第106話 「人形使い」のアイザック
今回の話は、いつもより少し短めです。
突如春風達の前に現れた、言葉を話す不思議な人形。
今回の話は、その人形の「正体」について説明することにしよう。
彼の名は、アイザック・トワイライト。固有職能「人形使い」の固有職保持者だ。
物心ついた時から既に親はなく、唯一「家族」と呼べるのは、スキル使って操る「人形」達だけだった。
彼はこの力を使って人形劇をしながら日銭を稼ぎ、道中魔物を倒しながら、町から町へ、そして国から国へと、長い間旅をしていた。
そんなある時、旅の途中でアイザックは、1人の少女に出会った。
その少女、ルーシーに話を聞いたところ、彼女もアイザックと同じ固有職保持者で、その力の所為で実の両親に捨てられたのだと言う。
アイザックはそんな彼女に、
「ここで一人ぼっちのまま死ぬくらいなら、私と一緒に旅をしたらどうかな?」
と誘った。
それは、親に捨てられた彼女を可哀想に思ったのか、それともただの気まぐれだったのか、この時の彼自身もわからなかった。
そんな心境のアイザックに、ルーシーは、
「い、行きます」
と答えた。こうして、アイザックとルーシーの2人旅が始まった。
最初の頃はお互いぎこちなさがあったが、何度も苦楽を共に過ごしていくうちに、いつしか2人の間に「絆」が生まれて、次第に2人は「家族」と呼べる様になっていた。
そして長い旅の末、2人の安らぎの場として最後に立ち寄ったのが、アリアことアリシア達の村だった。
最初はおどおどしていたが、フィオナ達という友達に囲まれて幸せそうになっていくルーシーを見て、アイザック自身も、ここを自分の最期の場所にしようと考える様になっていた。
しかしそれから数年後、村長の息子ブレントからフィオナを守る為に、ルーシーは固有職能「呪術師」の力を使ってしまう。
さらに、そんなルーシーを抹殺しようと、村に断罪官達が来てしまったのだ。
そして、彼らによる「異端者粛清」という名の、虐殺が始まった。
アイザックは最初、ルーシーと共に逃げる事を考えていたが、連中の異端者に対する執念深さを知っていたアイザックにとって、それは悪手になるだろうと考え直した。
ならば、どうするか?
答えは決まっている。
そう、「戦う」だ。
アイザックは家の地下室にルーシーを避難させると、
「私の大切な家族に、指一本触れさせない!」
と叫んで、断罪官達に立ち向かった。
最初は善戦していたアイザックだったが、年を取り過ぎた上に神の加護を強く受けた断罪官達相手に次第に劣勢になっていった。
やがてその命が終わりを迎えたその時、アイザックは「最後のスキル」を使った。
それは、「自身の魂を人形に移す」というものだった。
アイザックはそのスキルを使って自身の魂と肉体を切り離した。
その後、肉体は断罪官達に破壊され、魂は自宅にある「最後に作った人形」の中に入った。
「人形」として目覚めた時には、村は全て焼き尽くされた後で、断罪官だけじゃなく、ルーシーの姿もなかった。
「まさか、もう殺されてしまったのか?」
と、落ち込むアイザックだったが、人間だった時に身につけたスキルはそのままだったので、アイザックはそれらを使ってルーシーがまだ生きている事を知ると、彼の中で、ある想いが芽生えた。それは、
「もう一度、ルーシーに……大切な『家族』に会いたい!」
それから暫くして、どうにか人形の体で自由に動ける様になると、アイザックは住んでいた村に別れを告げて、新たな旅に出発した。
しかし、いくらスキルが使えるといっても体は人形なので、弱い魔物ならどうにか倒す事が出来るが、それでもなるべく戦闘は避ける様にしていた。
そして苦しい旅の末、辿り着いたのが、シャーサルだったという。




