第171話 春風vs水音
決闘開始直後は、春風と水音による刀と剣のぶつけ合いから始まった。
春風が持つ真紅の刀と、水音が持つ漆黒の長剣が、闘技台の上で何度も激しくぶつかり合い、お互い一歩も引かない状態が続いている。
それが、リアナ達やエリノーラら皇族達、そして観客達を魅了した。
そんな状況の中、実況席のジョリーンが口を開く。
「さぁ、ついに始まりました、2人の異世界人による決闘! 開始早々両者、持っている剣を振るって華麗な戦いぶりを見せています! えーと、凛依冴さんでしたね? 師匠として2人戦いを見てどう思いましたでしょうか?」
「そうね。まだ始まったばかりだけど、2人共結構強くなってるわ」
「おお、そうですか! では恵樹さんは、同じ勇者としてご感想はありますか?」
「そうですね。『強くなってる』っていう点では凛依冴さんと同意見ですが、俺的に驚いている点がいくつかありますね」
恵樹のその言葉を聞いて、今度はギルバートが質問してきた。
「ほほう、それは一体どんな点なんだ?」
「まず、俺ら異世界の人間には『異世界人』という称号がありまして、ざっくり言いますとこの称号にはレベルアップ時のステータスの成長に上昇補正がかかるっていう特性があります。それに加えて、俺らとあそこで戦っている桜庭君には『勇者』という称号が追加されてて、こちらも『異世界人』と同じくステータスの成長に上昇補正がかかります。故に、俺らはこの世界の人達よりも高いステータスを誇っていると言って良いでしょう」
「ほうほう」
「ところが、これはハルッちから聞いた話なんですが、ハルッちには『勇者』の称号がないんです。先程も説明しましたが、『異世界人』と『勇者』の称号にはステータスの成長に補正がかかるのですが、ハルッちの場合は成長補正が『異世界人』のものだけになります。つまり、能力的には俺らよりも2分の1劣っているという事になります」
「そうなのか!?」
「ええ。それと、もう1つ驚いてるのは、ハルッちの職能についてです」
「おぉ、確か『半熟賢者』だったな」
「そうです。これは創作物の中での話になりますが、俺らが知ってる『賢者』っていうのは、悪い奴の魔の手から世界を救う勇者のパーティメンバーの1人で、この世界風に言いますと、あらゆる魔術の扱いに長けた、バリバリの後衛職なんですよ」
「ほほう、後衛……て、ちょっと待って! 彼、後衛職だったの!?」
ジョリーンは春風を指差しながら驚きの声をあげた。
「そうなんですよ。本来は後衛職にも関わらず、あれだけの近接戦闘が出来るって事に、俺すっごく驚いてるんですよねぇ」
恵樹は「ハァ」と溜め息を吐きながらそう言うと、そこにギルバートが続いた。
「それだけじゃねぇ。今水音が身につけている装備品は、我がウォーリス帝国に住む最高の職人達が作り上げた最高のものだ。故に、それらの性能もステータスにプラスされている」
「そ、それって……」
冷や汗をタラリと流すジョリーンに、凛依冴が告げる。
「そう。つまりこの決闘、いくらレベルが同じでも、ステータス的に不利なのは春風の方なのよ」
凛依冴の言葉を聞いて、ジョリーンは「そんな」と顔を青ざめた。
一方、闘技台で春風と戦っている水音はというと、
(そう、今師匠が言った様に、ステータスは僕の方が有利なはずなんだ。だけど……)
水音は長剣を構え直すと、目の前の春風を見て、
(だけど、何でだ!? 何で目の前にいる春風を見ても、『勝てる』ってイメージが浮かばない!?)
と、心の中で疑問を叫んだ。
彼岸花を構えて真っ直ぐな眼差しを向ける春風に、水音はビビって後ろに下がりそうになったが、
(いや、駄目だ! ここでビビってたら駄目だ!)
と、首を横に振るって自身を奮い立たせると、
「ハァアアアアア……」
と、持っている長剣に意識を集中し出して、
「剣技、『流星刃』!」
春風に向かって技を放った。
小さな光の粒の様なものが混ざった黒い斬撃が、春風に襲いかかってくる。
しかし、春風は全く動じた様子もなく、寧ろ落ち着いた様子でその斬撃を見ると、スゥッと息を吸って、
「カァッ!」
と、力いっぱい叫んだ。
すると、黒い斬撃は春風の目前で、ボンッと消滅した。
水音は、目の前で何が起きたのか理解出来なかった。それは、実況席と観客席にいる人達も同じだった。
「い、今、何をしたの?」
水音はビビりながらそう尋ねると、
「気迫でかき消しました」
と、春風は真面目な表情で即答した。
「それは、スキルによるものなの?」
再び水音はビビりながらそう尋ねると、
「いや、かき消すだけなら、スキルいらないでしょ」
と、春風はあっけらかんとした表情で答えた。
それを聞いて、水音だけでなく実況席にいる人達と観客達、そして特別席に座る人達は、
『な、なんじゃそりゃあああああああ!?』
と、驚きの声をあげた。




