第151話 みんなも、バラします
「き、君は、固有職保持者だったのか?」
苦しそうな表情を浮かべてそう尋ねるディックに、春風は真っ直ぐな目を向けて答える。
「はい」
「しかも、『賢者』なのか?」
「ええ。といっても、半人前の『半熟賢者』ですが」
「だが、『賢者』なのだろう?」
「……まぁ、そうなんですが」
春風がそう答えてから暫く沈黙していると、
「あの、ちょっとよろしいですか?」
という声がしたので、春風達は「何?」と声がした方に振り向くと、
「『固有職能』とか『固有職保持者』って何ですか?」
と、「はーい」と手を上げた美羽がそう尋ねてきた。
「そ、それは……」
質問を受けたディックが答えるのを躊躇っていると、
「『固有職保持者』ってのは、神様の加護を持たねぇ特殊な職能『固有職能』ってのを持つ職能保持者の事で、五神教会からは『悪魔』と呼ばれて異端視されているのさ」
と、ディックの代わりにギルバートが答えた。
『あ、悪魔!?』
その答えに驚く歩夢ら勇者達に向かって、ギルバートは更に説明を続ける。
「そうだ。そして『賢者』ってのは、この世界で最初に誕生した固有職保持者の職能で、教会からは『始まりの悪魔』と呼ばれている」
ギルバートの説明に、歩夢達は開いた口が塞がらなかった。春風はそんな彼女達を無視して、ディックに向き直る。
「そう、俺には『悪魔』の力が宿っている。それで、ディックさん」
「な、何だ?」
「俺が『悪魔』だという事を知って、どうする気ですか? 今すぐセイクリア王国に帰って、ウィルフレッド陛下や教会のお偉いさんにでも報告しますか? それとも……」
ーーゴクリ。
「今この場で、俺を斬りますか?」
春風のその質問を聞いて、ディックは震えながらも腰の剣に手をかけようとしたが、
「……やめておくよ、勝てる気がしないからな。それに……」
「?」
「そんな事をしたら、君の仲間達に殺されそうだ」
と、ディックが答えた次の瞬間、勇者6人を除いた七色の綺羅星メンバーが、春風の前に集まってディックを睨みつけた。
「リアナ、みんなも……」
春風がちょっとジーンとしていると、リアナがディックに向かって口を開く。
「ハルに指一本触れさせない」
「……君は、彼の事を知っていたのか?」
「知ってるよ。私だけじゃない。ここにいるアデル達もそう」
「……彼に悪魔の力があると知って、何も思わないのか?」
「問題ないよ。だって……」
リアナはスッと右手を出すと、自身のステータスを開き、
「私も、固有職『妖獣戦士』の固有職保持者だから」
と、自身の職能名を周りに見せた。
『な、なんだってぇえええええ!?』
まさかのカミングアウトに、驚きの声をあげた勇者達とイブリーヌ、ディック、そして皇族達と騎士達と水音。
更に、
「わ、私も……」
『え?』
首を傾げた人達を前に、ルーシーも、
「私も、ゆ、固有職『呪術師』の、固有職保持者、です!」
と、自身の職能名を見せた。
『えええええええっ!?』
ルーシーのカミングアウトに再び驚く人達。
そして更に、
「私もいますぞ」
と、何処からか声がしたので、周囲の人達は辺りをキョロキョロと見回した。
すると、
「ここですよ」
と再び声がしたので、全員その声がした方に向くと、
「どうも」
と、先程までニコラが抱きかかえていた人形が、右手を上げた状態で床の上に立っていた。
『???』
と、周囲の人達がその人形をジッと見つめていると、
「お初にお目にかかります、ギルバート陛下。私の名は、アイザック・トワイライト。今はこの様な人形ですが、こちらにいるルーシー・トワイライトの祖父にして、固有職能『人形使い』の固有職保持者です」
と、その人形ーーアイザックは、ギルバートに向かって丁寧なお辞儀をした。
それを聞いて周囲の人達は、
『しゃ、しゃべったぁあああああ!』
と、またも驚きの声をあげた。
「おいおい、どうなってんだ? その人形(?)を含めて固有職保持者が一気に4人なっちまったぞ?」
と、ギルバートが「どうしたもんか」といった言った表情でそう言うと、
「あー、すみません」
と、春風が申し訳なさそうに手を上げてきたので、ギルバートは「どうした?」と尋ねると、
「実は、もう1人紹介したい人がいるんです」
と言って、春風は左腕のガントレットーーアガートラームから零号を外し、画面に向かって、
「すみませんジゼルさん、ちょっと出てきてもらって良いですか?」
と声をかけた。
すると、零号の画面が光って、そこから現れたのは、
「な、何だ? 若い女性?」
そう、20代くらいの若く美しい女性だった。
周囲の人達がその女性に見惚れていると、
「……誰?」
と、春風はただ1人首を傾げた。
周囲が「え?」と言って春風の方を向くと、若い女性は恥ずかしそうに答える。
「私です。ジゼル・ブルームです」




