第165話 春風と歩夢
「お、幼なじみ?」
春風の言葉に、リアナはキョトンと首を傾げた。そしてそれは、イブリーヌも同様だった。
春風は「うん。そうだよ」と言うと、2人に説明を始めた。
「自分で言うのも恥ずかしいんだけど、俺、小さい頃は友達がいなくて、いつも1人だったんだ」
「え、そうなの!?」
「そうだったんですか!?」
「うん。あの頃は俺自身も『別に1人でいいや』って考えてて、必要な時以外は1人で本を読んだり、簡単なものだけど自分で作ったおもちゃで遊んでたんだ。そしてそんな風に過ごしていた時に、ユメちゃんに出会ったんだ」
その説明にリアナとイブリーヌが唖然としていると、今度は歩夢が話し始めた。
「私も、フーちゃんに出会うまではずっと1人ぼっちだった。と言っても、私には兄がいたから、そんなに寂しくはなかったんだけど」
「「そうだったの(ですか)!?」」
「うん。実を言うと大変言いづらいんだけど、私の家はその、ちょっと『特殊』というか、『ヤバすぎる』って言えば良いのかな? そんな理由で周りから怖がられてて、私から話しかけると逃げちゃうって事が多かったんだ」
「「えぇ?」」
「だけどそんなある日に、フーちゃんが作ったおもちゃを拾ったのがきっかけで仲良くなったんだ。フーちゃんは、私の家の事を話しても全然怖がったりしなくて、むしろ親身になって話を聞いてくれたの」
「うん。それから何度か遊んでいるうちにお互いの家族とも仲良くなって、時々家族ぐるみで遊びにも行くようになったんだ。あ、因みに、師匠に出会ったのも丁度その頃だよ」
「「そ、そうだったの(ですか)!?」」
「私も、凛依冴さんとは何度もお世話になった事があるよ。ただ、『異界渡り』だっていうのは今日初めて知ったんだけど」
「うん。それは、俺も同じ」
「「……」」
「おっと、話が逸れちゃったね。とにかく、俺もユメちゃんも、そんな感じで仲良く過ごしてたんだ。勿論、目立たず騒がずに、ね」
「そこは大事なの!?」と突っ込むリアナとイブリーヌを見て、春風と歩夢は「ハハハ」と笑った。
だが、その後すぐに真面目な表情になって、
「だけど、今から7年前、そんな楽しかった日々に『終わり』が来てしまったんだ」
「終わりって?」
「何があったのですか?」
そう尋ねた2人に、春風は「フゥ」と深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。
「『事情』があって詳しく話す事は出来ないけど。7年前、俺は両親の仕事の都合で、遠い異国の地へと行く事になったんだ。そして、そこで凄惨な『事件』に遭遇し……俺を守って、両親が死んだんだ」
「ええっ!?」
「そんな!」
「……」
「その後、生き残った俺は、助けてくれた人達の手によって、1人故郷の国に戻ってきたんだ。だけど……」
「まだ何かあるの!?」
「ああ、その時出会った国のお偉いさん方の話によると、どうも俺が遭遇した『事件』は、想像をはるかに超えた厄介なもので俺が生きてるって事がバレたら、命が危ないだけじゃなくてその周囲にも危険が迫るものだったんだ。それを回避する為に、俺はその人達との話し合って……俺は、両親と共に死んだって事になったんだ」
「そ、そんな……」
春風のその話を聞いて、リアナとイブリーヌは顔が真っ青になった。歩夢はというと、辛そうに顔を下に向けていた。
「そしてその後、俺は死んだ父さんの知り合いだったオヤジーー今の家族に引き取られて、新しい生活を送る事になって、それから1年後に師匠に再会して、彼女の弟子になったんだ。当然、何かのきっかけで俺の事がバレない様に、お偉いさん方関係の『組織』の監視付きでね。ユメちゃんとは今の学校に入るまで、それっきり会ってないってわけさ。辛かったよ本当に」
と、春風は説明を終えると、「ハハ」と苦笑いした。そんな春風を見て、リアナとイブリーヌはショックで開いた口が塞がらず呆然とした。
そして歩夢はというと、
「うん。私も、フーちゃんとフーちゃんの両親が『死んだ』って聞いた時、本当に辛くて、悲しかった。悲しかったんだよぉ」
と、顔を下に向けたまま小さく震えていた。
膝の上に置いた握り拳には、ポタポタと涙が落ちていた。
今回は、会話が多めの回でした。




