第110話 食堂内にて
クラスメイト達、イブリーヌ、そして、ウォーリス帝国の第一皇子とその従者を拠点内に招き入れた春風は、リアナ達レギオンメンバーにその事を話すと、全員を食堂に通した。
「さて、色々と聞きたいことがありますが、まずは……」
そう言って、春風は皇子レイモンドの方を向いて、
「お初にお目にかかります。自分は、レギオン『七色の綺羅星』リーダーの……」
と言って丁寧にお辞儀をして自己紹介しようとした、まさにその時、
「幸村春風……だろう?」
と、レイモンドがそれを遮って尋ねてきた。
「……何のことでしょうか?」
春風は冷静を装って尋ね返すと、
「おっと、シラを切っても無駄だよ。君に関する情報は、既に我々ウォーリス帝国も入手しているんだ。と言っても、全部というじゃないけどね」
(マジっすか……)
春風はなんとか誤魔化せないかと考えたが、すぐに「無理」という結論に至り、
「ええ、そうです。自分は幸村春風、こちらにいる勇者達と同じ異世界の人間です。先程も言いましたが、今はハンターの「ハル」として、ハンターレギオン『七色の綺羅星』のリーダーをしています」
と、正直に名乗る事にした。
それを聞いて、レイモンドは「ふむ」と言うと、
「メンバーは、そちらにいる子達で全員かな?」
と、春風の後ろにいるリアナ達を見て、そう尋ねた。
「はい。順番に、リアナにアデルにルーシー、ケイトにクレイグ、フィナとその姉のアリアさん。メンバーはこれで全員です。そして、『家族』的な存在の、イアン、ニコラ、マークです。」
春風はレイモンドだけでなく、クラスメイト達やイブリーヌにも、リアナ達レギオンメンバーを紹介すると、レイモンドは「ふむふむ」と言って、再び春風に尋ねた。
「随分と若いのが多いな。これだけの大きさの拠点となると、一緒に暮らしているのかい?」
「はい、結成からずっと、一緒に暮らしてます」
「ちゃんと親の許しとか貰ってるのかな?」
「それは……」
レイモンドの質問に、春風はどう答えようか迷っていると、
「親はいません」
と、春風に代わってアリアが答えた。
「『いません』とは、どういう意味かな?」
レイモンドはアリアに向かってそう尋ねると、アリアはさらに答えた。
「言葉の通りです、私達に親はいません。私達の親は、私達を残して、全員死にました」
その答えに続く様に、アデル、ルーシー、ケイト、クレイグ、フィナは表情を暗くしながら下を向いた。イアン、ニコラ、マークに至っては今にも泣きそうな表情になった。
レイモンドはそれを見ると、
「……すまない、辛いことを思い出させてしまったね」
と、アリア達に向かって謝罪した。因みにクラスメイト達とイブリーヌはというと、全員アリアの話にショックを受けた様な顔をした。
暫くの間、食堂内が重苦しい雰囲気になると、
「立ち話もなんでしょうから、取り敢えず、座って話をしましょうか」
と、春風はこの場の空気を変える為にそう提案した。
その後、フィナとアリアにお茶の用意をお願いして、全員を用意した椅子に座らせると、
「で、皆さんどうやってここまで来たんですか?」
と、春風はクラスメイト達に、ここまで来た経緯について尋ねた。
数分後、
「えぇ? 皆さん黙って向こうを出てきたんですか?」
春風は盛大に頬を引き攣らせてそう質問すると、
『うん、そう!』
「はい、そうです!」
と、クラスメイト達とイブリーヌ姫が笑顔で答えたので、春風は「ハァ〜」と深い溜め息を吐いた。
その後、すぐに気持ちを切り替えて、今度はレイモンドに向かって質問した。
「あの、レイモンド様……で、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「わかりました。ではレイモンド様、あなたは先程、『俺に関する情報を入手している』と言ってましたが、具体的にはどれくらい入手しているのですか?」
「ああ、それなら、君が勇者召喚が行われた日にやらかしたことと……」
「ことと?」
「元の世界で「師匠」と呼ぶ女性の弟子として、いろんな冒険を繰り広げているってことかな」
レイモンドのその答えに、春風はピクっとなって、
「それは、誰に聞いたのですか?」
と質問すると、
「君の弟弟子である、桜庭水音、からだよ」
と、レイモンドは不敵な笑みで答えた。
春風はレイモンドに鋭い視線を送りながら、
「桜庭くんが……」
と言おうとしたその時、
「おっとっと、『水音』、だろう? 知っているよ。君と彼……水音は、プライベートでは名前で呼び合う関係なんだってね」
と、レイモンドは話を再び遮った。
春風は俯いて「内緒にしてって言ったのに……」と小さく呟くと、レイモンドに視線を戻した。
「……何故、そこで水音の名前が出てくるのですか?」
春風は真剣な表情でそう尋ねると、
「あれ、知らなかったのかな? 彼は今、ウォーリス帝国にいるんだけど」
「……何ですって?」
その後、春風はギロリとイブリーヌを睨んだ。当然、イブリーヌはビクッとなって「ヒィ!」と小さく悲鳴をあげた。
「こらこら、そんな怖い顔をしないでくれ、今から説明するから。あ、勇者達も手伝ってくれ。君達も関係あることなんだから」
レイモンドはクラスメイト達にそう頼むと、全員「は、はい」と返事をした。
その後、レイモンドとクラスメイト達は、水音に何が起きたのか、説明を開始した。
次回から、主人公はお休みです。




