第173話 春風vs水音3 水音、猛攻
「ま、『マジでかかってきな』だと?」
春風からの明らかな挑発とも言えるその言葉に、水音は歯をギリっとさせると、春風を睨みつけて叫んだ。
「言われなくても、そのつもりだぁ!」
次の瞬間、水音の体から金色の光が発せられた。
それを見て、実況席のジョリーンが口を開く。
「おおっと、春風君の挑発を受けて、怒った水音君の体の体が金色の光に包まれたぞぉ! 陛下、これは一体何が起こったのでしょうか?」
ジョリーンから話を振られて、ギルバートは真面目な表情で答える。
「フム。あれは聖戦士のスキル、[聖闘気]だな。僅かだがダメージを回復し、さらに身体能力を大幅に強化する事が出来る」
ギルバートの説明を聞いて、ジョリーンが「ほほう」と言うと、
「それだけじゃありません!」
と、闘技台の水音がそう叫んだ。
ジョリーンが「?」を浮かべると、水音は持っていた長剣を構え直すと、
「ハァアアアアア……」
と、意識を集中するかの様な仕草をした。
すると、長剣の柄にはめ込まれた青い宝石から光が発せられ、その光が漆黒の刀身を包んだ。
「な、何だぁ!? 水音君の剣が、何やら妙な事になっているぞぉ!? 陛下、これは一体何が起こっているのでしょうか!?」
驚いたジョリーンがギルバートにそう尋ねると、ギルバートは「フム」と言って、再び真面目な表情で答える。
「水音が持っている剣の名前は、『魔剛剣ガッツ』。高い魔力伝導率を誇る恐ろしく固い金属で鍛えられた剣でな、頑丈でそのままでも十分強力だが、ああして魔力を纏わせる事によって更なる破壊力を生み出す事が出来るんだ」
「な、なんと!」
「そうさ、この剣と、この鎧は、僕の為に陛下が用意してくれた最高の剣と鎧。そして、この日の為に磨き上げた『聖戦士』の能力と帝国騎士の技をもって、春風……」
水音は漆黒の長剣ーーガッツの切先を春風に向けて言い放つ。
「僕は、君に勝つ!」
「……かかってきなよ」
「いくぞ!」
そう叫んで、水音は春風に突撃し、近くまで来た所でガッツを振り上げると、春風めがけて、思いっきり振り下ろした。
(お、こりゃやべぇ!)
間一髪の所でその攻撃を避けた春風だが……。
ズガァアン!
勢いのまま振り下ろされた漆黒の刃が、それまで春風が立っていた辺りに大きなクレーターを作った。
「おお、なんつう威力だよ……」
あまりの威力に、春風はボソリと小さく呟いたが、
「逃がさない!」
と、その後も水音は何度も春風にガッツによる斬撃を浴びせようとした。
しかし、春風は寸前でそれを回避するか、時折自身の魔力を纏わせた彼岸花で応戦した。勿論、その際に魔術を使おうかとも考えたが、水音のあまりにも素早い動きに邪魔されて、とてもそんな事が出来る状況じゃなかった。
(どうしよう。[気配遮断]で時間を稼ぐか、それとも……)
春風はどうにかこの状況を打破しようか考えたが、
「甘い!」
「!?」
驚いた春風が目の前を見ると、そこには今にも技を発動しようとする姿勢の水音の姿があった。
「くらえ! 剣技、『流星3連』!」
そう叫んだ水音から放たれたのは、先程水音が放った『流星刃』の斬撃で、しかも、それが3つもあった。
「くっ!」
春風は咄嗟に両腕でガードしたが、斬撃の1つが春風の右腕をかすった。小さく切り裂かれた春風の右腕から、今にも破れてしまいそうな包帯が見えた。
(まずいな、こっちも反撃しなきゃ!)
そう考えた春風だったが、動こうとした次の瞬間、春風を強化していた魔術が、全て消えた。
(げ! こんな時に!)
「今だ!」
水音はそう言って春風に向かってガッツを振るった。
春風は弱っていながらも彼岸花で打ち返そうとしたが、力いっぱい振るわれたガッツに叶うわけがなく、あっさり彼岸花が手から離れた。
(しまった!)
「もらったぁ!」
と、水音が再び春風めがけてガッツを振り下ろそうとした、まさにその時、
「負けるかぁ!」
何と、春風はガントレットを纏った左腕ではなく、何も持ってない右手を、振り下ろされたガッツの前に差し出したのだ。
すると次の瞬間……。
バチィン!
「な!?」
春風の右腕から発せられた赤い稲妻の様なものが、ガッツを弾いたのだ。
春風からのまさかの抵抗を受けて、水音はバランスを崩してその場に尻餅をついた。
「い、一体何が!?」
驚く水音を前に、春風は今にも解けそうな右腕の包帯を外した。
『ああっ!』
と、驚きの声をあげた観客達が見たのは、
「……出来れば見せたくなかったんだけどなぁ」
傷だらけになった春風の右腕だった。
ちょっと文章的におかしなところがあったらごめんなさい。




