69.修羅場?
崎山vsジークヴァルト。咲の答えは…
「ジークさん離して」
大きいジークさんの腕の中で抗うがびくともしない。目に入るのはジークさんのご立派な大胸筋だけ。
「・・・」
「ジークヴァルトさん。貴方は一度咲さんを失い慎重になり過ぎている。周りはいつまで待ってはくれない。経営者の貴方なら攻め時が分かっている筈です」
「あの…私抜きで話を進めないで」
そう言うと少しジークさんの腕が緩んだ。見上げると不安の色を孕んだ瞳と目が合う。
すると脳裏で夢で見たあの女性の言葉が響く
『大丈夫』
崎山さんは私の手を取り…
「咲さんは心のままに求めればいい。私であれば嬉しいが、ジークヴァルト氏でも田沢君でも」
「田沢さんは無いです」
すると楽しそうに笑う崎山さんはジークさんの肩を叩き
「あまり遅くならない様に。凛さんが心配しますから」
「咲さん。ジークヴァルト氏からも求婚があると思います。聞いてあげて下さい」
そう言い戻っていった。
まだ抱きしめられたままの私は再度ジークさんの背中を叩く。するとゆっくり腕を解き私の手を取った。そして巫女の痣を撫でて
「咲さん。初めて会った時の事を覚えていますか?」
「えっと…ホテルの廊下でぶつかって、私がジークさんの高そうなカフスをダメにしちゃったんですよね」
そう言い見上げると微笑んで
「あの時座り込んだ貴女に手を差し伸べ手を掴んだ瞬間心が震えたのを覚えています。その感覚が何か分からず手当てするために左を見た時にこの痣に気づいた」
「はぁ…」
「後付けになりますが、痣を見る前から貴女に興味を持っていた。そこには前世の縁は関係なかったんです。痣を見てからアルフレッドの記憶が先走ってしまったが、私ジークヴァルトは出会った時から貴女に惹かれていた。生涯私の愛が向くのは貴女だけだ」
告白を受け全身が震えるのが分かる。崎山さんには悪いが、全身がジークさんの言葉に反応している。
崎山さんが言った様に時間をかけてゆっくり付き合えば私は崎山さんを受け入れ愛するかもしれないけど…
ジークさんからの告白にさっきから鼓動が早くなり苦しい。自分の気持が見えな。でもいつまでも2人を振り回す訳に行かないわそろそろ答えないと…
ふとジークさんの綺麗な唇が目に入る。先ほど崎山さんにキスされた事を思い出し体が熱くなる。そして崎山さんにディープキスされそうになった時、『嫌。無理』と体反応して気が付くと崎山さんを突き飛ばしていた。
おかしい…崎山さんは多分好きだと思う。けど…深く触れ合うのはブレーキがかかる。
崎山さんへの想いは違うの?
ならジークさんは?
さっきみたいにキスしたら分かるの?
そんな事を考えながらジークさんの唇を見ていた。そんな私に戸惑いながらジークさんが
「咲さん?」
「さっさっき崎山さんにキスされた時びっくりしたけど嫌でなかった。でもえっと…深いキスになった時に“嫌”だと思ってしまって…
ジークさんともそう思うのかなぁって…」
「なら試してみませんか?」
そう言ったジークさんは大きく温かい手で私の両頬を包み、ゆっくり綺麗な顔が近づき抵抗せずに目を閉じた…
優しく触れるだけのキス…心が震えるのが分かる。思わずジークさんの胸元を掴んでしまう。すると片手を頬から離し、その手は私の腰にまわった。
崎山さんと同じ様に角度を変え何度も口付けされ、全身が心臓になった様にドキドキしている。そして…
何故かジークさんの口付けは初めてなのに懐かしく感じ嫌じゃない。そして唇は離れ私を見つめて
「嫌なら殴って下さい」
「へ?」
そう言ったジークさんは強く抱きしめ噛みつくような荒々しいキスをする。そして…唇を割ってジークさんが…
『!』
ジークさんの熱が移りドンドン私の体温が上がって行きのぼせて意識が遠のき膝から崩れた。ジークさんが支え唇が離れて…
『あ…え…寂しい…えっ?』
思わず離れたジークさんの唇に寂しさを感じると同時に戸惑う。
「咲さん?」
ジークさんは私の腰に両手を添えて熱を帯びた瞳で見つめている。自分でも分からないが何か言おうとしたら…
「お母さ〜ん!皆待って…あれ?あちゃ~私お邪魔虫?ごめーん!」
「違う!すぐ戻るから」
慌ててジークさんから離れた。すると察した様な凜は真面目な顔をしてジークさんの前に行き真っ直ぐ見据えて
「ジークさん。私まだ貴方の事を知りません。だから正直信用していません。母の事遊びなら許しませんよ」
「凛!」
するとジークさんは胸に手を当てて真面目な顔をして
「亡き貴女のお父様と貴女に誓い咲さんを幸せします。厳しい目で私を見て下さい。必ず信頼を得ます」
暫くジークさんを見据えていた凜が口を開き…
「やっぱり私…元の銀髪で長髪の方が好きだなぁ…でも私容姿に騙されませんからね!母をお願いします」
そう言い頭を下げる凜。
「あの…」
「何?お母さん?」
「まだ、ジークさんと付き合うと決めた訳じゃなくて」
「「えっ!」」
二人同時に驚き固まる。
「ぼんやりと自分の気持に気付いとところで、まだ…」
「まだエミリアの制約が…」
「あ…多分ね…それは無いと…今は逃げたいとは思ってないです」
「咲さん!」
凄い勢いでジークさんが抱き付き、またジークさんの大胸筋で視界が無くなり凜の顔が見えない。親のラブシーン何て罰ゲームのでしか無い!
「ジークさん!凜が居るのに!」
「あ…お母さん大丈夫。お父さんも所構わずお母さんに抱きキスしていたから慣れてるわ。あー私も彼氏欲しい!」
凜が巫山戯てくれ場が和み助かった。流石にこのままここに居る訳にもいかず戻るが、家には崎山さんがいて気まずくて戻れない。困っていたら
「咲さん大丈夫ですか?」
「正直…気まずいです。凜ごめん。崎山さんを呼んで来てくれる?」
「えっ?何崎山さんもう振っちゃうの?」
「もー煩いな!早く!…でジークさんも戻って下さい」
「いえ私も!」
「また時間取りますから…」
ジークさんは渋ったが凜がジークさんを引っ張って行った。
気が抜けてベンチに座り暫くすると崎山さんが来た。そして隣に座り
「ジークヴァルト氏から告白を受けましたか?」
「あっはい」
「それで私は今から振られる訳ですね」
「えっ?」
思わず崎山さんの顔を見ると
「恐らく咲さんの性格からして断わりずらいでしょうから先に私の話を聞いて下さい」
「はぃ?」
崎山さんは私の手を握り、また指で痣をなぞる。
そして…今日の集まりで関係をはっきりさせるつもりだった事。そして崎山さんはジークさんと私をくっつける算段をしていたそうだ。
「咲さんはご自分の心の声が聞こえにくい様で、周りの者が強引に事を勧めないといつまでも気付けない。そしてジークヴァルト氏は初めのアプローチを間違い臆病になっている。ここも咲さんと同じなんです。だから私が愛華さんの提案を利用して2人を近づけようと…」
崎山さんはどこまでも優しい。もし前世の記憶が無く普通に出逢っていたら惹かれて好きになっている。
そんな事を考えながら崎山さんの顔を見ていたら苦笑した崎山さんが
「貴女に口付けた時に一番に感じたのは佐那でした。同じ巫女だからでしょうか⁈
佐那と口付けている様に錯覚して思わずそれ以上を求めそうになった。再認識したんです。咲さんの事は愛おしいし好きだ。しかしやはり心から愛するのは私の半身の佐那だけ…」
こんなに愛されて佐那さんが羨ましいと思ってしまった。そして困った顔をして
「だからジークヴァルト氏も私と同じ様に貴女を心から愛している。私もそうだから分かる。しかし…貴女にも心奪われているんですよ私は。お世辞や慰めでは無く本心です。そこは信じて欲しい」
「はい。ありがとうございます?」
「だからジークヴァルト氏と結ばれなかった時は、私をパートナーとして残りの人生貴女の側に居させて欲しい」
これって振られに来てるの?それとも2度目の告白?更にどうしていいか分からなくなるじゃん!
困った顔をしていたら両手をあげて戯けて
「私の本心を述べたら余計に話が難しくなりましたね。基本ジークヴァルト氏と結ばれて欲しい。そして私を振っても今まで通りデートはして欲しい。私には巫女の癒しが必要だ」
いつも通りの口調と眼差しの崎山さんを見ていていい関係でいれそうと思った、そしてそれはとてもありがたい。だって年上で頼れる素敵な人だから
「崎山さんと知り合えて良かった。これからも友人として仲良くしてもらいたいです」
「はぁ〜やっとしっかり振られましたね。これからは貴女の親友として支えになりましょう」
「よろしくお願いします」
崎山さんが両手を広げてハグ待ちしている。私から抱きついたら…
「あ⁈咲さん崎山さんにしたの?ジークヴァルト氏なら敵わないと思ったけど、崎山さんに負けたのはショックだ!」
「田沢さん?」
「遅いから迎えに来たのに!人のラブシーンは要らない!」
更に強く抱きしめる崎山さんの顔は幼い悪戯っ子の様だ。笑いながら崎山さんに解放してもらい。田沢さんもハグしてあげた。
こうしてドタバタした告白TIME終え家に戻ると愛華が意味深な顔で見てくる。後が怖いなぁ…
時計を見たら22時半だ。そろそろお開きにして男性陣のお迎えが来るのを待ち解散となった。帰り際にジークさんが
「明日会いに来ます」
抱きしめ耳にキスして帰っていった。途端に顔が熱くなり楽しそうな顔をした愛華と凛がニヤけて私を見る。この後日付けが変わるまで根掘り葉掘り聞かれる事になった。
私やっと明日からジークさんとちゃんと向き合います。
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