第159話 春風と水音の「約束」
3年前。
それは、水音が「師匠」ーー間凛依冴の弟子になって、まだ間もない頃のことだった。
「だ、大丈夫、水音君?」
とある出来事を体験して放心状態になった水音を心配して、春風は恐る恐るそう尋ねた。
「全然、大丈夫じゃない、怖かった」
水音はなんとか口を動かしてそう答えると、春風は「うーん」と考え込んだ。
すると、春風はとある「提案」を思いついた。
「じゃあ、こうしよう!」
「?」
その後、春風は水音に、その「提案」を説明すると、
「……わかった。その提案、受けるよ」
と、水音はその「提案」に賛成した。
「オッケー! じゃあ、『約束』だ!」
そう言って、春風はスッと水音の前に拳を出した。それを見て、
「ああ、『約束』だ」
と、水音も拳を出して、春風の拳にコツンとぶつけた。
そして、3年経った現在。
「僕は君に、一対一の『決闘』を、申し込む!」
ウォーリス帝国の帝城。その謁見の間にて、水音は春風に、決闘を申し込んだ。
『な、なんだってぇえええええーっ!?』
春風を除いてその場にいる者達全員がそう叫ぶと、
「ちょっと待てよ、桜庭! お前、こんな時に何言ってんだよ!?」
「そうだよ、何言ってんのかな桜庭君?」
「そうよ! この世界と地球が消滅の危機なのよ!? そんなの後にしなさいよ!」
と、鉄雄、恵樹、美羽が水音に詰め寄った。
しかし、
「勿論わかっているよ。だけど、これは僕にとって、どうしても必要なことなんだ」
と、水音は落ち着いた表情でそう返した。
その時、ハッと何かに気づいた春風は、水音に向かって質問する。
「そっか。君は、俺と交わした、あの時の『約束』を果たそうとしているんだね?」
その言葉を聞いて、鉄雄を美羽が「?」を浮かべると、
「ああ。あの時の『約束』を果たす時が来たんだ」
と、水音は真剣な表情でそう答えた。
「あのー、ハル。『約束』って何?」
リアナは訳がわからないといった表情で、春風にそう尋ねた。それに対して、春風は真っ直ぐ水音を見つめたまま答える。
「3年前、俺は水音と約束したんだ。『水音が強くなったと思えるその時まで、俺が水音を守る。そして、水音が強くなったと思える様になったら、その時は一対一で勝負しよう』ってね」
「そうだ。そして僕は、この国に来て強くなったって思ってる。この国で出会った人達が、僕を強くしてくれたんだ。ただその為に、先生とクラスのみんなを置いてったのは申し訳ないって思ってるよ。だからこの一件が終わったら、みんなにキチンと謝罪する。でもその前に、僕は手に入れたこの強さで君に勝負する。そして、僕が勝つ!」
そう決意を明らかにした水音を見て、春風は下を向いた。
「正直なところ、俺、やっぱり自分に自信が持てないよ。本当に強くなってるのかわからないし」
「なら、尻尾を巻いて逃げ出すかい?」
「いや、しないけど」
「ゴフッ!」
自信なさげに答える春風を水音は挑発したが、思わぬ即答を受けてしまい、水音は精神にダメージを受けた。
「うおおーい、何やってんのハル!? ていうか即答!? 逃げる気ゼロなの!?」
驚いたリアナに詰め寄られる春風。
だが、春風はリアナを見ずに答える。
「ああ、全然ないね」
「何で!?」
春風は不敵な笑みを浮かべて答える。
「だって、勝つのは俺だから」
その答えに、全員開いた口が塞がらなかった。そんな彼らを無視して、春風は水音に向かって言い放つ。
「てな訳だ、水音。受けて立つよ、君のその『挑戦』を!」
すると、その時だった。
「その意気やよーし!」
と、何処からか女性のものと思われる声がした。
その声を聞いた春風達が「なんだなんだ?」と辺りをキョロキョロすると、春風の手に持っていた零号の画面が激しく光り出し、そこから「何か」が飛び出して、春風の目の前に着地した。
「な、何だ!?」
突然の事に驚いた春風が、恐る恐るその着地した「何か」を見ると、
「ヤッホー! 来ちゃった!」
そこにいたのは、動きやすそうな服に身を包み、黒いショートヘアがよく似合う何処か野生的な雰囲気をした、1人の20代くらいの女性だった。
その女性を見て、春風と水音は、
「「し、師匠ぉおーっ!?」」
と、揃って驚きの声をあげた。




