第150話 春風、バラします
「ギ、ギルバート陛下、何を言っているのですか?」
ギルバートの突然の質問の意味を、イブリーヌは理解出来ないでいた。イブリーヌだけでなく、側にいるディックも、そして、歩夢ら勇者達でさえも、いくつもの「?」を浮かべていた。
一方、リアナ達「七色の綺羅星」のメンバーは、質問してきたギルバートに対して警戒心剥き出しの表情になっていた。そして、いざという時の為にいつでも動けるような態勢になった。
しかし、春風はスッと静かに手を上げて「待った」をかけると、「ハァ」と溜め息を吐いて、
「すみません、質問の意味を聞いてもよろしいでしょうか?」
と、落ち着いた口調でそうギルバートに向かって尋ねた。
すると、ギルバートは「おっと」と言わんばかりの表情になって、
「おぉ、いきなりで悪かったな。水音から聞いた話だが、お前、ウィルフに職能の種類について質問したな?」
「ええ、しました」
「で、その答えを聞いた時、お前が僅かにショックを受けた様な顔をしていたと言ってたんだ」
(え、マジで!? 俺、顔に出してた!?)
まさかの自身でさえも知らなかった事実に、春風はショックを受けた。
だが、そんな春風の事などお構いなしに、ギルバートは話を続ける。
「で、その後、騎士と神官達をぶちのめしたお前は、何者かと問うたウィルフに対してこう名乗ったそうだな?」
ーーちょっとユニークな、一般人だ。
「その言葉を聞いて、俺は考えた。もしかしたら、お前が目覚めたのは何らかの固有職能で、しかもお前自身その事を知っていたのではないかとな」
真剣な表情で話すギルバートの話を、春風達は黙って聞いていた。そして、
「で、どうなんだ?」
と、もう1度質問するギルバートに、春風は再び「ハァ」と溜め息を吐き、
「ま、いつかは話さなきゃいけねぇもんな」
と、ボソリと呟いた後、リアナ達の方を向いて「ごめん」と手でそう伝えると、自身のステータスを開いて、職能名だけを残して他を消し、
「そうです。俺は固有職能『半熟賢者』の固有職保持者です」
と、職能名をギルバートに見せてそう答えた。
次の瞬間、
『えぇーっ!』
と、春風の周囲の人達は驚きの声をあげた。その後、
「フーちゃん、それ本当!?」
「お、おい、嘘だろハル!?」
「ハルッち、『剣士』じゃなかったの!?」
「あ、あなた『賢者』だったの!?」
「ていうか、固有職能とか固有職保持者って何!?」
「いや、それ以上に……」
『“半熟”って何だぁっ!?』
と、歩夢ら勇者達に詰め寄られて、春風は「うーん」と考え込んだが、普通に答える事にした。
「『半人前』って意味だって」
『半人前!?』
春風の話を聞いて、再び驚きの声をあげた歩夢達。
すると、そこへ「?」を浮かべたリアナが入ってきて、
「あれ、ちょっと待って。ハル、『見習い賢者』だったでしょ!?」
『見習い賢者!?』
リアナの質問に、歩夢達はまたも驚きの声をあげると、春風はまた普通に答えた。
「ああ、ランクアップしたんだ」
『ラ!?』
「ランク、アップ?」
「ほら、ウォーリス帝国に来る前に神官達を精神的にボコってきたでしょ? あの後直ぐにレベルアップして、その時に一緒にランクアップもしたんだ」
「あ! あの時か!」
「うん、そう。だから、今の俺はハンターとしても賢者としても、漸く半人前になりましたって事さ」
その言葉を聞いて、リアナとアデル達七色の綺羅星メンバーは「おお!」と拍手をした。拍手された春風は照れ臭そうに顔を赤くした。ー
一方、歩夢ら勇者達は、意味がわからないのか口をアングリしたまま呆然としていた。それは、イブリーヌとディックも同様だった。
そして、ギルバートら皇族と水音、そして帝国の騎士達は皆、「ほほう」と好奇心に満ちた目をしていた。中でも第3皇子オズワルドは、特に目をキラキラさせていた。
誰もが言葉に出来ない雰囲気の中、1人の人物が、
「ちょっと待て。ちょっと待ってくれ!」
と声を荒げた。
それを聞いた春風達が「ん?」と声がした方を向くと、そこにいたのは、
「フーッ! フーッ!」
と、苦しそうに肩で息をするディックだった。




