシッともう1人の水音の腕を掴んだ。
もう1人の水音は再びポカンとした表情になって、
「どうして?」
と尋ねると、
「春風はどんな人間だって簡単に見捨てようとはしなかった。だから、僕もお前を見捨てたりなんかしない。お前にはこのまま僕の中で、僕という人間の生き様を見てもらうからな」
「……君は……」
その会話の後、2人の体は青い光に包まれた。
その際、頭の中で、「声」が聞こえた。
そして今、現実では、
「よせ! 抵抗するな! 女神に従え!」
「嫌だぁあああああああっ!」
女神マールに対してそう叫んだ瞬間、水音の体から青い光が発せられた。
青い光は、まるで燃え上がる炎の様に大きくなり、見ている者達全てを圧倒した。
「み、水音ぉ!」
そんな状態の水音を見て、意識を取り戻していたセレスティアは叫んだ。
一方、水音と向かい合ってる春風はというと、
「大丈夫、水音?」
と、仁王立ちを崩さずにそう尋ねた。
それに対して、水音は青い光に包まれた状態で、
「ありがとう、春風。僕を信じてくれて」
と、春風にお礼の言葉を言ったので、春風はニコリと笑った。
そんな春風に向かって、水音は話を続ける。
「そうだ、凄く面白い事が起きたんだ」
「何?」
そう尋ねた春風に、水音は頭上にいるマールをチラリと見て答える。
「悪い奴とはいえ、神様に逆らったら……」
水音はスッと右手を差し出して、春風に「あるもの」を見せた。
それは、自身のステータスの一部で、そこにはこう記されていた。
桜庭水音(人間・男・17歳) 職能:戦鬼
「『職能:戦鬼』って、もしかして……」
春風が尋ねようとすると、水音はそれを遮って答える。
「うん。僕も、固有職保持者になっちゃった」
『な、なんだってぇー!?』
水音の言葉を聞いて、春風を除いた誰もがそう驚きの声をあげた。
そんな中、ギルバートはというと、
(そうか、そうだったんだな)
青い光に包まれた水音を見て、心の中で呟く。
(桜庭水音……)
ーーお前が、『青き悪魔』だったんだな。
以上、水音君の覚醒回でした。
そして、誠に勝手ながら、前回の話に出てきた春風君の「力」についての文ですが、水音君が弟子入りした時点で既に持っていた為、その部分について修正しました。
本当に申し訳ありませんでした。




