第153話 2人が見た「惨劇」
「あの、それは、どういう意味でしょうか?」
「言葉の通りだ。17年前、俺とウィルフはあんたがあの『予言』を遺して死んだ場面を見たって言っているんだ」
ジゼルの質問に対してそう答えるギルバート。するとそこへ、
「ちょっと待ってください陛下、今のは一体どういうことですか!? いえ、それ以上に、お父様も見たとはどういう意味ですか!? わたくしは、そんな話聞いたこともありません!」
と、興奮した様子のイブリーヌが、声を荒げてギルバートに問い詰めた。
「おいおい、落ち着けってイブりん……」
ギルバートはそう言ってイブリーヌを宥めようとしたが、
「その呼び方やめて下さい!」
と、怒ったイブリーヌは更に興奮してしまい、結局その後、ディック、彩織、詩織によってどうにか落ち着いた。
その様子を確認すると、春風はギルバートに向き直って、
「すみませんがギルバート陛下、詳しい話を聞かせてください」
とお願いした。
「ああ、わかった」
そう答えたギルバートは、その時のことについて語り始めた。
「17年前、俺とウィルフは五神教会お抱えの異端者討伐部隊『断罪官』の任務に同行した。といっても、その時は連中の荷物の中に隠れてたんで、『同行』したとは言えないがな」
「何故、その様な事を?」
「連中がどういった仕事をしているのか知りたくてな。で、その時新たな異端者が現れたんで出動するって話を聞いて、こりゃあ丁度良いやと思ってな、たまたま仕事で疲れ切ったウィルフを連れ出して、隠れてついてったってわけさ」
(この皇帝は一体何をやっているんだ?)
あまりにもあっけらかんと話すギルバートに、春風達は呆れ顔になったが、その後ギルバートは直ぐに真面目な表情になって話を続ける。
「だが、目的の場所で俺とウィルフが見たのは……『異端者討伐』という名の、虐殺だった」
『……え?』
「その時の連中の任務は、とある小さな村に逃げ込んだ異端者の夫婦の抹殺だった。で、その2人は抵抗虚しく殺されたんだが、なんと連中は、村に火を放った後、逃げ惑う村人達を次々と殺害していったのさ。若者だけじゃなく老人や女、子供、更には赤ん坊まで殺しやがった」
「ひ、酷い!」
「何だよそれ!」
「最低!」
ギルバートの話を聞いて怒りをあらわにする歩夢ら勇者達。そして、イブリーヌとディックはショックのあまり顔を青ざめていた。
そんな彼らを前に、ギルバートは更に話を続ける。
「で、俺とウィルフはというと、出来るだけ連中に見つからない様に逃げ惑う村人達を逃していったんだ。下手したら俺らまで異端者認定されてぶっ殺されかねないからな」
『……』
「で、ある程度逃したところで、俺らが最後に見たのは、幼い子供の亡き骸を抱えた婆さん、あんただった」
「っ!」
「あんたは連中に問うたよな? 『そんなに人殺しが楽しいか?』とな。で、それを聞いた連中の1人はこう答えた」
ーー楽しい楽しくないは関係ない。異端者とそれに関わる者全てを抹殺する。それが「神」のご意志だ。
「……てな」
「……っ」
「それを言ったのは、当時の大隊長だった。今は引退しているが、あの時そう言った奴の、氷の様に冷たい眼差しは、今も覚えているよ。で、そのセリフを聞いて発狂したあんたは、例の『予言』を叫んだ後、そいつの部下に首を刎ねられて死んだ。違うか?」
ギルバートにそう問われると、ジゼルは体を震わせながら答える。
「……そうです。その後、どういうわけか成仏しないで幽霊となっていた私は、あちこちを彷徨った後、リアナ様や春風様らに出会い、今に至るわけです」
と、ジゼルは顔を下に向けてそう話した。
「……辛い事を思い出させて悪いと思っている。だが、全部を説明するためには、どうしても今言った部分を話さないわけにはいかなかった。許してほしい」
「……いえ、大丈夫です」
ギルバートの謝罪にそう返したジゼル。その時、一筋の涙が彼女の頬を伝っていくのを見て、春風は悲しい気持ちになった。
その後、
「それで、生き残った村人はいたのですか?」
と、ジゼルがギルバートにそう尋ねると、
「ああ、僅かだがいるよ。あの後連中が帰ったのを見計らって村に戻した後、連中に殺された人達を埋葬したんだ。勿論、ウィルフも一緒にな」
「! 本当ですか!?」
「ああ。少し前に様子を見に行ったら、みんな元気に暮らしてたよ」
と、ニッコリ笑って話すギルバートを見て、
「……そうですか」
と、ジゼルは安心した笑みを浮かべた。
そんな彼女の表情を見て、
(良かったね、ジゼルさん)
と、春風は心の中でそう呟いた。
謝罪)
度々すみません。前回の後書きにも追加しましたが、第59話に出てきた予言も、誠に勝手ながら修正しました。




