第164話 語り合いからの、修羅場再び
お待たせしました。前回短かったぶん、今回は少し長めです。
「そうですか、イブリーヌ様にとって、ウィルフレッド陛下は『良い王様』であるのと同時に、『良いお父さん』でもあったんですね」
それが、イブリーヌからウィルフレッドについての話を聞き終えて、春風が最初に感じたところだった。
「はい。お父様はわたくし達家族や臣下、そして民の幸せの為に、毎日一生懸命国王としての仕事をこなしていました。わたくしとクラリッサお姉様は、そんなお父様の事をとても尊敬しています。ただ……」
「ただ?」
「春風様はご存じないかもしれませんが、セイクリアは表向きは『王国』と名乗っていますが、現実は五神教会の方が影響力が大きく、幾らお父様が頑張っていても、認めないどころか陰で嘲笑っている者が多くいるのです」
「そんな! いえ、教会が裏で国を支配しているという話は聞きましたが、そこまで酷いのですか!?」
「ええ、特に現教主であるモーゼス・ビショップは……って、覚えてないでしょうか? 召喚が行なわれた日に謁見の間にいた、その、身なりが少々派手な神官ですが」
イブリーヌのセリフを聞いて、春風は召喚が行なわれたあの日の事を思い出していた。そして暫くすると、
「あ、思い出しました。そういえば陛下達の側にそんな人がいました」
「はい、そうです。そしてそのモーゼスなのですが、彼は聖職者という身でありながら、かなりの野心を持っていまして、そのうちお父様を追い出して、自分が王になろうとしているのではないかという噂をよく耳にしています」
(マジかよ。とんでもねぇなそりゃ)
イブリーヌの説明に、春風は内心かなり引いていた。それと同時に、そのモーゼスという男はいつかは戦う事になるかもしれないと、なんとなくそう思った。
そんな春風を前に、更にイブリーヌは説明を続ける。
「ですが、全ての教会信者達がそうだというわけではありません。僅かではありますが、わたくしの様にお父様を尊敬してくださってる方もいます。そしてそれは、国民も同じです」
「……そうですか」
説明を聞き終えて、春風はホッと胸を撫で下ろして、
「俺、そんな凄い人に対して、酷い事言ってしまったんですね?」
と、イブリーヌに尋ねた。
イブリーヌは両手と首を横に振りながら、
「そ、そんな、どうかお気になさらないでください! 春風様のあの物言いも、春風様が国を飛び出した事にも、ちゃんとした理由がある事は十分に理解しましたし……」
「ですが、あの時の俺は、故郷が危機に晒された怒りで、陛下達だけでなく、先生やクラスのみんなにも酷い事を言ってしまった。その、こんな事を聞くのはおかしいでしょうけど、陛下は、俺の事を恨んだり、憎んでました?」
恐る恐るそう尋ねた春風に、イブリーヌは首を横に振って答える。
「いいえ。お父様もお母様も、春風様の事を本気で理解しようとしてました。特に水音様から、春風様と水音様、そしてお師匠様の凛依冴様との冒険譚を聞いて、お父様はそれはもう目をキラキラと輝かせてました」
「ちょっと待って、俺の水音と師匠の冒険譚って何ですか? ていうか、水音から聞いた?」
「はい、春風様が出てってから数日後に、水音様から聞きました。大活躍したそうですね?」
「く! 水音の奴、内緒にしてくれって言ったのに」
「話はそれてしまいましたが、先程も言いました様に、お父様はあなたの事本当に理解しようとしてました。あの暴言だって、今はもう気にしておりません。むしろ……」
「むしろ?」
「あの時の暴言を聞いて、お父様、キュンとなったそうです」
「……はい? はいぃっ!?」
「お父様だけでなく、お母様も同様でした」
「何ですと!?」
「そして、わたくしも」
「うっそだろオイ!?」
顔を赤くしたイブリーヌによるまさかのカミングアウトに、春風は敬語にするのを忘れてそう叫ぶと、「何てこった」と頭を抱えた。だがここで「?」となって、イブリーヌに質問した。
「ま、待ってください。まさか、クラリッサ様も?」
「いえ、お姉様は春風様を許さないと言ってました」
(あ、良かった! クラリッサ様はまともだ!)
ホッと胸を撫で下ろす春風を見て、イブリーヌは意を決したかの様に春風に近づいた。
「春風様」
「な、何でしょうか?」
距離が近くなったので思わず後に下がった春風に、イブリーヌは更に近づくと、
「春風様、わたくしは、わたくしはあなたの事が……」
「わ、ま、待って、待ってくださ……」
春風がイブリーヌのセリフを止めようとした、その時、
「「駄目ぇえええええええっ!」」
「「!?」」
大きな音と共に開かれた部屋の扉の向こうから、物凄い形相のリアナと歩夢が入ってきた。
「り、リアナ!? それに、ユメちゃん!?」
春風が「どうしてここに!?」と尋ねようとすると、リアナと歩夢はガシッと春風の両腕にしがみついた。
「ふ、2人とも!?」
「ハル、絶対聞いちゃ駄目だからね! イブリーヌ様も、それ以上は言っちゃ駄目ですからね!」
「うん! フーちゃんは絶対に渡さない!」
そう叫ぶ2人に春風とイブリーヌはオロオロしてると、
「ていうか、ユメさんとやら、あんた、ハルとどういう関係なの!? それと『フーちゃん』て何!?」
何故か勢い余って歩夢にそう尋ねたリアナ。
歩夢は一瞬キョトンとなったが、すぐにニヤリと笑うと、先程以上に春風の腕に強くしがみついた。
お互い睨み合うリアナと歩夢を見て、春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、
「……幼なじみだよ」
「え?」
その言葉に首を傾げたリアナとイブリーヌを前に、春風は気まずそうに言った。
「ユメちゃんと俺は、小さい頃に生き別れになった、幼なじみなんだ」
「……(コクン)」
「「……え?」」




