80.女性
ジークヴァルトの両親との初対面は順調に終え、後はパーティーだけ。だけど胸騒ぎがする?
フレンチレストランの個室に着き席に着くと早々にワインが注がれ乾杯してたら食事が運ばれてくる。美味しい食事いただき会話を楽しんでたら手を止めたお父様が
『エミ。一度ウチに遊びに来なさい。ランディの家族と本宅の者を紹介したい。そうそう娘さんも連れてくるといい。エミの娘は私の孫だ』
「ありがとうございます。とても嬉しいのですが…」
『良かったわ。ジークエミと相談して早速予定を…』
私の状況を理解してもらっているのか不安になり、隣に座るジークさんの裾を引っ張り、顔を寄せたら嬉しそうにキスをしようとする。思わず手で口を抑えて小声で
「お付き合いはするけど再婚しない事は(ご両親に)お伝えしているの?」
「あぁ…言ってあるが心配なら再度私から話そうか?」
「お願い。こういう事は何でも先に話しておいた方がいいから」
真剣な顔をしてそう言うと微笑みやっぱりキスされた。ご両親の前で止めてよね!
ご両親の方に向き直るとジークさんはご両親に話してくれるが、勿論母国語なので後ろから倉本さんが通訳してくれる。
『以前にも話しましたが咲は亡き夫君の遺言で再婚は望んでいない。私も婚姻に拘っておらずただずっと咲の傍に居ればいいと思っています。無論子供も。もし幸運にも授かれば最高に幸せだが、無理をして咲を失いたくない。だから私の子は諦めて下さい。ですが我が家にはランディの子がおり世継ぎは心配ないはずです』
私の手を握り真っ直ぐお父様に話してくれた。そうしたらご両親とも微笑んで
『分かっているよ。お前の幸せが一番だ。2人の事に口を挟む気はない。ただ…日本を終の棲家とするならば、せめて年1回は実家に帰ってエミとお前の元気な姿を見せてほしい。子に関しては自然で良いと思っている。もし授かれば最高の医療を手配させ万全のサポートをしよう。だからエミ。気負わずにジークの愛を受け取ってくれればいい』
「あっありがとうございます」
こんな内容を倉本さんに通訳して貰うのはとても恥ずかしく顔が熱くなるのを感じる。そして視線を感じ横を見ると破顔したジークさんがキス待ちしている。ご両親前では絶対しないからね!するとお母様が頬杖をついて
『これを言ったらジークに怒られそうだけど、エミは年齢的にギリギリ妊娠可能でしょう?あっ!つくれと強要しているんじゃないのよ。そこは誤解しないでね。もし自然に出来れば何の心配も要らないと言いたいの。医療的にも金銭的にもサポートも全て万全にするわ。安心して欲しいの』
また恥ずかしい内容を抑揚無く淡々と通訳する倉本さんにまた謝る。そして
「えっと…心遣いありがとうございます。子供は授かりものと言いますから…出来た時に考えます」
申し訳なさそうにそう言うとジークさんが怖い顔をしてお母様に何か言おうとした。咄嗟に袖をひっぱり
「お母様は心配してくれているんだよ。嬉しく思っているから。ジークさんもそうだよね」
「咲…」
こうして心配していた話も出来て、お母様がジークさんの幼児期の話をしてくれとても楽しい食事会となった。
食事を終わるとジークさんとお父様と別れ、お母様とエステ店へ向かう。別れ際に中々離してくれないジークさんをお母様が肘鉄をおみまいし助けてくれた。そして鼻息荒く
『誰に似て嫉妬深くなったんだか!』
と怒っていた。でも…他の皆さんの視線が“お母様”だと物語っていたのは気付かなかったふりをしておこう。
こうしてずっと話しかけてくるお母様の通訳に忙しい倉本さんを見て、ジークさんの母国語を習う事を決心する。折角身内?になるのだから、通訳なしでお話したい。そしてその意向を倉本さんに伝えるととてもいい笑顔を頂いた。きっとお母様のマシンガントークの通訳に疲れたのだろう。
こうしてエステ店に着くと、入口に沢山のスタッフにお出迎えされ恐縮する。ここからはお母様と別れて個室で施術を受ける。挨拶に食事会にと緊張し体に力が入っていた様でエステティシャンに驚かれた。時間たっぷり施術を受け全身ピカピカ!になり、メイクとヘアーセットをしたもらい別人に変身。
もう詐欺レベルである。
ロビーに出るとお母様も丁度出て来られていっぱい褒められ恐縮する。それにしてもお母様は本当に綺麗で若い。私より皺が少なくツルツル肌で陶器の人形の様だ。正直隣に並びたくないと思っていたらお母様に手を取られ一緒に車に乗る。
そしてパーティー会場へ。ホテルのロビーに着いたらお父様とジークさんが立ち話をしていた。2人共正装していてとても格好いい。そんな2人はロビーにいる女性の視線を集めている。
お母様はまた私の手を取り真っ直ぐに2人の元へ。お母様はあの2人といても負けないくらい綺麗だが私は違う。ちょっと血色が良くなった程度なのだ。
腰が引けながらジークさんの所へ。すると私に気付くなり駆け寄り抱き付いて当たり前の様に口付けて来る。
「咲。綺麗すぎて言葉が出ないよ。ドレス良く似合っているね。私の色に包まれこのまま連れ去ってしまいたくなるよ」
「止めてね。それに褒め過ぎですから」
ぎゅうぎゅうに抱き付かれロビーで注目を浴び嫌な汗が出て来る。助けて欲しくと兄役のタチバナさんを捜すが、リアナさんと何かお話されていて助けてくれそうにない。お父様とお母様は和やかにお話しされていてこっちを見ていない。
困っていると超美人が一人こちらに向かって来る。それに気付いたジークさんが嫌そうな顔をしている。知り合い?
『ジークヴァルト様御無沙汰しております。そちらの女性が例の方ですか』
するとジークさんは私の腰に引き寄せ無表情でその美人を見据えて冷たい声で
『この度はわが社のパーティーにお越しいただきありがとうございます。今日もお綺麗でご婚約者殿が羨ましい限りです』
英語?で話している2人。私は会話に入れないからお口チャックした方がいいと思い、通訳しようとした倉本さんに首をふった。それに何故か聞かない方がいい気がしている。
美人はジークさんに好意的な視線を向け、ジークさんの表情は氷の様に冷たい。無言の見つめ合い?睨み合い?をして挟まれた私はどうしていいか分からない。そしてすぐに
『レティシャ!』
『ヤン様』
ちょっい小太りでちょっと山頂付近が薄い中年男性が小走りで来た。そして美人の腰を抱きジークさんに挨拶され、ジークさんはビジネススマイルでその男性に挨拶している。
「!」
ジークさんはぐっと私の腰を引き寄せ楽しそうな顔をする。すると美人は顔を歪め嫌そうな顔をする。この美人は何かいわくつきな人なんだ。
そして美人は連れの男性にエスコートされ別れる…が…美人が顔だけ向けて
「エミサン。ジュンタ ナカヨクネ」
「へ?」
すると倉本さんが私の前に立ち、ジークさんは私の耳を手で押さえた。
私はその美人と面識がない。でも美人は“ジュンタ”なる人と仲良くと言った。と言う事は私とその“ジュンタ”さんは知り合いで、その美人も“ジュンタ”さんとは知り合い?
少し考えていたらジークさんが必死に私の気を反らそうとしている。ぼーっと考えていたら…
「あっ!田沢さん?」
「っつ!」
ジークさんの表情からビンゴの様だ。あの美人は田沢さんと知り合いなんだ。実業家の田沢さんがセレブと知り合いなのは有り得るよね。でも私と田沢さんが知り合いなのを何で知っているの?一生懸命無い頭で考えていたらジークさんが
「咲。女性に失礼だが彼女はあまりいい噂を聞かないから忘れてくれ」
「うん…」
ジークさんが嫌そうだからもう何も言わないけど多分分かっちゃった。田沢さんにハニートラップを依頼した女性で、ジークさんがえぐい報復をしたって言ってた女性だ。
『やっぱり知らぬが仏だなぁ…』
そう思い必死で別の事を考忘れようとした。
そしてタチバナさんに促され会場に移動する。会場はこのホテルで一番大きく有名人が何億円もかけて披露宴する事で知られていて、野球が出来そうな位大きい。中に入ると沢山の人がジークさんに挨拶に来る。邪魔になるから離れようとしたら、腰をさらに強く抱き込まれ逃がしてくれない。諦めて隣で作り笑いしていたら、挨拶に来た人達が私が何者か聞いてくる。
『止めて!』と心で止めるが彼は破顔して
「私の最愛の人です」
とドヤ顔で言うジークさん。もう帰りたい…
皆さんの視線が不釣り合いだと語っているが彼は気にもしていない。そしてそろそろ始まるという時に会場のど真ん中に連れて行かれ、ジークさんは私の手を取り跪いて
「この世界で私が愛するのは咲君ただ一人だ、貴女のそばにいる権利を私にくれないか」
前にホテルのエントランスでプロポーズされた時も目立つ場所で嫌だったのに、もっと目立つ所でされて頭の中が真っ白になる。
唖然とする私の手を強く彼が握り、やっと意識が戻り彼の後方にいるご両親が目に入る。
2人共いい笑顔で返事待ちしている。
小心者の私にはきついシュチュエーションだけど、目の前の彼の表情は真剣で…
「よろしくお願いします」
そう返事するとジークさんは左手の甲に口付けてポケットから何かを出した。それは指輪で宝石はあまり大きく無いが、見たことなもない輝きを放ち目が痛いくらいだ。彼はそれを私の左手薬指に指輪を嵌めて立ち上がり、思いっきり抱きしめて口付けた。
まわりで響めきと拍手が起こり、お母様が飛んできて私とジークさんに抱きつく。
お父様はジークさんと握手をしていて、後ろで見守るタチバナさんは完全に男泣きしていて引くレベルだ。そしてご両親と部下の皆さんが一斉に拍手し祝福してくれる。
こんなサプライズは世の女性は大好物で感動ものだろうけど、地味で目立つのが嫌いな私には公開処刑でしかない。
「ジークさん恥ずかしいから、こういう事は二人の時に…」
「いえ、今する意味があるので我慢してください」
「あの…意味が…」
「あとで説明しますよ」
そう言いウィンクした。まわりはお祝いムード一色だが、所々痛い視線を感じる。その視線は大方若い女性だ。もしかしてまだ縁談が未だ来ていて、それを一掃するためにパフォーマンスなの?
会場が納まった頃に司会進行役が登場し、パーティーは始まりジークさんとお父様は壇上に上がり挨拶をされ、私はジークさんが用意してくれた上座端の席に座りそこで休憩している。お母様はしっかりホスト役として来賓のお相手をしている。
それを見ながら倉本さんにお相手いただきのんびり過ごす。すると例の美人が歩いて来て、倉本さんが私の前に立ち視界を遮る。
全く見えないが倉本さんがその美人と話をしている。日本語では無いので何を話しているか全く分からない。暫く無言になり終わったのかと思ったら
「エミ happy ネ デモ ジークヴァルト エミ ニアワナイ ポイ デ the end ヨ」
その美人は辿々しい日本語で私をディスってきた。確か彼女はジークさんとお見合いしていたはず。ジークさんの事まだ好きなのかもしれない。そうなら私はライバルになるの⁈
すると(見えないけど)話し声が増えて誰か参戦した。
参戦者は女性で私をディスった女性と言い合いを始めた。状況を把握したくて倉本さんの壁からズレると、参戦した女性はお父様の秘書のリアナさんで喧嘩レベルだ。
倉本さんの裾を引っ張り
「倉本さん!通訳して状況を教えて下さい」
「え…私の口からは言えないような話しでしてご勘弁下さい」
「ではどんな内容かだけでも。だって気になります」
すると暫く考えて困りながら
「あの女性はジークヴァルト様に好意があり、咲様をよく思われておりません。それをリアナさんが批難している状況です」
「あ…やっぱりディスられてるんですね」
「あ…ヤバいな…ボスが気付いてしまった」
倉本さんがそう言ったから壇上にいるジークさんを見たら凄い顔をして、いきなり壇上が飛び降りた。会場が騒然としている中、すごい勢いでこっちに向かってくる。
『やめて!もぅ目立ちたく無い!』
ジークさんが移動した周りの人がこちらを注目し出す。これ以上注目浴びたら死んじゃうよ!
そしてジークさんは例の女性に向かって何か言っているが勿論分からないし、倉本さんは通訳してくれないし…うーんカオス。
そして向こうの方から例の彼女の婚約者が顔面蒼白で体を揺らし走ってくる。そしてジークさんが何か言った瞬間この大きな会場が凍った。
何か言われた女性は膝から崩れ落ち、駆けつけた婚約者は必死にジークさんに謝っている。気がつくとタチバナさんが来て私の手を取り会場を出た。
「咲様を不快にさせ申し訳ありません。恐らく今後あの女性が咲様の前に現れる事はありませんからご安心を」
「って言うか何を話していたが分からなかったので説明を求めます」
すると苦々しい表情をしたタチバナさんが
「私の口からは申し上げれません」
と言いそれ以降何も話してくれなくなった。
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