第139話 そして、少年は叫んだ・2
今回は、サブタイトル「そして、少年は叫んだ」の、第2弾です。
「もしかして、勇者諸共邪神の眷属を抹殺するつもりだったのかなぁ?」
春風のその質問は、周囲の人達を動揺させた。
誰一人その質問に答える事が出来ない中、イブリーヌが口を開いた。
「あ、あの、『勇者諸共』とは、どういう意味なのですか?」
困惑した表情で出したその質問に、春風が答える。
「ああそれはですねイブリーヌ様、この腕輪、神官達がテツ達につけた物なのですが、調べてみた結果なんと大爆発を起こす危険な物で、しかも遠隔操作でも爆破させる事が出来るのです。そして恐らくそれが出来るのは、こちらにいる神官達なのでしょう。そしてこのクレイグは、それがわかったからこうして彼らを拘束したという訳です。因みに、実行しようとしたのは、みんなが邪神の眷属に飲み込まれた時ですかね。丁度いいと判断したのでしょう」
「そ、そんなぁ!」
春風の説明を聞いて、イブリーヌはショックのあまりその場に膝から崩れ落ちそうになったが、
「イブリーヌ様!」
と、側にいたディックによって支えられた。
その後、ディックは神官達を睨みながら問い詰めた。
「神官達よ、これはどういう事だ! 彼が言った事は全て事実なのか!?」
「う。そ、それは……」
神官達の代表者は「出鱈目だ!」と答えようとしたが、先程の春風とのやり取りの後では全く意味の無い事だとわかっているので、それ以上何も言えなかった。何より他の神官達の態度が、全て事実であると物語っていた。
「貴様ら……」
ディックは怒りのままに腰の剣を抜こうとしたが、
「あ、ちょっと待ってくださいディックさん」
と、ここで春風が待ったをかけた。
「む! 何故止める!?」
「ショックを受けてるイブリーヌ様の目の前で、人斬りなんてするもんじゃありませんよ」
春風のセリフを聞いて、それまで暗かった神官達の表情が一気に明るくなった。
「お、おお! 其方は我々を許してくれるのか!?」
と、特に明るくなった代表者が春風に尋ねた。だが、
「は? 許す訳ねーだろ、馬鹿か?」
『グボォッ!』
春風は、容赦無く代表者と神官達に言葉の暴力を浴びせた。それも即答で、だ。
思わぬ精神的ダメージを受けた彼らを前に、春風は話を続ける。
「みんなを置いてセイクリアを飛び出した俺に、こんな事言う資格が無いのはわかっているが、敢えて言おう。お前達は、俺の仲間を人間爆弾にしようとした。それも、俺の大事な人をだ。それだけでも許せねぇが、何よりも許せねぇのが……あ、ちょっと失礼」
そう言った後、春風は歩夢の方向いて、
「あー、これ言うと誤解されるかもしれないから、先に謝るよ。ごめん」
と、右手を少し上げて、「ごめんなさい」のポーズをとった。
そして、それを見た歩夢がコクリと頷いたのを確認すると、春風は神官達に向き直って口を開いた。
「で、何よりも許せねぇのが……」
ーーご、ゴクリ。
「こんな危ねぇ物を、10代の女の子につけたと言う事だぁーっ!」
その言葉を聞いて、ハッとなった男達(神官達を除く)は叫んだ。
『た、確かに許さねぇーっ!』
そして春風は、そんな男達に向かって叫んだ。
「この場にいる、男性ハンターの皆さん! 並びに、セイクリア王国と、ウォーリス帝国の男性騎士の、皆さんんんんんんんっ! 想像してみてくださいいいいいいいっ!」
『っ!』
「『この子は俺が守る』! 『この子の為なら全力だしちゃうよ!』と思える美少女が! 一部の心無き者達によって! 人間兵器にされた挙句! 助けることもできずに! 目の前で死んでしまったら! しかも! その時のその子の顔が! 悲しみの涙に濡れていたら! 皆さん、どう思いますかぁあああああああ!?」
それは、春風の魂の叫びだった。
その叫びを聞いて、男達は実際にその状況を想像した後、「フッ」と笑い、叫んだ。
『嫌だぁあああああああ! そんなの絶対に、嫌だぁあああああああ!』
その後、春風は頭を抱えて悲痛な叫びをあげる男達を「ありがとうございます」と落ち着かせると、
「そして、その一部の心無き者達が、今、俺達の目の前にいる、コイツらです!」
と、神官達をビシッと指差して再び叫んだ。
指を差されて「ヒィ!」となった神官達を前に、春風はさらに叫び続ける。
「コイツらは、神に仕える神官でありながら、人を人とも思わない外道、畜生、超がつく程の悪党なんです! さぁ、皆さん! 皆さんでしたらコイツら! どうしますかぁあああああああ!?」
叫びながらそう尋ねる春風に、男達は再び「フッ」と笑い、叫んだ。
『勿論、死刑だぁあああああああっ!』
その叫びを聞いて、代表者を含む神官達は皆、
『ヒィイヤアアアアアアアッ!』
と悲鳴をあげた後、口からあわを吹いて、失禁して、失神した。
その後、春風は男性達に、
「ありがとうございました」
とお礼を言った。男性達は全員、笑顔で親指を立てた。
その時、
「『レベル』ガ上ガリマシタ」
と、春風に頭の中で「声」が聞こえた。
春風でけではない。リアナや歩夢、アデル達「七色の綺羅星」メンバーや、その場にいる他のハンター達と、セイクリア王国、ウォーリス帝国の騎士達もだった。
どうやら神官達を精神的に再起不能にしたのが、レベルアップに繋がった様だった。
まさかのレベルアップに周りが大喜びする中、
「『ランクアップ』ノ条件ガ揃イマシタ。コレヨリ、『ランクアップ』ヲ開始シマス」
と、春風の頭の中で、その「声」がそう告げた。
次回、春風君が、パワーアップします。




