第169話 決闘開始……と思ったら
「勝つのは僕だ!」
「いいや。勝つのは俺だ!」
春風と水音がそう言い放った瞬間、闘技場内が一気に緊張に包まれた。そんな雰囲気の中、実況役の女性が口を開いた。
「え、えー、なんか私が話し始める前に変な空気になってしまいましたが、お待たせしました! ただいまより、皇妃エリノーラ様主催のビッグイベント、同じ異世界から来た2人の少年による、1対1の決闘を開始します! 実況役は私、ジョリーン・アラバスターと!」
「皇帝のギルバート・アーチボルト・ウォーリス……て、ちょっと待て、『エリノーラ主催』だと!? 発案したの俺なんだけど!?」
「え? ですが、発案も主催も、エリノーラ様って事になってますけど?」
「な、何だと!? おいコラ、エリー、これはどういう事だぁ!?」
と、特別席にいるエリノーラに向かってそう怒鳴ったギルバートだが、とうのエリノーラは「オホホ」と笑いながら明後日の方を向いていた。
悔しがるギルバートを他所に、ジョリーンは再び口を開く。
「えー、ギルバート陛下は置いといて、実況役は私達の他にもう2人」
「勇者代表、野上恵樹です」
「今日の主役の師匠、間凛依冴です」
「が、お送りします! どうぞよろしく!」
と、ギルバートが「え、俺の扱い酷くない?」と尋ねるのを無視してジョリーンがそう告げると、観客席にいる人達は一斉に「ワアアア!」と歓声をあげた。
「えー、それでは決闘開始前に、まずは本日の主役である2人の少年について紹介しましょう!」
と、ジョリーンがそう宣言すると、まずは水音の方を向いた。
「まずはこちら、名前は桜庭水音君! 長きに渡る封印から目覚めた邪神を倒す為に、異世界から召喚された勇者の1人です! 今はとある理由により召喚者側であるセイクリア王国を離れ、この帝国にて修行中との事です! そんな彼の職能は『聖戦士』! 果たしてどの様な戦いを見せてくれるのでしょうか!?」
と言ってジョリーンが紹介し終えると、再び観客席から歓声が上がると共に、
「頑張れよー!」
「応援しているぞー!」
と、あちこちから水音を応援する声もあがった。
「水音、結構応援されてるね」
「ここに来て、いっぱい知り合いが出来たんだ」
声援を受けて、春風と水音がそんな事を話し合っていると、ジョリーンは今度は春風の方を向いた。
「そして、そんな水音君と戦うのは、可愛い女の子みたいな顔をしていますが実はれっきとした少年、幸村春風君! 彼もまた水音君と同じく異世界から召喚されたそうですが、今はハンターの「ハル」として活動中との事です!」
と、そう紹介した瞬間、観客席から、
『な、何ぃい!?』
と驚きの声があがったが、ジョリーンはそれを無視して紹介を続ける。
「えー、そんな春風君ですが、何と水音君とは同じ師匠を持つ弟子同士との事です! 実況役の凛依冴さん、先程2人の師匠を名乗ってましたが、事実なのですか?」
「ええ、事実よ。2人共、私の自慢の弟子達なの。因みに、春風が兄弟子で、水音が弟弟子ね」
「成程……ん? ちょっと待ってください、という事は、もしかしてあなたも異世界人なのですか?」
「そうよ、2人と勇者達と同じ世界から来たの。改めてよろしくね」
ニコッと笑ってそう言った凛依冴に、ジョリーンは暫くの間固まっていると、
「えー、色々突っ込みたい気持ちはありますが、ここはスルーしましょう」
と、ジョリーンは春風の紹介に戻る事にした。
だが、
「えーと、そんな春風君の職能ですが……え?」
と、春風の職能を紹介しようとして、何故か固まってしまった。
ギルバートは気になって、
「おい、どうした?」
と尋ねると、
「職能は、『半熟賢者』……て、固有職能!?」
と、ジョリーンは驚きのあまりそう叫んだ。
すると、観客席は一旦静かになって、
『何ぃいいいいいいい!?』
「「ブフォオオオオオオオ!?」」
と、再び驚きの声があがり、春風と水音は一斉に噴き出した。
「え、ちょ、ちょっと待って!? これどういう事!? ギルバート陛下、何か知ってますか!?」
「いや、俺に聞くなよ! 俺にもわかんねぇよ!」
ジョリーンとギルバートがそう言い合ってると、
「それは、私が説明しましょう!」
と、特別席からエリノーラがそう叫んだ。何故か、マイクを片手に持って。
「えー、コホン。そう、先程ジョリーンちゃんが言った様に、そこにいる幸村春風ちゃんは、固有職能『半熟賢者』を持つ固有職保持者。そして、それと同時に……」
『?』
「異世界『地球』の神々によってこの世界に送り込まれた、いわば『異世界の神の使徒』だったのよぉ!」
マイクを手にそう叫んだエリノーラの言葉を聞いて、観客席はシーンと静まり返ると、
『な、なんだってぇえええええええっ!?』
と、三度驚きの声があがった。
そして、まさかの暴露をされた春風はというと、
(ちょおっとおおおおおおお!? 何してんのあんたぁあああああああ!?)
と、心の中で悲鳴をあげた。




