8.咲 〜 前世 2 〜
ケインが絡んできて穏やかな日常が崩れていく
「はぁ…」
まだケイン様からの花は続いてもう1ヶ月経つ。お礼の手紙にやんわり贈らないでと記したが効果無し。花だけで手紙や訪問は無く今静観中だ。
心配なのかアルフが頻繁に会いに来る。迷惑掛けて申し訳ない反面会えるのは嬉しい…
今日も用事帰りに顔を見に来てくれたアレフの表情は暗い。心配で訳を聞いたら「大丈夫。エミリアは心配しなくていい」としか言ってくれない。
一抹の不安を感じながら今日もアルフを見送った。
夕食の席でお父様からお話があった。
「エミリア予定通り就学先は王都のアカデミーでいいかい?」
「はい。お願いします。お友達もアカデミーなので」
「アルフレッドは訓練所か?」
「はい…」
そう14歳になる私とアルフは進学する。私は王都のアカデミーに、アルフは騎士になる為に訓練所へ。
大体の貴族子息女はアカデミーに通い、アルフのように騎士を目指す者は訓練所だ。
それぞれ2年通い成人を迎える16歳で卒業し、アカデミーを卒業した男性の主な進路は嫡子は領地で学びそれ以外の男性は王城で文官としてお勤めをする。女性は婚姻まで王城で行事見習いとして奉公するか、成人しすぐに嫁ぐかである。
アルフは嫡子では無いため騎士になる道を選んだ。騎士になりゆくゆくは侯爵家の騎士になるようだ。
私はアカデミーで学び卒業後は家に入り花嫁修行をする事になるだろう。
「訓練所に入ったら今みたいに会えなくて寂しくなるわね」
「母上。アルフはまめな奴だからそれこそ毎日手紙を送ってくるさ。なぁエミリア!」
「だと嬉しいんですが、鍛錬でお疲れになるでしょうからご負担ない様にしていただきたいですわ」
「相思相愛だね。私達の若い頃のようだねマリーナ」
「いやだわ!ライリー子供達の前で恥ずかしいわ」
両親は仲が良く偶に兄様や私の存在を忘れて2人だけ世界に入る。
『兄様のせいですからね!』
『すまない。早く食べて部屋に戻ろう』
視線で兄様と会話して急いで食事を済ませた。
兄様と食堂を退室しようとしたら、お母様が
「エミリア。明日は新しいドレスの合わせに出かけますから早く起きて頂戴ね」
「はぁ〜い」
そうだ。アカデミー入学の前に大事な行事があった。マルラン王国の第2王子の誕生日を祝う舞踏会がある。第2王子のエリアス殿下は私と同じ歳でアカデミーで同じ学年になる。
アカデミー生活を円滑にする為に舞踏会に参加しご挨拶しなければならない。
その為にお母様がドレスを新調したのだ。あまりおしゃれに興味無い私はドレス合わせが煩わしく思いながら早めに就寝した。
「はぁ…疲れた…」
ドレスの試着が思いの外時間が掛かり、昼食を食べて帰る事にした。よく行くレストランの前で馬車を降りると声を掛けられた。振り返り声の主に驚愕する。
「エミリア嬢。この様な場で奇遇ですね。お食事ですか?」
慌ててカーテシーをしご挨拶する。そう遭遇したのはケイン様とイグラス公爵夫人だった。
お母様も同じくご挨拶する。
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。マリーナ様とエミリア様はお食事ですか?良ければご一緒いたしませんか⁈」
「ご子息様とのお食事ですのにお邪魔になりませんか?」
「いえ!反対にご一緒いただきたいわ!」
お母様は明らかに困っているが、高位貴族の申し出は断れないのが貴族社会だ。
「お邪魔で無いのでしたら是非…」
『…お母様お顔の色が悪いわ。私以上に人見知りだから。それよりケイン様とお食事なんて…公爵夫人がいらっしゃるからお花の件も話せないし…なんて日なの!』
ケイン様はにこやかに手を出し私は手を重ねた。すると手をぎゅっと握られギョッとする。
この後私はケイン様に、お母様は公爵夫人に一方的に話し掛けられ何をどの位食べたか分からない程神経を使いぐったりして家路に着いた。
屋敷に戻り部屋でベッドに倒れ込む。
「はぁ…」
『今度の舞踏会で一曲お相手願いますか?』
ケイン様とダンスする羽目になった。公爵夫人からはエスコートを申し込まれたが、お母様が(仮)婚約者がいてその方にエスコートしていただく約束をしていると断ってくれた。
公爵家の方は押しが強い様だ。こちらがあやふやな態度をするとぐいぐい来る。あの手のタイプは苦手だ。疲れ果てこの日夕食も食べずに就寝した。
勿論お母様も同じだった。
翌日遊びに来たアルフは話を聞き顔を歪め押し黙る。この時私は知らなかったけど、イグラス公爵がアルフと私の婚約を破棄する為に暗躍していたのだ。何も知らない私はただアルフが来てくれただけで安心しまた日常に戻れた。
そして日が経ち舞踏会当日が来た。朝から侍女3人掛かりで支度をし、やっと準備が終わる頃アルフが迎えに来てくれた。
アルフは濃紺のロングジャケットにラベンダー色のタイを結んでいてカッコいい!
惚れ直すって言葉こんな時に使うのね!
「エミリア!なんで綺麗なんだ!やっばり舞踏会は行かない方がいい!他の男の目に触れさせたく無い!」
「行かない訳にいかないし護ってくれるんでしょ⁈」
「勿論だよ。私の姫!」
アルフは私の頬に優しく口付けてハグしてくれる。
「アルフ、エミリア。そろそろ登城するよ。馬車に乗りなさい」
お父様に促され馬車に乗り王城に向かった。1時間ほどするとマルラン城が見えて来た。何故か胸騒ぎがしてアルフの手を握る。
見上げたアルフは難しい顔をしていて舞踏会で何か起こると確信する。怖い…けど私にはアルフがいる。こっちを見たアルフに微笑み
「アルフ。大好きだよ」
やっと柔らかい表情になったアルフは
「エミリア。俺の方が何十倍も大好きさ!」
“ゔんっ!”お父様が咳払いをしてお母様は微笑んでいる。
「アルフ。エミリアはまだ嫁に出したわけでは無いよ!節度を持ちなさい」
「アルフ。気にしないでね。ライリーは妬いているだけだからね」
「当たり前だ。目の前で娘を口説かれていい気はしないものだ!」
「申し訳ありません。自重いたします」
こんな他愛も無いやり取りで緊張がとれ少し楽しくなって来た。美味しいデザートをいただき、アルフとのダンスを楽しもうと!
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