第172話 春風vs水音2 春風の魔術
春風の「スキルいらないでしょ」発言を聞いて、水音だけでなく周囲の人達は皆、開いた口が塞がらなかった。
ただ1人、師匠の間凛依冴だけは、「アハハ」と腹を抱えて大笑いしていた。
そんな状況の中、
「じゃ、今度は俺の番かな」
と春風は真っ直ぐ水音を見てそう言うと、スッと左手を水音に向けて、
「求めるは“風”、『ウインド』!」
と、自分で作った風の魔術「ウインド」をぶっ放した。
「!?」
突然春風から放たれた突風に驚いた水音は、咄嗟に横に動いてそれを避けた。その後、突風はそのまま水音の後ろの壁に激突した。
「げっ! しまった!」
攻撃を避けられた春風は、すぐに「ウインド」が当たった部分を注視した。何故なら、壁の向こうは観客席になっていて、丁度そこに多くの人が座っていたからだ。
(だ、大丈夫かなぁ……)
と、恐る恐る「ウインド」が当たった部分を見ると、表面が少しへこんだだけで観客達に被害はなかった。
「ああ、良かったぁ」
と、安心した春風がホッと胸を撫で下ろすと、
「じゃないだろ!」
水音から突っ込みを受けた。
「ぬお! どうしたの!?」
「どうしたのじゃないよ! 今のって、セイクリアの王城で見せた魔術(?)だよね!? 僕あれから調べたけど、あんな魔術見た事ないよ!」
「あぁ、そりゃそうだよ。だって俺が作った魔術だから」
春風のその答えを聞いて、水音は「は?」と首を傾げた。それは、観客達も同様だった。
春風は「ハァ」と小さく溜め息を吐くと、
「もう隠す意味もないから説明するね」
と、観念した様子で説明を開始した。
「今ぶっ放したのは『ウインド』っていって、この世界に来る前に俺が作った風の魔術さ」
「魔術を、作った!?」
「そう、あらゆる魔術を生み出し、意のままに操る。それが俺の固有職能『半熟賢者』の能力さ。と言っても、まだ半人前だからそこまで強いものは作れないけどね」
「な、なん……だって……?」
春風の説明を聞いて、水音と観客達は再び開いた口が塞がらなくなった。
ただ、観客の一部はその説明に目をキラキラと輝かせていた。
それが、「魔術師」系の職能保持者だと後で知ったのだが、今はそれは置いておこう。
「うーん。でもこりゃ考えて使わないと観客達にも被害が出るなぁ」
春風は暫く考えていると、閃いたかの様に「よし」と小さく呟いて、自分の胸に左手を当てた。
そして、そっと静かに目を閉じて、小さく、しかし力強く唱えた。
「求めるは“火”、攻撃強化、『パワーブースト』!」
「!?」
「求めるは“土”、防御強化、『ガードブースト』!」
「!?」
「求めるは“水“、頭脳強化、『ブレインブースト』!」
『!?』
「で、最後に、求めるは”風“、高速動作、『アクセルムーブ』!」
驚いく水音達を他所に春風がそう唱えると、春風の体が、赤、オレンジ、青、緑色の光に包まれた。否、『包まれた』というより、それはまるで服を着ている様な感じだった。
「よし、準備完了」
と、春風はそう言うと、水音の方を向いて、
「じゃあ水音、続きといこうじゃないか」
「つ、続きって……」
水音が最後まで言おうとした次の瞬間、それまで水音とは離れた位置にいた春風だったが、一瞬で水の側まで近づいていた。
「な!?」
そして、持っていた彼岸花を水音めがけて振るった。
「く!」
当たる寸前にところで、水音は長剣を振るって春風の彼岸花を弾いた。
しかし、それで春風は止まらなかった。
攻撃を弾かれた瞬間、春風はすぐに体勢を立て直し、水音の腹めがけて何発ものキックをお見舞いした。
スキル[体術]に加わって、オリジナルの強化魔術による強化が加わっている為、その鋭さは格段に上がっていた。
「このぉ!」
水音は素早く長剣で蹴りをガードしたが、威力が強いのか危うく闘技台の外にまで吹き飛ばされそうになった。なんとか踏ん張ったが、水音の息は荒くなっていた。
そんな水音を見て、
「水音、強くなったってんならマジでかかってきな。でないと……」
春風は静かに言い放つ。
「怪我じゃすまねぇかもしれないぜ?」




