第133話 体内からの脱出へ
「グゥ! コ、コンナモノ!」
ルーシーが放った黒い鎖に捕まったループスの分身。
必死に脱出しようともがいたが、もがけばもがくほど鎖は余計に強くループスの分身を締め付けた。
さらに、
「逃がさない」
と、ルーシーがボソリとそう呟いた次の瞬間、鎖を出した魔法陣から今度は紫色の電流が放出された。そして、その電流は鎖を伝ってループスの分身に襲いかかった。
「アガガガガガガガッ!」
鎖によって身動きが取れないループスの分身は、紫色の電流をもろに受けた。それはループスと繋がっている第3の目にも伝わり、ループスの分身と同様に電流を受けて、思いっきり痺れた。
さて、そんなループスの分身の体内では、
「ヌォオオオオオオオ、何か揺れてるよぉおおおおお!」
と、春風が言っているように、電流を受けて痺れた影響か、現在春風達がいる真っ白な部屋の中は上下に激しく揺れていた。
その時……。
ゴン!
「いったぁい!」
激しい揺れの所為で頭を強く打ったリアナが、痛みと共に目を覚ました。
「いたたぁ、何なの一体……」
「あ、リアナ!」
一方、外では、
「やめろルーシー! 中にはアニキ達がいるんだぞ!」
と、大慌てで止めにきたアデルの言葉に一瞬ハッとなったのか、ルーシーは攻撃の手を止めた。
場所は戻ってループスの体内。
「あ、揺れがおさまった」
さっきまでの揺れが止まってホッとした春風。その一方で、
「アレ、ハル? ここ、何処なの? 何でみんな寝てるの?」
何が何だかわからないといった表情でキョロキョロと辺りを見回すリアナに、
「あー、こんな事言いたくはないけど、ループス様の分身の体内って言えばわかるかな?」
と、春風は気まずそうに言った。
「え? あ!」
その瞬間、リアナは全てを思い出した。
「そうだ私達食べられたんだった! ん? ちょっと待て。じゃあ、何でハルがここにいるの? まさか、ハルも食べられたの!?」
若干混乱気味なリアナのその質問に、春風はハッキリと答える。
「決まってるだろ、皆を助けにきたんだよ!」
「は、ハル!」
その答えに、リアナはジーンと目をうるうるとさせた。
だがその時、真っ白な部屋の天井に、ピキピキとヒビが入ってきた。それを見て春風は……、
「やばい、長居してる場合じゃねぇな。じゃ、そろそろ脱出と行こうかねぇ」
「え? どうする気なの?」
と「?」を浮かべるリアナを他所に、春風はベルトに取り付けたポーチに手を突っ込むと、中から大きな巻き物の様なものを取り出し、それを床に広げた。どうやら大きめの絨毯のようだ。
「ねぇハル。何で絨毯取り出してんの?」
混乱するリアナに、春風は真面目な表情で答える。
「ただの絨毯じゃあない。魔石付きの絨毯型魔導具だ」
「絨毯型魔導具!? いや、だから何で絨毯なの!?」
「オイオイ、絨毯っていったらアレしかないだろうが。ほら全員乗っけるから手伝って」
「う、うん」
春風にそう言われるまま、リアナは今も意識がない状態の鉄雄達を絨毯に乗せた。
その後、春風もその絨毯に乗ると、絨毯の中央にある緑とオレンジ色の宝石に魔力を送った。
すると、次の瞬間、全員を乗せた絨毯はふわりと浮かび上がった。
「うわっ! 何!? 浮かんだ!?」
「そうさ! みんなの憧れ、『空飛ぶ絨毯』だぜ! といってもまだ試作だけど!」
春風はそう言いながら、絨毯の宝石に魔力を送り続ける。
その時、部屋の壁や天井が音を立てて崩れて、真っ暗な空間が見えた。
「よし今だ! 飛ばすぞ……」
と、真っ暗な空間に向かおうとした、まさにその時、外では、
「ヌォオオオオオ! 舐メルナァアアアアア!」
と、ループスの分身が無理矢理鎖を引きちぎろうと暴れだした。
その為か、体内では、
「うわぁ! また揺れた!?」
と、春風達が驚いていると、天井の一部の破片が春風達の頭上に落ちてきた。
「危ねぇ!」
春風は絨毯を操作してそれを回避したが、魔力を送る手元が狂ったのか絨毯が傾いて、
「ゲ! しまった!」
気絶してるユメこと海神歩夢が絨毯から落ちた。
さらに悪い事に、天井の破片が床に落ちた瞬間、その床を砕いて下に真っ暗な空間が出来てしまい、そこに歩夢が落ちてしまったのだ。
「ゆ、ユメさん! リアナ、ゴメン! この緑とオレンジの魔石に魔力を送り続けてて! そうすれば浮いた状態を維持できるから!」
「え、ちょ、ちょっと待って!」
リアナは再び言われるままに春風と交代して絨毯の宝石……魔石に魔力を送った。
そして春風は、
「ユメさぁん!」
と叫んで、絨毯から飛び降りた。
それを見て、リアナは、
「は、ハルゥウウウウウ!」
と、驚きのあまり悲鳴をあげた。




