表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/81

64.柵

降って湧いた遺産相続に戸惑い更に叔父からの手紙。どんどん複雑になる状況に溜息しか出なくて…

家事を終え一息つくとお昼になっている。冷凍庫からパスタをレンチンし、バケットを切りコーヒーを入れる。


準備ができて食べようとしたらメールが入る。確認すると崎山さんからだ。

叔父のお悔やみと体を労わる内容に優しさを感じる。そしてまたデートしたいので、落ち着いたら連絡して欲しいと書いてあった。


「そっか…出勤してると思ってるんだ。昼休みの時間だからかぁ。流石社長だけあり気遣いの人だ」


『お気遣いありがとうございます。色んな事が起こり過ぎて心がついて行かず、戸惑っています。少し整理したいので少しお時間をいただきたいです。落ち着いたら連絡します』


メールを送りパスタを食べ出すとまたメールが


『分かりました。私はいつまでも待ちます。でも辛い時は頼って下さい。私の腕は貴女専用ですから』

「甘!激甘!」


歯の浮くようなセリフに悶える。メールだから耐えれた!だが面と向かって言われたら卒倒します。こうして崎山さんのメールで少し心落ち着いて叔父さんの手紙を読む決心が出来る。開封すると


「はぁ?何枚書いたの!」


開封すると便箋の多さに思わず苦笑いする。数えてみると10枚もある。まさか誕生から人生を語るつもり?


「はぁ〜」


溜息を吐き読み始める。予想通り生い立ちから書いてあり、正直付き合いも殆どない叔父の人生に興味はない。遺産を渡す事になった経緯だけ読めばいいとペラペラとめくり6枚でやっと”遺産相続”という文字が出てきた。

前の5枚は無駄で、叔父がこんな多弁キャラだと初めて知った。やっと遺産相続の経緯を読み出す。



『本当は母の遺産は咲と俺で半分づつ相続する様に遺言には明記されていた。しかし、俺は咲に佐川の遺産を渡したく無かった。お金が欲しい訳ではなく、咲を佐川の後継と認める様で嫌だったんだ』

「後継?おばぁさんは全く私の存在を認めて無いのに?」


意味が全く分からない!怒りが沸々と上がってくる中、更に読み進める。


『そこで俺は酷い言葉を中学生の咲に吐き遺産を放棄させた。正直やっと佐川の当主と認められた気がしたよ』

「佐川の当主?」


手紙の続きには歴代の佐川家の事が書かれていた。佐川の歴代当主は女が担って来て、娘を産めない代は落ちこぼれとされて来た。そして祖母は息子しか産めなくて曽祖母から責められていたそうだ。だから実父に期待し名門校に入れ大学卒業と同時に女系の名家より嫁を娶らせるつもりだった。そこにウチの母に横から溺愛し期待していた息子を奪われ祖母の憎しみの矛先が母に。そして更に生まれて来たのが熱望していた女の子(私)だった。


『家を捨てた兄貴の代わりに俺は表向きは次期当主となったが、佐川の家の者は直系の女児である咲を当主と見ていて、俺はお飾りの当主で劣等感でどんどん歪んで行ったよ。そして母は兄貴が亡くなり咲が美佐枝さんの就学により施設に預けられると知ると、信じられない事に母はうちで預かる言い出し本当に咲を預かった。

その時俺は母が咲を次期当主に育てる為に引き取ったんだと思い咲に殺意を持った』

「うそ!小学生相手に殺意をとかヤバいじゃん!」


身震いし背中に冷たいものを伝う。

闇深い佐川家に恐怖を感じる。ここまで読んである意味叔父も佐川家の柵の被害者だと少し可哀想に思えて来た。

そして続きを読むと私が佐川で過ごしていた時の事が書かれている。


『後に聞いた話だが母は咲は憎いが兄貴に似て優秀で兄の代わりに手元に置きたいと思う様になり、美佐枝さんが独り立ちできたら弁護士に依頼し養女にし次期当主にしようと考え出していた。俺は佐和子が女児を産み咲が居なければ、ウチの娘が次期当主になれると思い、咲を排除する術を探るようになっていった。

そして手段を見つけれず1年経った頃にあの虐待が起こった』


ここであのG.Wの事件が…


『母は咲の学校の懇談に行き、帰ってくるなり咲の離れに直行し事件は起きた。

俺が家にいると母から電話があり咲の離れに行くと…

小さい声で何度も誤り頭から血を流し打撲痕で青くなった体を小さい自分の手で抱きしめている咲。その横で医者の伯父に必死に電話をする母の姿があった。

俺は意味が分からず呆然としたいたら、電話を終えた母が佐和子と子供を暫く実家に帰す様に言い母屋に行ってしまった。

俺は怪我をしている咲を救護もせず、家に戻り佐和子と子供を無理やり車に乗せて佐和子の実家に向かった』


分かっていたけど本当に佐川の人は血も涙もない。自分に起こった事だったが改めて聞くと可哀想で小説になりそうな幼少期だと思った。


『佐和子の実家から帰ると医師の伯父が帰る所で、伯父に”文子(母)には言い聞かせたが次は無い。次何か起こしたら警察沙汰だ。母親が迎えくるまで咲には手を出すな。お前が監視しなさい”と…

蔵に行くと治療を終え眠る咲の横で顔が青い母がいた。なんでこんな事になったのか聞いたら…』

「やっぱりか…」


2年の懇談で担任から妄想癖があると言われた祖母。成績優秀で問題はないが、妄想が強く早めに精神科の受診を勧められたようだ。

地域で有名な名家の孫が精神科受診を勧められ、祖母のプライドが傷付いた。そして怒りとなり矛先が私に向いた。


『母はこの出来事があり完全に咲を諦め、美佐枝さんが迎えに来るまで極力接触を避けた。そして美佐枝さんが咲を迎えに来て佐川の家に平穏が訪れた。

この出来事から母は一気に弱り家の事に口を出さない様になった。当主もあやふやなまま俺になり家を預かった。

そして父が亡くなり母が床に伏せるようになると、母は弁護士に咲の事を調べさせていた。どうやら咲を遺産相続人として遺言を用意していた。ここでまた俺は咲に当主を奪われると焦ったよ。そして母が亡くなると弁護士を雇い咲に遺産を渡さない様に画策した。俺が必死にだったのに、咲はあっさり放棄したね。そこからは俺は佐川の当主として思うがまま好きに生きて来たよ』

「さいですか〜叔父さんのリア充話要らないし」


ここまで読んで叔父さんの話だけで、遺産相続について書かれていない!

ここまで読んだ感じ私は叔父と祖母に憎まれていた事だけで地味に傷付いた。


「やっと最後1枚!早く結論くれ!」


『母も俺も死と向き合い自分の人生を振り返って思った事は、佐川の柵に囚われ嫌な人間ヤツだったって事だけ。母は親父に愛されず、俺は家族に愛想尽かされ残ったのは名家の佐川の当主だけだった。

母も死の間際に咲に謝罪したくて遺産を咲に渡そうとし俺も然りだ。変なプライドで直接謝罪出来ない器の小さい俺と母を許して欲しい。

亡くなった兄貴も美佐枝さんと会い丸くなったが、佐川の気質でプライド高く不器用だった。俺の息子の伸一もその気質があり心配している。俺みたいになって欲しくない。

佐川の歴代守ってきた土地も手放し、もう柵は無くなった筈だ。

咲も悲しいかな母や俺と同じ佐川の気質を継いである。俺や母の様にならないように、自分の心に素直に周りの人を愛し、愛されて充実した人生を歩んで欲しい。

そして母と俺の形にできる謝罪が遺産だ。受ける受けないは咲の思うようにしてくれ。

この話は佐和子と伸一にすべて話し呆れられた。大人しい佐和子には烈火の如く叱られたよ。そして”もっと早くこうして話し合えば良かった”と俺のために泣いてくれた』


手紙には叔父さんの私への憎しみも嫉みも全て語られていた。最後に直接ではないが謝罪してくれた事に少し嬉しく思った。

何代前からか知らないが地位と財を持ち変なプライドから来る柵が皆んなを歪めたんだと思うと悲しくなった。


「名家や財を持っていても幸せとは限らないなぁ…」


詳しく書いてないがきっと祖母は曽祖母に酷いことを言われ続け歪んでしまったんだろうなぁ…


叔父さんが書いてあった通り佐川が守って来た土地もなくなり、もう誰も柵に囚われる事が無いと思うと安心する。

やっと遺産相続人の謎が分かりスッキリした。


「手紙読んでも意思は変わらない。放棄で!」


こうして父方の問題は解決した。明日にでも弁護士さんと伸一さんに連絡しよう。

ホッとしてコーヒーを入れ直し一息吐く。

頭を使い甘いものが欲しくて珍しくアイスクリームを出し食べる。

凝り固まった頭が糖分で緩んでいく。

アイスを堪能し手紙を片付けようとした時、最後のページのある言葉が目に入った。


《自分の心に素直に周りの人を愛し、愛されて充実した人生を歩んで欲しい》


心に素直に…私はどうしたいんだろう?

私の幸せは…

また悩む事となる。とりあえず今日はこれで終了!これ以上考えるとまた熱出しちゃう!

こうして明日の出勤に向けて体調を整える為に少し昼寝をしてダラダラと過ごしてこの日を終えた。


お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。


『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。


Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ