第158話 水音からの「挑戦」
「み、水音、何を言っているの?」
水音が言っていた「良かった」というセリフを、春風は理解出来なかった。そんな春風に向かって、水音は穏やかな笑みを浮かべたまま話を続ける。
「春風、君がセイクリアを去ったあの日から、僕はずっと不安だったり、悲しかったり、恨んだり憎んだりもしてたんだ。ひょっとして君は、何かとんでもないことに巻き込まれているんじゃないか? それとも、ただ単純にセイクリアが気に食わないから去ったんじゃないか? あるいは、この世界そのものが憎いから、ぶっ壊そうとしているんじゃないかって、そんなことをずっと考えてたんだ」
「……」
「でも、今日君の話を聞いてわかったんだ」
「……何がわかったの?」
震えた声でそう尋ねる春風に、水音は優しく答える。
「君は、全然変わってないってことさ」
「……は?」
「地球にいた時から、君はいつだって、誰かを笑顔に、幸福にする為に自分に何が出来るかをを考えて、それを実行に移したり、どんなに悪い奴だって、最終的には見捨てずに助けようとしたり、どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めたりしなかった」
「……それは、買い被り過ぎだよ。俺は、そんな大層な人間じゃない」
「でも、今君は、地球だけじゃなく、この世界も守ろうと、救おうとしているんだろ?」
「……うん。俺、この国に来る前にも、フレデリックさん……ハンターギルドの総本部長さんに誓ったんだ。『地球も、この世界も、両方守ります』って」
『!』
春風のその言葉を聞いて、謁見の間にいる者達全員の表情が明るくなった。特にそれまで虚ろな表情で話を聞いていたイブリーヌは、
「は、春風様!」
と、その目に涙を浮かべていた。
そして、ギルバートはというと、
「……ハハ、なにが『情けない』だよ」
と、小さく呟いた後、
「お前、思いっきりカッコいいじゃねぇかよ!」
春風を見てそう言った。
「ぎ、ギルバート陛下……」
驚いた春風に、ギルバートは真面目な表情で話を続ける。
「話を纏めると、ようするにアレだろ? お前は、大事なものを守る為に立ち上がった。で、そこにいる神様に自分の意志と覚悟を示して、で、契約して『力』を手に入れてこの世界に来て、そんで今は仲間作ってこの世界も守ろうと頑張っている最中ってことなんだよな?」
「まぁ、そうですけど」
「だったら、それでいいじゃねぇか。そんだけお前は、『成長した』って事じゃねぇかよ」
「成長?」
「そうだ! 大体な、本当に情けない奴が、あんな男どもの心を1つにする様な叫び、あげられるわけねぇだろ!?」
ギルバートの言葉を聞いて、リアナ達七色の綺羅星メンバーと歩夢ら勇者達は、ハッとループスの分身との戦いの後、春風がハンターと騎士達の心を一つにした叫びをあげたことを思い出した。
そんな状況の中、
(そ、そうなのかな?)
と、春風が自信なさそうにそんな事を考えていると、ギルバートは今度は水音の方を向いて質問した。
「で、水音。お前はこんなスゲェ奴と肩を並べようとしているんだよな?」
その質問に、水音はコクリと頷きながら答える。
「そうです、陛下。その為に僕は、『強くなろう』と思ってこの国に来たんです」
「ふむ。で、こいつの話を聞いて、どう思った?」
水音は少し考える仕草をした後、真っ直ぐギルバートを見つめて答える。
「助けたい。春風が歩もうとしているのは、想像を絶するくらいの危険に満ちた道ですから。だからその為に、僕は……」
そう言うと、水音はビシッと春風を指差して言い放つ。
「春風、僕は君に、挑戦する!」
「は? ちょ、挑戦?」
「そうさ、僕は君に、一対一の『決闘』を、申し込む!」
そう言い放った水音の言葉に、春風を除いた全員が、
『な、なんだってぇえええええーっ!?』
と、今日一番の高い驚きの声をあげた。




