第124話 邪神の眷属との邂逅
春風が魔物に連れ去られた。
都市内部でそんな事が起こったとは知らず、外では鉄雄ら勇者達や、騎士、兵士、ハンター達の戦いが更に激しさを増していた。
そんな中、鉄雄達「勇者」と「邪神の眷属」との戦いはというと、数では鉄雄達が有利だが、未だに決着はついてなかった。何故なら、
「ぐ、ちくしょう。何なんだよこの魔物」
「ええ、なんだか全然本気で戦ってない気がする」
と、鉄雄達がそう愚痴る様に、目の前にいる邪神の眷属は、戦いが始まってから全く本気を出しておらず、まるで遊んでいるかの様な様子なのだ。
ただでさえ決着がつかないのに、未だに余裕のある邪神の眷属に、鉄雄達はさらに焦りと苛立ちを募らせていた。そこへ、
ーーフッ。
と、邪神の眷属は3つの目を細めて鼻で笑った。
それが、鉄雄達の怒りを加速させた。
「こんのぉおおおおおおお!」
馬鹿にされたと思った鉄雄は、ブチ切れて突撃したが、
ーーフンッ!
ブワッ!
『ウアァッ!』
邪神の眷属が放った強烈な鼻息に、鉄雄だけでなく他の勇者達も、抵抗虚しく吹き飛ばされ、倒れ伏した。そして邪神の眷属は、素早く彼らに近づくと、右前脚を上げて、その1人、歩夢に向かって容赦無く振り下ろした。
「っ!」
動けなかった歩夢は咄嗟に目を閉じたが……。
ガキィン!
「?」
突然の大きな音に、歩夢は何事かとゆっくり目を開けると、目の前には手にした武器で邪神の眷属の攻撃を受け止めたリアナがいた。
「何してんの! 早く下がって!」
リアナにそう怒鳴られて、ハッとなった歩夢は、直ぐにその場を離れた。その後、リアナは防いだ攻撃を力いっぱい押し返すと、その武器「燃え盛る薔薇」を構え直して、邪神の眷属を睨みつけた。
「リ、リアナさん、どうして?」
なんとか立ち上がった勇者の1人、美羽がリアナにそう尋ねると、
「勘違いしないで、アンタ達の為に来たわけじゃない。アンタ達に何かあったら、ハルが悲しむから来たの」
と、リアナは邪神の眷属を睨みつけたまま答えた。
そんなリアナに、歩夢は何か言おうとしたが、今はそういう時ではないと考え、自身の武器である薙刀を構えた。それに続く様に、鉄雄達も戦闘態勢に入った。
両者が睨み合っていると、邪神の眷属は何かに気付いたかの様に上を見上げて、再び3つの目を細めた。それはまるで、
「来た!」
と言っているかのような、何処か喜んでいる表情だった。
それを見て、リアナ達は「何だ?」と思って邪神の眷属と同じ方向を見上げると、
「何あれ、鳥?」
一見すると、一羽の鳥に見えたが、
「ち、違う! 鳥じゃない!」
それは、目の前にいる邪神の眷属と同じ様に、黒いオーラを纏った、大きな鳥の様な魔物で、しかもその脚には何か人の様なものを掴んでいた。
鳥の様な魔物は空から両者の間に近づくと、掴んでいた人の様な者を2つ、地面に降ろした。
リアナ達はその2つのものをよく見てみると、
「え、ハル!?」
「それに、レイモンド様!?」
「え、リアナ!? それに、みんな!?」
そこにいたのは、都市内部にいるはずの春風と、ウォーリス帝国第1皇子のレイモンドだった。
まさかの再会に、春風達はわけもわからず混乱していると、
「待ッテイタゾ、幸村春風」
「へ?」
突然名前を、それも本名で呼ばれて、春風は恐る恐る声がした方を振り向くと、そこには先程まで鉄雄達が戦っていた邪神の眷属と、鳥の様な魔物がいた。
春風は「?」を浮かべたが、その声に聞き覚えがあったので、
「もしかして、俺を呼んでたのは、あなたですか?」
と、邪神の眷属に向かって丁寧に尋ねた。
すると、邪神の眷属の、第3の目が光って、
「イカニモ、オ前ヲ呼ンダノハ我ダ」
と、声を発した。
鉄雄達は、
『しゃ、喋ったぁ!』
と驚きの声をあげたが、春風とリアナは驚く事なく真っ直ぐ邪神の眷属を見た。
その後、春風は邪神の眷属……否、その第3の目を見て尋ねる。
「あなたは、ループス様ですね?」
その質問に、鉄雄達は一斉に「?」を浮かべていると、第3の目はニヤリとした様に細くなって答えた。
「ソウダ。我ガ名ハ、ループス。人間共カラハ、『邪神』ト呼バレテイル者ダ」




