第134話 その名を呼ぶ
お待たせしました。1日遅れの投稿です。
辺り一面真っ暗な闇。
その闇の中に落ちた歩夢を追って、春風は絨毯型魔導具から飛び降りた。
外で起きてる異変の影響か、入った時はゆっくり落ちていたのだが、今はもの凄い速さで落ちていた。
「春風様、私無茶をしないでと言いましたよねぇ!?」
と、左腕の零号の中でそう悲鳴をあげたジゼルを無視して、春風は落下中の歩夢に向かって右手を伸ばしながら、必死になって呼びかけた。
「ユメさん! 手を伸ばしてください、ユメさん!」
しかし、歩夢からの反応はなかった。
だが、春風は諦めずに呼び続ける。
「ユメさん、ごめんなさい! 遅くなってごめんなさい! 俺は……僕は、ユメさんに謝らなきゃいけない事があるんだ! 話したい事も、いっぱいあるんだ! だから……」
そして、春風は歩夢のすぐ側まで近づき、その名を呼んだ。
「目を覚ましてよ、ユメちゃん!」
次の瞬間、歩夢は目を開いて、差し出された春風の右手をがっちりと掴むと、自身の方に春風を抱き寄せた。
春風は一瞬驚いたが、直ぐにハッと我に返り、空いた左手をベルトのポーチに突っ込むと、そこから魔導フライングボード……通称「フライボード」を取り出し、魔力を込めた後、それに飛び乗った。
真っ暗な空間の中、春風と歩夢を乗せて宙に浮くフライボード。
春風は「フゥ」と一息入れると、今も抱きついている歩夢に話しかけた。
「大丈夫、ユメちゃん?」
「……やっと」
「?」
「やっと、呼んでくれたね、フーちゃん」
「え……むぐ!」
春風が何か言おうとしたその時、春風の唇に何か柔らかいものがあたった。
それは、歩夢の唇だった。
そう、春風は歩夢に、キスされたのだ。
それに気づいた時、歩夢の唇が春風の唇から離れた。
ニコリと笑う歩夢に、春風が尋ねる。
「さてはずっと気絶したフリしてたな?」
「えへへ。うん、ホントはフーちゃんが来る前から目が覚めてたんだ」
笑顔でそう言った歩夢に、春風は喜びや呆れが混ざった複雑な心境になったが、再び「フゥ」と一息入れてから言う。
「色々言いたい事があるけど、今はここから脱出しよう」
「うん」
歩夢がそう返事すると、春風はフライボードを操作してリアナ達の所に戻った。
一方、絨毯型魔導具に乗っているリアナは、中央の魔石に魔力を注ぎながら、春風達が来るのを待っていた。
「うう、ハル大丈夫かなぁ」
と、1人不安で泣きそうになっていると、
「お待たせ!」
と、下から歩夢を抱いた春風が現れた。
「ハル!」
「リアナ、ありがとう。じゃ、交代して脱出だ!」
「うん!」
その後、リアナと交代した春風は、絨毯型魔導具を操作して上を目指した。
そして外ではというと、ループスの分身は未だにルーシーが出した鎖によって拘束されていた。
その時、
「ウグッ!」
突然、ループスの分身が苦しみだした。
「な、何だ何だ?」
と周囲が首を傾げていると、
「グボファア!」
と、突然ループスの分身が大きく口を開いて、そこから何か大きなものが出てきた。
周囲が更に「何だ何だ!?」と一斉に首を傾げると、それは、大きな絨毯に乗った春風達だと理解した。
「よっしゃあ、脱出成功!」
そう叫んだ春風は、その後絨毯型魔導具を操作してアデル達の側に向かった。
驚いていたアデル達だったが、春風の姿を確認すると、
「アニキーッ!」
「ハル兄ぃー!」
「春風様ぁー!」
と、すぐに春風の側まで駆け寄った。
「みんな、ただいま……って、ルーシー!?」
再会を喜ぶ春風だったが、ルーシーの今の状態を見て驚いた。
「あ、ハル兄さん?」
「そうだよ、俺だよ、ハルだよ!」
春風がそう答えると、ルーシーはそれまで纏っていた濃い紫色のオーラを消し去って、
「ハル兄さん!」
と、春風に駆け寄った後、思いっきり抱きついた。
「お、オイ、どうしたのルーシー?」
春風がそう尋ねると、代わりにアデルが怒鳴りながら答えた。
「アニキが悪いんだよ! アニキが邪神の眷属の体内に飛び込んだ所為で、ルーシーが怒り狂って暴走しちゃったんだよ!」
「え、そうなのか!?」
アデルの話を聞いて春風が驚いていると、ルーシーの抱きしめる力が更に強くなった。
よく見ると体はブルブルと震えていて、顔は見えないが、恐らく泣いているのだろうと思った春風は、
「ごめんな、ルーシー」
と、ルーシーの頭をよしよしと撫でた。
するとそこへ、
「アー、スマン、チョットイイカ?」
と、ループスが尋ねてきたので、春風達が「?」を浮かべながらループスの分身の方を向いた。
「どうしたんですか?」
春風がそう尋ねると、ループスは言いにくそうに答えた。
「サッキノ闇ノ魔力ニヨル攻撃ノ所為デ……制御ガ効カナクナッタ」
『……え?』
次の瞬間、ただでさえ大きくなっていたループスの分身が、更に大きくなった上に、2本あった腕が6本になったり、尻尾がもう1本増えたりと、どんどんその姿が異形のものとなっていった。
春風はその姿を見て、
「冗談キツイよ」
と、小さくボソリと呟いた。
今回小説の中で、初めてキスシーンを書きました。
そして、第7章もいよいよ大詰めとなりました。




