第144話 悪夢
お待たせしました、1日遅れの投稿です。
「ごめんね春風君、間に合わなかった」
アマテラスにそう言われて、春風は「え?」となった。
「あ、あの、間に合わなかったって、何がですか?」
恐る恐るそう尋ねた春風に、アマテラスは申し訳なさそうに答える。
「地球は、もう駄目みたい」
「ちょ、ちょっと待ってください! それって……」
「見て、地球が消滅していくわ」
「そ、そんな!」
アマテラスに促されて、春風は地球が消えていく様子を見た。
「ああ、地球が……消えていく」
「君はよく頑張ったわ。今まで、ありがとう」
そう言うと、アマテラスは春風の目の前から消えた。
アマテラスだけでない。ゼウスやオーディン、さらに他の地球の神々も、皆春風の前から消えた。
そして、何もない真っ白な空間に、春風だけが残された。
「そんな、俺の、俺の所為で、俺が、もう少し早く、そんな、嫌だ、嫌だ、嫌だぁあああああっ!」
そう叫ぶと、春風はその場に膝から崩れ落ちた。
だが、
「春風様っ!」
自身を呼ぶの声を聞いて、春風は「ハッ!」と目を覚ました。
「大丈夫ですか春風様!?」
声がした方を向くと、そこにはイブリーヌがいた。
いや、イブリーヌだけでない。側には心配そうに春風を見つめるギルバートとディックもいたので、春風は漸く、自分が置かれている状況を思い出す事が出来た。
そう、ここはウォーリス帝国の馬車の中で、自分は今、皇帝であるギルバートの招待を受けて、仲間達と共にウォーリス帝国に向かっている途中だったのだ。
そして、その最中、「邪神の眷属」ことループスの分身との戦いの疲れが出たのか、知らないうちに眠ってしまったのだ。先程まで見た地球消滅の光景は、どうやら夢の中での出来事のようだった。
暫くの間ボーッとしていると、
「オイ、大丈夫か幸村春風」
「春風様?」
と、ギルバートとイブリーヌに話しかけられたので、
「え? あぁ、はい、大丈夫です、ご心配おかけしました」
と、春風は慌ててそう答えた。
しかし、
「いや、どう見ても『大丈夫』って感じじゃねぇだろ。すげぇ汗かいてるぞ」
と、ギルバートにそう指摘されて、春風は「え?」と言って自身の首に触れると、
「うわ! ホントにすごい汗」
と、ギルバートの言った通り、確かに汗でびっしょりと濡れていた。
(うわぁ、お姫様と皇帝陛下の前で寝ているとか俺恥ずかしい〜)
と、春風が自身にドン引きしていると、
「あの、春風様……」
と、イブリーヌが話しかけてきた。
「え? あ、はい、何でしょうか?」
「春風様、もしかして何か『怖い夢』を見ていたのですか?」
「はい?」
いきなりそう質問されて、春風は思わず「?」を浮かべた。
「何故、その様な事を聞くのですか?」
「だって……」
イブリーヌは懐からハンカチを取り出すと、ソッとその手を伸ばし、春風の目元を拭って、
「春風様、泣いていましたから」
と言った。
「……へ?」
春風は一瞬呆けた後、直ぐに腰のポーチから小さな鏡を取り出して自分の顔を見た。
(うお! 何じゃこりゃあ!?)
そこには、イブリーヌの言った通り、汗と涙を流す自分の顔があった。
春風は恥ずかしさのあまり自分の顔が熱くなったのを感じた後、
「す、すみません! みっともない所をお見せしてしまって!」
と、ひたすら頭を下げて謝罪した。
ギルバートはそんな春風に、
「ああ、いいよいいよ、お前も色々あったんだなってわかったから。まぁ、後でその辺の事も話してもらうからなって事で」
と、手を軽く振りながら「気にするな」といった感じでそう返した。
それを聞いて、「うぐ……」と春風が唸っていると、ギルバートは窓の外を見て、
「お、わりぃ、直ぐにでも馬車をとめて休憩といきたい所だが、もうちょっと我慢してくれ」
「?」
首を傾げる春風に、ギルバートは指を差しながら窓の外を見る様に促した。
春風は促されるままに窓の外を見ると、その指の先には大きな都市の様なものが見えた。
「あ、あそこってもしかして……」
と、春風が口を開くと、ギルバートはニヤリと笑いながら答える。
「そ。あそこが、我がウォーリス帝国の帝都さ」
「帝都。そうですか」
と言って、春風は一瞬視線を落としたが、再び真っ直ぐ帝都を見て、心の中で呟く。
(あそこに、水音がいる)




