第103話 修羅場の後・2
(どうしてこうなった?)
と、心の中でそんな事を呟く春風は今、レギオン「七色の綺羅星」の仲間達と共に、「勇者」ことクラスメイト達と、セイクリア王国第2王女のイブリーヌ、そして彼女を守る2人の騎士を連れて、中立都市シャーサルの中を案内していた。
何故そんなことになったのか?
それは、少し前に遡る。
「あのぉ、俺からも良いっすか?」
春風の話が終わってから暫くすると、クラスメイトの1人である眼鏡をかけた少年、野上が手をあげた。
「どうしたんですか? 野上君」
春風が丁寧な口調でそう尋ねると、野上は申し訳なさそうに答える。
「いやぁ、君がセイクリア王国を許さない気持ちがあるってのは理解出来たんだけどね。その上でどうしても聞きたい事があるんだけど……」
「?」
「その、『ハンター』とか、『レギオン』って、何?」
野上のその質問を、春風は一瞬理解出来なかったが、すぐにハッとなって尋ね返した。
「え、ちょっと待って。王城でそういうの教えてくれなかったんですか?」
「う、うん。教えてくれたのは、ステータスや職能についてとか、スキルの使い方とか基本的な戦い方とかが殆どで、そういうのは『知る必要がない』って教えてくれなかったんだよねぇ」
野上が答えたその瞬間、春風はイブリーヌと2人の騎士をギロリと睨んだ。その視線に、イブリーヌはビクッとなって怯え、男性の騎士は申し訳なさそうに顔を逸らし、もう1人の女性の騎士は最初はイブリーヌと同じくビクッとなったが、すぐにまたキッと春風を睨み返した。
その後、春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、野上の方に向き直った。
「あー、あのね、『ハンター』ってのは、世界中を旅しながら、報酬と引き換えに魔物を退治したり要人の護衛とかをする人達の事で、そのハンターが集まって作るチームが、『レギオン』っていうんです」
と、春風はそう説明すると、今度は同じ顔をした2人の少女、氷室姉妹が質問してきた。
「え、じゃあ幸村君は今、そのハンターっていうのになってるだけじゃなくて、そのレギオンっていうのにも入ってるの?」
「まぁ、そうですけど」
「しかもリーダーやってるの?」
「う、うん。今いるメンバーは、ここにいるリアナとアデルとルーシー、それに拠点に4人、後はまぁ、『家族』みたいなのが3人、ですね」
春風がそう答えた次の瞬間、クラスメイト達は一斉に口を開いた。
「「ブラックテンペストか!?」」
「「「「ブラックテンペストね!?」」」」
「え、何そのダッサイ名前?」
ーーガァアアアアアアアン!
その時、総本部長室になんとなくそんな音が聞こえた様な気がした。
春風の即答にクラスメイト達が全員膝から崩れ落ちると、
「え、何!? みんなどうしたの!?」
驚いた春風が慌てて声をかけると、皆一斉に、
「「お前(君)の所為だろうがぁあーっ!」」
「「「「あなた(あんた)((幸村君))の所為でしょうがぁあーっ!」」」」
「え!? また俺の所為!?」
一体どういう事かと思った春風は、とりあえず全員を落ち着かせながら、その理由を聞く事にした。
そして、
「えぇっと要するに、俺が出ていってから君達は、俺が魔王になったり巨大ロボット作ったり、悪の組織のボスになったりしまいには神様になったりした夢を見たと?」
『うんそう』
「で、その時の俺が作った悪の組織の名前が『ブラックテンペスト』で、それが俺達のレギオンの名前になっているのかというわけですね?」
『そうそう』
春風はその答えを聞いて暫く黙っていると、
「何やってんの夢の中の俺ぇ!?」
と悲鳴をあげて、
『全くだよ! ホント何やってんのって感じだよ!』
と、クラスメイト達全員に突っ込まれた。
因みに他の人達はというと、そのやり取りを見て、
『ハ、ハハハ』
と全員乾いた笑いを零すのだった。
それから暫くして、
「じゃあ、名前は『ブラックテンペスト』じゃないってことで良いんだね?」
と野上がそう尋ねてきたので、
「当たり前でしょ。何ですかそのダサい名前は? 夢の中の俺ネーミングセンス無さすぎでしょ?」
と、春風は思いっきり夢の中の春風をディスりながら答えた。それを聞いて、クラスメイト達は「良かった」と胸を撫で下ろした。
その後、今度は眼鏡をかけたポニーテールの少女、天上が尋ねてきた。
「ま、まぁレギオンの名前は後で聞くとして、じゃああなた、というかあなた達は今、そのレギオンとしてここで活動してるってことなのね?」
「そうですけど」
「ふーん。じゃあ、普段はどんな仕事をしているの?」
「うーん、さっき言った魔物の討伐の他に、薬草の採取や、住宅区の屋根の修理、それからドブさらいとか、でしょうか。今日もその辺りの仕事を受けようとしてたんですけど、こうしてフレデリック総本部長さんに呼ばれて、今に至るって所なんです」
と、春風は天上の質問にそう答えた。すると、
「ああ、でしたら、私から1つ仕事を引き受けてくれませんか?」
と、それまで黙っていたフレデリックが手を上げてそう言った。
「? 何ですか?」
春風がフレデリックにそう尋ねると、フレデリックはニコリと笑って、
「勿論、彼らの案内です」
と、クラスメイト達と、イブリーヌ達を指差してそう答えた。
その答えを聞いて、春風達「七色の綺羅星」は、
『……ハイ?』
と、頭上に「?」を浮かべるのだった。




