9.ジークヴァルト 〜 前世 2 〜
悩みが尽きないアルフ。愛するエミリアの為に奮闘する
兄上の婚約式から不可解な事が増えている。婚約者がいるのに未婚女性の集まるお茶会に頻繁に誘われる様になったり、イグラス公爵家の息のかかった商会からの取引が増えた。
父上も困惑している。しかし俺はなぜか知っている…奴だ。奴がエミリアに惚れ横恋慕しているのだろう。
エミリアが心配で出来うる限りエミリアに会いに行っている。エミリアには実害はないらしい。
エミリアはいつも笑顔を向けてくれる。この笑顔を何時迄も俺だけに向けて欲しい…
俺はまだ未成年で何の力もない。さらに来年になると訓練所に入りエミリアと離れ離れになる。エミリアはアカデミーに通う予定。恐らく奴も同じだ。エミリアを守る術が無い。
アカデミー入学までにエミリアの味方を作らないと…
ここから俺は貴族の力関係や交友関係を調べ味方を探した。しかし貴族の中でも強い影響力があるイグラス公爵家に対抗できる家がいない。
頭を抱えていたらエリアス王子から登城連絡がはいる。『そうか!』
俺は第2王子の側近候補として幼い頃から王子と交流があり月に何度か登城する。エリアス殿下は公明正大なお方で同じ歳のケインとは気が合わず、ケインは側近候補から外れている。
殿下には貸がある。いつか返すと約束されている。その貸をここで返してもらい、殿下にエミリアの味方になっていただこう!
「で!アカデミーで婚約者をケインから守って欲しい訳か?」
「はい。エミリアは友人は多くなく恐らくバンデラス伯爵家のレジーナ嬢といる事が多いはす。ここまで言えば殿下にもメリットがあると思うのですが!」
「お前痛い所突いてくるなぁ!」
そう…殿下はレジーナ嬢を気に入られているが、彼女はエミリアと同じで大人しく、お茶会に招待しても他の位の高い令嬢に圧倒され中々お近づきになれていない。
「殿下の誕生パーティーでエミリアと一緒にレジーナ嬢を紹介しますのでお願いします!」
「・・・ならば!アルフ訓練所を卒業したら王宮騎士団に入り将来は俺の騎士になれ」
「殿下…ですが俺は兄を助ける為に騎士に…」
「ケインがいずれ分家を立ち上げれば侯爵家騎士団のお前より位は高くなる。俺の騎士に成れば互角位にはなる。そうすれば何が有っても人に頼らずエミリアを守れるぞ」
「妙案です。殿下!私が補佐に付きアルフが騎士に成れば殿下の力となるでしょう!」
殿下の側近候補のマルクスは殿下の案に賛成の様だ。マルクスは3大公爵家のタラード家の次子で殿下の補佐官になる予定。彼は頭脳明晰でキレ者だ。
ずっと殿下から騎士になる様に言われていたが、兄上を守る騎士になるのが夢で断っていた。
しかし…あのケインを相手にするなら今の俺では力も地位もない。
エミリアを守るためなら何でもする。殿下に騎士になる事を受け入れ誕生パーティーでエミリアを紹介する事を約束した。
するとマルクスがぽつりと
「アルフ気を付けろ。ケインは一見大人しいが執着心が強いと聞いた事がある。エミリア嬢をそう簡単に諦めないかもしれない」
殿下も…思い当たる節が有るらしく
「あまり憶測だけで言うべきでないが、彼奴は信用ならん。当初はマルクスの代わりにケインを側近候補とイグラス公爵からの申出があったのだが…」
「「?」」
殿下の話を聞いて驚愕する。嘘が嫌いな殿下は許せるはずもない。ケインは公の場で虚偽を働いた。
約2年前に我々は王室管理の森で猟犬を使いハントを楽しんでいた。ハントとは猟犬をコントロールし野うさぎや狐を罠に追込み捕まえる競技だ。まだ猟銃や弓を使えない貴族子息のスポーツだ。
このハントにはルールがあり、”獲物は殺めない”と”猟犬以外は使わない”だ。これを違反すると一時的にハントへの参加禁止と違反した猟犬はハントで使えない。
俺とマルクスがペアで殿下とケインがペアで参加していた。試合が終わると審判と一緒に罠の確認に向かう。そこで事件が起こる。
ケインの猟犬がうざきを噛みつき罠の中に瀕死の状態で見つかる。ケインはちゃんと申請し、それからハントには参加しなかった。殿下は不慮の事故だと思いキチンとルールを守ったケインを好感を抱いていた。しかし…
暫くして他の貴族子息からケインの猟犬は気性が荒く、他の貴族子息の猟犬に噛みつき怪我を負わしたと聞いた。ハントの時と別の猟犬だと思っていたら同じだった。どうやら審判にお金を掴ませ圧力をかけた様だ。本人を問い詰めたら
「あの猟犬は私の宝です。私は気に入ったものは何があっても何をしても手元に置く主義です。誰にも邪魔はさせない。殿下は真面目すぎます。何か守る為の虚偽は必要悪だ」
「俺は何より嘘が嫌いだ!それから直ぐに側近候補から外した。エミリア嬢は厄介な奴に気に入られたな」
分かっていますよ殿下…
とりあえず誕生パーティーで殿下とエミリアを引き合わせ交流を持つ事になった。マルクスも(仮)婚約者のケイミー嬢を連れてくるらしい。心強い仲間を得れて意気揚々とパーティー参加の準備をして当日を迎えた。
パーティー当日は少しでも早くエミリアに会いたくてリーバス家に向かう。迎えてくれたエミリアは妖精の様に綺麗だった。俺はエミリアに会うたびに何度も何度も彼女に恋をする。
エミリアのドレス姿を奴に見せたくない。俺の気持ちを知らないエミリアは可愛く微笑む。この笑顔が曇らない様にパーティーを終えようと意気込んだ。
しかし、予想外の事が起こり完全に奴と対立する事になるとはこの時は知らなかった。
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