第155話 神は集い、そして……
「よろしいのですか?」
「ええ、お願い」
「……わかりました」
電話の相手とそうやり取りした後、春風は手に持った零号を掲げた。その際、集まっていた勇者達は離れた。
七色の綺羅星メンバーを除く周囲の人達が「?」を浮かべた次の瞬間、零号の画面が光り、魔法陣が描かれて、そこから腰まで届く長い黒髪を持つ、白いワイシャツと青いジーンズ姿の女性が現れた。
『だ、誰?』
と誰もがその女性に見惚れていると、
「はじめまして、私の名は、天照大神。日の本の『太陽』を司る女神。アマテラスって呼んでね」
と、その女性、アマテラスはみんなの前でそう名乗った。
すると、
「えぇっ!?」
「ね、ねぇ、天照大神って……」
「日本神話の最高神じゃない!」
と、歩夢達は驚きのあまりそう叫んだ。それを聞いて、ギルバートら皇族達は全員、ゴクリと緊張した様子で身構えた。
そんな彼らを他所に、アマテラスは「うーん」と周りを見回すと、先ずは歩夢達に向かって、
「ヤッホー、春風君のクラスメイト達! はじめまして!」
と、まるでごく普通のお姉さんの様に片手を小さく振って挨拶をした。それを見て、歩夢達はぎこちなさそうに頭を下げた。
次にアマテラスはギルバートら皇族の方を向いて、
「はじめまして、ウォーリス帝国の方々。水音君がとってもお世話になったわね」
と、チラリと水音を見た後、「ありがとう」とお礼を言った。
そして、アマテラスは最後に、イブリーヌとディックの方を向くと、
「よくもやってくれたわね、このルール違反者が!」
と、ギロリと睨みながらそう言った。それを聞いて、イブリーヌは「ヒッ!」とすくみあがった。
その後、アマテラスは何事もなかったかの様に表情を切り替えると、
「さて、お集まりの皆さん。色々と話をする前に、ここにもう1柱呼びたいんだけど、良いかな?」
と周囲の人達にそう尋ねた。
周囲の人達は全員「うんうん」と頷くと、
「ありがとう」
と、アマテラスはそう言って、まるで何処かにテレパシーでも送っているかの様なポーズをとった。その仕草に、春風を除いて誰もが「??」と首を傾げていた。
暫くすると、謁見の間の中央で、大きな光の塊が現れ、やがてそれは大きな白い扉になった。
「うおっ! 何だぁ!?」
突如現れたその扉に、ギルバートを含む周囲の人達が驚くと、ギィッと音を立てて扉が開き、その向こうから東洋の民族衣装の様な服を着た、長い赤髪に金色の瞳を持つ10歳くらいの少女が出てきた。
謁見の間にいる誰もが「誰?」と再び首を傾げると、
「あ、お母さん」
と、リアナがポロリとそう口にしたので、皆一斉に、
『え、お母さん!?』
と、驚きの声をあげた。
アマテラスはそんな彼らを無視して少女の隣に寄ると、
「紹介するわね、みんな。この子はヘリアちゃん。この世界の、本当の神様の1柱よ」
と言って、少女の肩に手を置くと、
「はじめまして、皆さん。私の名前は、ヘリアテス。『太陽と花』を司る女神。そして、皆さんが『邪神』と呼ぶ存在です」
と、その少女ーーヘリアテスは、穏やかな笑みを浮かべてそう自己紹介した。
すると、
『ええぇーっ!』
と、多くの驚きの声が、謁見の間に響き渡った。
その時、何かに気付いたギルバートが、
「は、ちょっと待て! リアナ・フィアンマ、お前は先程、彼女の事『お母さん』って呼んでたな?」
と、リアナの方を向いてそう尋ねた。
「リアナ……」
春風は心配そうにリアナに声をかけると、
「大丈夫だよ、ハル」
と言って、リアナはニコリと笑って首のチョーカーを外した。
次の瞬間、リアナの髪は白く変色し、その間からピョコンと僅かに尖った耳が現れ、お尻からは白い狐の尻尾が出てきた。
「そ、その姿は!?」
驚くギルバートに、リアナは真っ直ぐな眼差しを向けて答える。
「改めて、はじめまして。私の名は、リアナ・フィアンマ。人間、獣人、妖精の血をひく混血で、『予言』に出てくる『真の神々に育てられし白き悪魔』です」
『ええぇー!?』
「じゃあ、こちらにいる……」
「はい。ここにいる『太陽と花の女神ヘリアテス』は、私のお母さんです」
「……て事は、もう1柱の……」
「はい。邪神ループス……いえ、本当の名は『月光と牙の神ループス』。私の、お父さんです」
『えええぇーっ!?』
「……マジかよ」
周囲が驚きの声をあげ、ギルバートがタラリと冷や汗をかくと、
「そして、もう1人……」
と、アマテラスはそう言って、春風の隣に立つと、
「ここにいる春風君は、私と同じ『地球の神』の1柱、オーディンと契約を結んだ者にして、同じく予言に登場する『異界の神々と契りを結びし赤き悪魔』です」
「……どうも」
アマテラスに紹介され、春風が申し訳なさそうにそう言うと、
『ええええぇーっ!?』
と、それまで以上の大きな驚きの声があがった。
次々と出てくるとんでもない事実に、七色の綺羅星のメンバーを除いた全員が固まっていると、
「おい、幸村春風」
と、ギルバートが話しかけてきたので、春風が「はい」と返事すると、
「説明、してくれるんだろ?」
と尋ねてきたので、春風はアマテラスの方を向いた。
「大丈夫よ」
アマテラスはニコリと笑ってそう言うと、春風は意を決して言った。
「わかりました、皆さんに『全て』をお話しします」
その後春風は、文字通り全てを話した。




