第120話 戦いの前
今回は、文章的にちょっと短いかもしれません。
「『邪神の眷属』が魔物を連れて向かってくる」
その報告を受けてから、中立都市シャーサルの内部は緊張に包まれていた。
住宅区では住民が家の中に避難して、商業区ではあちこちの店が閉まっていた。
そんな中、セイクリア王国とウォーリス帝国から来た者達、そして、シャーサルに住むハンター達は、来たる邪神の眷属との戦いに向けて準備を進めていた。それぞれ武器と防具を装備し、いざという時の為の回復薬といった道具を揃えていた。
セイクリア王国第2王女のイブリーヌと、ウォーリス帝国第1皇子のレイモンドはというと、ギルド総本部長のフレデリックと共に総本部前にいる。戦う者達と支援を行う者達に指示を出す為だ。
しかし、彼らの表情は、皆何処か不安そうだった。何故なら、最近起こっている魔術師達の異変の所為で魔術による支援を受ける事が出来ない為、実際に戦えるのは剣士や拳闘士といった前衛で戦う者達や、弓を用いた遠距離攻撃を行える者達だけになるからだ。
ただ、一部の「例外」を除いては……。
そして現在、その「例外」こと春風達「七色の綺羅星」はというと、
「じゃみんな、行ってくるね!」
と、拠点の前でリアナが春風達に向かって元気良く言った。リアナの後ろには、鉄雄ら勇者達の姿もあった。
『リアナねーちゃん、行ってらっしゃい!』
幼いイアン、ニコラ、マークも、リアナ達に向かって元気良く返した。アデルやルーシー達も似たような表情だった。
ただ1人、リーダーである春風だけは、暗く沈んだ表情をしていた。
「もう、そんな顔しないでよハル!」
そう言って、リアナはそんな表情の春風を叱ったが、
「ごめん。出来る事なら俺も一緒に行きたかったけど……」
と、春風は申し訳なさそうにリアナ達にそう謝罪した。
すると、
「しょーがないよ。ハルッち階級で引っ掛かっちゃったんだから」
と、春風をニックネームでそう呼んだ少年、恵樹が軽い口調でそう言った。それに続く様に、他のクラスメイト達も「うんうん」と頷いた。
そう、実は春風は、今回の邪神の眷属との戦いに参加出来ないのだ。
何故なら、参加できるのは金級以上のハンターのみで、銀2級である春風は参加出来ず、代わりに他の銀級以下のハンター達と都市内部で怪我の手当てやギルド職員達の手伝いといった後方支援にまわる事になったのだ。それはアデル、ルーシー、ケイト、クレイグ、アリア、フィナも一緒だ。
因みに、鉄雄ら6人のクラスメイト達も銅級なのだが、「勇者」である為に戦いに参加する事になった。というより、今回その為にシャーサルに来たのだから、当然だろう。
ただ、春風が沈んだ表情をしているのは、それだけが理由ではなかった。
鉄雄らが「七色の綺羅星」に入ってから数日。
この数日で、春風は鉄雄達とだいぶ打ち解けていた。以前までは話す時は敬語を使っていたのだが、今ではそれなしで普通に話せる様になっていたのだ。
しかし、肝心の自身の「ステータス」についてと、春風の旅の目的(地球消滅の阻止)については、未だに話していなかった。それが、春風の心に罪悪感を植え付けていた。
そんな風なやり取りをしていると、
「あ、あれ?」
と、ルーシーが何かに気付いた。
「? どうしたのルーシー?」
沈んだ表情の春風がそう尋ねると、
「あ、あの、勇者の皆さん」
『?』
「それ、何ですか?」
と、ルーシーは鉄雄達の「ある部分」を指差した。
それから数分後、一通りの準備が終わって、
「じゃあ、みんな気をつけて」
そう言って、春風はリアナと勇者達を送り出すと、
『オウッ!』
リアナ達も元気良くそう返事して、他の金級ハンター達が待つ場所に向かうのだった。




