第149話 再会、春風と水音
(うわぁ。水音、すっごいカッコ良くなってるぅ)
セイクリア王国を出てから4ヶ月と数日。再会した水音は、春風から見て凄くカッコ良くなっていた。
適度に短い髪はビシッと整えられていて、顔つきと体つきも何処か逞しさを感じさせ、身に纏っている白銀の胸鎧と、腰に挿した鞘に収まった一振りの長剣がとてもさまになっていた。
(うぅ、向こうはなんか強そうになっているのに、それに比べて俺は……)
春風はその場に倒れそうになった。この4ヶ月と数日で、水音はかなり強く、そしてカッコ良くなってるのに対し、「地球とこの世界を救う」という目的があるとはいえ、自分は漸くハンターとしても賢者としても半人前になったばかりという事実が、春風の心に重くのしかかっていたのだ。
「春風、どうしたの?」
そんな事を考えているとは知らず、水音は春風に声をかけてきたので、ハッとなった春風は平静を装って答える。
「ん? 何でもない、大丈夫大丈夫。それより水音、凄くカッコ良くなったね。びっくりしたよ」
「うん、ここに来てからセレティア様や帝国の騎士の皆さんに鍛えられたからね」
「そうだったんだ」
「でも、春風の方こそ凄く強くなってるよね?」
「いや、そんな事はない! 俺、水音が思っている程強くはないと思う!」
水音にそう尋ねられて、春風は必死になって否定した。しかし、
「あ、あれ? みんな、どうしたの? 何でそんな目で俺を見てるの?」
リアナや歩夢達、そしてギルバートまでもが、
「お前、何言ってんの?」
と言わんばかりの表情で視線を向けてきたので、春風はオロオロしだした。
ギルバートはそんな春風を見て「ハァ」と溜め息を吐くと、
「あー、すまないが、感動の再会はその辺にして、そろそろこっちの話をしたいんだが」
と提案してきたので、春風は心の中で「助かった」と思い、リアナ達に一緒にギルバートの話を聞くよう促した。
その後、謁見の間にいる者達全員がギルバートの話を聞く姿勢に入ると、
「今回の邪神の眷属の討伐、皆、ご苦労だった」
と、ギルバートは皇帝としての威厳に満ちた姿勢で話し始めた。そして、春風の方を向いて、
「特に幸村春風、お前の活躍が大変素晴らしかった。邪神の眷属を相手にたった1人で立ち向かい、途中奴に飲み込まれた俺達を助け出す為に、危険を承知で奴の体内に飛び込み、見事に俺達を救い出す事に成功し、さらにその後、奴によって心を折られた勇者達を奮い立たせ、彼らと共に奴を倒した」
と、淡々と話すギルバートの話を聞いて、周囲の人達(リアナ達を除く)は「おお!」と驚きの声をあげた。それは、水音も同様だった。
ただその際、隣のエリノーラが、
「おい、今のはどういう事だコラ」
と黒いオーラを纏った笑みを向けてきたが、ギルバートは無視した。
そんな中で、春風はギルバートに質問する。
「あの、ギルバート陛下。もしかして、自分が助けに飛び込んだ時、あなた起きていました?」
ギルバートはニヤリと笑って答える。
「ああ、お前が俺と勇者達が倒れていた部屋に来た時点で、俺はとっくに目覚めていた。どんな方法で脱出するのかを知る為に、気を失ったフリをしていたのさ」
(うわ、マジっすか)
「その結果、お前は『空を飛ぶ絨毯の様な魔導具で俺達全員を運び出して脱出する』というとんでもない方法をとった事実を知ったのさ」
ギルバートのその言葉に、周囲の人達はさらに「おおっ!」と驚きの声をあげた。
しかしそれに対して、春風は真面目な表情で、
「お言葉ですがギルバート陛下、自分は、自分に出来る最大限の行動をしたまでです。邪神の眷属のことだって、最終的にはトドメを刺したのは勇者達ですし……」
と否定しようとしたが、
「ちょ、ちょっとハル! 何言ってんの!?」
「フーちゃん、どうしてそんなこと言うの!?」
「そうだぞ! お前の活躍のおかげで俺ら勝ったんだぞ!」
「そーだよハルッち、自信持ちなよぉ!」
とリアナ達に詰め寄られて、春風は「えぇ?」となった。
するとそこへ、
「そうだ。お前は凄い活躍をしたんだ」
とギルバートが真面目な口調でそう言ってきたので、春風達は一斉にギルバートを見た。
「初めてお前のことを水音から聞いて、『なんともスゲェ奴だな』とは思っていたが、実際に見て見ないことにはなんとも言えんなとも思っていた」
『……』
「だが今回、お前の活躍を見て、水音が言っていたことは全て事実だと思い知らされ、是非とも我がウォーリスに欲しいと強く思ったんだ」
「ギルバート陛下……」
「そして、思ったからこそ、お前にどうしても聞きたいことがある」
ギルバートのそのセリフに、春風は「何だろう?」と首を傾げると、ギルバートは真っ直ぐ春風を見て質問した。
「お前、固有職保持者だろ?」




