77.いたす?
実家に挨拶に行った帰りジークさんの部屋にお持ち帰りされ…
「明日は午前中に田沢さん所でエステを受ける予定なので今日は早めに帰りますよ」
「はい。では終わる時間を教えて下さい。お迎えに参ります」
「あ…明日エステの後は崎山さんとランチの約束しているの…で…ジークさん?」
気まずくて珍しく饒舌な私は余計な事を言ってしまい、自分で追い込むことになった。
ジークさんが真顔になり怖い。整った人の真顔がこんなに怖いなんて今知った。そう言えば賢斗もやきもち全開の時はこんな表情をしていたなぁ…
車内に気まずい空気が満ちて居た堪れない。助けて欲しく兄貴分のタチバナさんに視線を送ると仕事の連絡をしている様で電話中だ。
『要は咲が主導権取ればいいんだよ』
ここで愛華の言葉を思い出した。そうだ!私が誰に会おうとジークさんにとやかく言われる筋合いは無い!賢斗も私の交友関係にうるさかったけど、賢斗は夫だったからある程度は賢斗の願いを聞いて来た。でもジークさんは恋人(?)であって夫では無い。
なら言いたい事を言う。そうだ人に左右されないって決めたんだ!
「ジークさん。やきもちは分かりますが私は今まで通り友人と会います。そこをジークさんに制限されるのは嫌。そこまで口を出されると息苦しいし、今までみたいに自分が無くなります。だから…あ?」
ジークさんは繋いだ手を引っ張り抱きしめて来た。そして謝りながら
「相手が竜二君だから余計に心配なんです。恐らく咲さんは他の男より竜二君には信頼と安心が有るはず。彼は私と同じ騎士で巫女に安心を与える。それが“愛”変わってしまうのが怖いんです。それに咲さんは押しに弱いから…」
ジークさんの言葉に確かにと思ってしまった。仕事柄沢山の男性と接し(仕事上の)付き合いもある。信頼できる人も多いがジークさんと崎山さんへの安心感は他の人には感じない。やはり巫女だから本能的に騎士に気を許すからなのか?
「ジークさんの言う通りなのかもしれませんが、私が一緒に居たいのはジークさんだけですよ」
「咲…」
ジークさんの瞳に熱が籠り顔が近づき…思わず手でジークさんの口を塞ぎ
「人がいるから嫌です」
「タチバナ!急いでくれ」
「間もなくでございます。ジークヴァルト様紳士の振舞を!」
タチバナさんに窘められ少し落ち着いたジークさん。心でタチバナさんにお礼を言っておこう。
こうしてやっとジークさんのマンションに着き部屋の前に来た。流石オーナの部屋だけありジークさんの私室の15階に行くにはEV内の操作パネルにキーを差し込まないと15階へ行けない仕組みになっている。高級ホテルの特別室がこのような仕組みになっているのを見たことがある。
部屋の鍵を開け中に入ると玄関横の壁にもう一つドアがある。シューズクローゼットかなぁっとドアノブに触るが鍵がかかっていて開かない。気になりジークさんに聞いても教えてくれない。少し嫌な気がして来た。もしかしてやきもちの強いジークさんが私を監禁する部屋を作ったとか?
不審な目で見ていたら後から来たタチバナさんにお茶を入れるからとリビングに案内される。
引っ越してから数週間たち生活感が出て来たリビング。男性の部屋とは思えないほど綺麗でいい匂いがする。見渡すと空気清浄機とアロマディフューザーがセットされとてもいい香りがする。私の好きな香りでとても落ち着く…ソファーに体を沈め超リラックス…
でも隣に座るジークさんはそわそわしていて…
「タチバナ。明日の朝まで外してくれ世話は必要ない」
「畏まりました。ジークヴァルト様…紳士を心がけて下さいませ」
「あぁ…分かっている」
こうしてお茶を入れたタチバナさんは退室していき、広いリビングに2人…ここで思い出した。
『私お持ち帰りされているんだった!』
慌てだす私にジークさんが
「今日は泊まって下さい。貴女と朝を迎えたい」
「えっと…そのつもりじゃなかったので、用意して無くてですね…一度部屋にもどり…」
「貴女の身の回りの物は揃えてしますから安心して下さい」
そう言いジークさんは私の手を引いて部屋の中を案内してくれる。洗面所には私の愛用の化粧品とバスにはシャンプーやコンディショナーにクレンジングまで!そして主寝室には私の部屋着や下着類も!そろそろ怖くなって来た。ジークさんの手を払って一歩下がり
「ジークさん怖い…」
「え?」
主寝室にある私の衣類を確認すると好きなブランドでサイズもあっている。ジークさんに聞いたらサイズは愛華に確認したそうだ。
「ジークさん。これは引くわ…せめて一緒に行って買い揃えるのは分かるけど、ジークさんが下着類まで買うなんて…」
「あっ!下着類は女性のスタッフに頼み私が買って来たわけでは…」
明らかに落ち込むジークさんを見て、生前の賢斗を彷彿させる。
『何?マルラン王国の男はこんなに独占欲が強いの?っという事は崎山さんと付き合っても同じなの?』
愛情深いのは嬉しいが執着深く先走るの困ってしまう。これは子供の躾の様に毎度毎度注意しないといけない様だ。溜息を吐いて一応許すが…
「これからは小さな事も話して欲しい。勝手にしないで」
「分かりました。咲さん嫌わないで欲しい…」
今回だけだと許し落ち着いたが、今日はお泊りを予定しておらず洗濯物を干して来ている。取り込みたいからやはり一旦帰る事にした。一人で帰るつもりがやっぱりついて来るジークさん。
引越し後部屋に招き入れるのは初めてだ。
『良かった…出る前に片付けといて』
ジークさんにはリビングで待ってもらい、急いで洗濯物を取り込んだ。ほっとしてキッチンでお茶を入れていたら背中が温かくなり
「早く貴女と一緒に住みたい」
「うん…とまだ早いかなぁ?」
「急ぎません。貴女に会うまで40年も待ったんだ。それに比べたら大した事ではありませんよ」
「気長に待って下さい」
このまま家に居たいけどジークさんは早々にマンションに戻ろうとしている。覚悟を決めて着替えを用意しようとしたら、ジークさんの用意した物を使って欲しいという。ちょっと抵抗があるけど…話し合うのも面倒くさくて彼の希望通り手ぶらでジークさんのマンションに向かう。
信号待ちで空を見上げると日が落ちてきている。スマホをチェックしたら17時半だ。
『あ…夜になっちゃう』
思わず身が強張る。私の緊張に気付いたジークさんが
「1秒でも早く貴女が欲しいが強引に事を進める気はありませんよ」
「あ…はい」
そう言うと外なのに口付けて来て後ろでざわめきが起こった。恥ずかしく気付かないふりをして信号を渡った。
そしてまたジークさんの部屋だ。またリビングのソファーでのんびりしている…が…ジークさんの熱い視線が痛い。
どうしようか考えていたらメッセージが入る。チェックすると崎山さんからだ。明日のランチ何が食べたいか聞いてくれた。和食系がいいと返事し何気なくジークさんと見ると溜息を吐いて
「貴女と一緒に居れるようになれば悋気が落ち着くと思ったが反対でした」
「あんまり束縛されると私逃げますよ」
「分かっているんですがね…」
そしてまた崎山さんからメッセージが入る。スマホをローテーブルに置いていて、そのメッセージがジークさんの目にとまる。そしてまた溜息を吐いて驚く話をし出す。
「竜二君に聞いた話ですが巫女と騎士は体を繋げて初めて魂が完成するそうです。だから交わるまでは魂が半人前な上、不安定で異常なまでに執着と嫉妬にかられる。竜二君に2度の転生とも同じだったと聞きました。だから…」
「だから嫉妬深いと⁈」
「はい…ですから」
懇願する様な表情で見て来るジークさんが自分でも不思議なくらい愛おしく感じる。外の顔のジークさんは完璧で能力や容姿に非の打ちどころがない。でも私と居ると良く暴走し残念な時も多い。付き合う様になってこのギャップにキュンとしてしまう。
「やっぱり好きなよね…」
「え⁈」
「あっ」
呟いた瞬間に抱き付かれソファーに押し倒され激しい口付けを受けた。やっと唇が離れたと思ったら急に体が浮いた。見上げると今まで見た事も無い男の顔をしたジークさんが足早に寝室へ移動している。
『えー!このままいたしちゃうの?』
パニックになっている間に主寝室に着いてゆっくりとベッドに下され、また荒々しく口付けされて酸欠になり頭が回らない!
そしてジークさんが私の上着のボタンに手をかけて…
「ちょっと待って!」
「え?」
「シャワーしたい!」
「私は気になりませんよ」
「私が嫌なの!あ!ジークさんじゃなくて自分にだからね!」
嫌だと言ったがまた口付けを行為を再開したジークさんだったが、私が必死で拒み一時中断しシャワーする事になった。
すこし残念そうなジークさんだがここは譲れない!賢斗の時もどんなに賢斗が求めてもシャワーをしないと嫌だった。
『自分では気にもしてなかったが、案外私潔癖症かも…』
ジークさんを受け入れる気になった私の気が変わらない様に、バスルームまで手を引き足早に歩くとジークさん。慌ててるのが似合わず思わず笑ってしまう。案内された洗面台もバスルームもとても広くて小さい旅館の様だ。使い方を教えてもらい入ろうとしたらジークさんが棚から何かを取り出し渡してくる。
受取り見たらバスローブだった。柔らかく肌触りのいいタオル地で高級ホテルに泊まったかの様だ。そして口付けて何か言いたげだ。嫌な予感がして
「直ぐ上がりますからリビングで待ってて下さい」
そう言うとあからさまに肩を落としてバスルームを出て行った。初めてなのに一緒に入れるほどハートは強くないよ!
やっと浴室に入ると再度広さに驚き浴槽に釘付けになる。4、5人が入っても余裕のある大きさだしジェットバスだ。
凄いと感心しこの後の事なんて頭から飛んでいった。
こうしてゆっくり時間をかけてシャワーを浴びスッピンになり慌てる!
『マスクも眼鏡もない!隠すものが無い!』
まだ堂々とすっぴんを晒せる勇気はない。仕方なくタオルを頭から被り、脱いだ服を持ちバスルームを出た。
するとリビングから走って来るジークさん。まるでお留守番していた大型犬の様でまたキュンとする。
そして私をソファーに座らせてミネラルウォータを渡し、すっぴん隠しのタオルで私の髪を甲斐甲斐しく拭いてくれる。
「私はいいのでジークさん?」
「はい!速攻で入ってきますから!」
「いえ、ゆっくりして下さいね」
また走って行ってしまった。ミネラルウォータを飲み一息付いたら冷静になり、この後の事を思い出し焦る。
『そうだ!この後するんだった!一旦落ち着いてしまって、あのテンションに直ぐならない!』
今になってあの勢いのまましちゃた方がよっかったと猛烈に後悔している。
そしてふとさっきまで着ていた私服が目に入り思わずデニムを手に取り…
「咲さんお待たせ?」
「あっ!」
「何してるんですか⁈」
「えっと…」
ジークさんが来る前に着替えようと、片足をデニムに通したところでジークさんがバスルームから出てきた。
ジークさんは髪もまだ濡れた状態で足早に来て無言で私を抱き上げ、足からデニムを剥ぎ取り寝室は直行!
そして…はい…いたしました。
賢斗が亡くなってから行為には縁が無く、どうしてたかも忘れていて、彼の腕にしがみ付く事しか出来なかった。
必死すぎて何が何だか…でも嫌では無かったです…はい…
若いジークさんに付き合ったら最後は寝落ちした様で、目が覚めたらジークさんの腕の中だった。見上げたら優しく綺麗な若葉色の瞳と目が合う。すると触れるだけのキスをして
「おはよう。体は辛くありませんか?」
「えっと…多分?」
「出来るだけ優しくと思ったのですが、最後の方は暴走してしまい…」
行為中の事を言われ恥ずかしくて彼の胸に顔を埋める。そして…
「あっ!」
勢い良く体を起こし彼に
「ジークさん胸!」
そう言うと彼も体を起こして徐に私の胸を手で包み込み
「朝から積極的ですね!まだ愛し足りませんか?」
「もぉ!違う!」
そう言い彼の手を払い彼の左胸を指差すと驚いた顔をして彼が
「痣が!」
「そう消えてえるんですよ!」
「咲さんの痣は?」
彼はそう言うと私の左手を取り手の甲を見て
「咲さんの痣も消えている…竜二君の言っていた通りだ」
自分の手を見て固まる。生まれてから46年私の手の甲にあり続けた痣が一晩で無くなってしまった。まるで初めからそこに無かったかのように…
そして言葉なく何方からともなく抱き合い口付け、自分の中に温かいものを感じ泣きたくなった。見上げると彼も同じ事を感じてる様だ。
『これで2人の魂が完全になったって事なのかなぁ…』
そんな事を思いながら言葉も無く暫く抱き合っていた。
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