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63.遺産

イケメン上司 = ジークヴァルトである事が判明。戸惑いを隠せない咲はどうする?

改めて間近でジークさんのお顔をみる。別れた時に比べて痩せたが、瞳は温かく見ていると落ち着いてくる。長く綺麗な銀髪は茶色の短髪にチェンジしてるし…


『綺麗な銀髪で好きだったのに残念』


遠目では分からなかったが近くでじっくり見るとジークヴァルトさんだ。嬉しいのと困ったのと色んな感情が溢れ出し自分でも分からない。沈黙が続き暫く見つめ合う。そして…


「呆れましたか?」

「へ?」

「変装し付き纏う様な真似をして…」

「呆れてはいませんが何でかなぁ?って」


ジークさんは正座をして項垂れながら話し出した。私も正座して真っ直ぐジークさん見据え真剣に話を聞く。


「やり直したかったんです」

「やり直す?」

「はい。私は初め貴女を”エミリア”として見て”エミリア”を欲した。貴女は何度も”エミリア”では無く”梶井咲”だと言っていました」

「はい。言いましたね」

「アルフレッドの想いが強く、現世のジークヴァルトの意志も貴女の想いをかえりみず独りよがりでした」

「…」


確かに前世の記憶が戻った時に、エミリアとして接してくるジークさんに戸惑い受け入れれないと思った。だって今生きているのは私だから…


「今はアルフレッドの記憶や想い関係なく、今の貴女えみを愛している」

「…」

「そんな独りよがりな私は拒否され当然だと思います。しかし…これは願望と推測ですが、制約が無ければ私は貴女の心は与えられていた。違いますか?」


手を握り眉字を下げて聞いてくる。ジークさんの言う通り前世を全面に出さずゆっくり知り合ったら結果は多分違っていたと思う。

初めは正直『私はエミリアじゃ無い!』って想いが強かった。でも制約が効いている中でも、少しずつ誠実なジークさんに引かれていた。

頷くと淋しそうに微笑み私の左手を掴み痣を指でなぞりながら


「ですから制約が効かない様に、姿を変えて出会いからやり直したかったんです。制約なく出会いからやり直しても、想いが届かないなら今生での縁は諦めようと…」

「その為に髪を染め切ったんだすか⁈」

「はい。似合いませんか?」


なんか安易な手段に大企業の経営者がやる事と思えなくて、何故かほっこりして笑えてきた。笑ったら失礼だから堪えていたら不安な顔をして見てくるジークさん。

見た目が変わりジークさんと分かっていても不思議な感じ…


「私は今2度目恋をしています。それは貴女”梶井咲”さんです。これからの私の人生には貴女がいて欲しい」

「あ…」


ジークさんは優しくハグをする。見た目は変えても香りと抱きしめられた感覚は前と同じだ。懐かしい香りが胸いっぱいに広がり鼓動が早くなる。時折様子を窺っているジークさん。変身ジークさんのハグは嫌ではなくて、私はそのままジークさんの腕の中。


すると聞き慣れた着信音が!


「すみません!電話が」

「あっ!はい」


ジークさんの腕が緩み慌ててカバンからスマホを取り出し見ると母からだ。一言ジークさんには断り通話を押すと


『咲?今家に居ないの?』

「出てるよ。何かあった?」

『今佐和子さんから連絡があって正樹さんが亡くなったて。明日葬儀があるから連れてって欲しいの』

「分かった。出来るだけ早く帰り電話するわ」


叔父さん余命宣告されていたからなぁ…


「すみません。叔父が亡くなったので今日は帰ります」

「それは大変な…家までお送りしましょう」

「えっと…まだ私混乱しているので、今日はここで失礼します」


こうして急遽帰ることになり、崎山さんに連絡したら慌てて部屋に駆け込んできた。崎山さんに言いたい事は沢山あるけど、今は時間無いからまた今度。お礼だけ言い帰ろうとしたら崎山さんに手を取られ崎山さんの車に乗せられた。


送ってもらう車の中で崎山さんがジークさんとの経緯を話してくれる。知らない間に繋がっていた事に驚き、崎山さんが仲介役をかってでてくれた事に複雑な気持ちになる。そして真っ直ぐ前を向いて運転しながら真剣な表情で


「前にも話しましたが私は半身(巫女)の佐那を愛しています。しかし同じ巫女である貴女にも惹かれている。出来るならば残りの人生は貴女が側に居て欲しい。しかしジークヴァルト氏と会い悲恋話を聞き、貴方達を不憫に思い助けてあげたいと。ジークヴァルト氏に協力し2人が結ばれれば最良。しかし貴女がジークヴァルト氏を拒んだり、貴女が私を選んでくれたら私が一生慈しみ愛し幸せにします。ですから咲さんは自分の心のまま愛を求めればいい」

「崎山さん…」


崎山さんが好意を向けたくれているのは薄々気付いて居た。でも…気付かないふりをして寂しさを紛らわす相手にしていたんだ私…


『私…嫌な女…』


もう今日は色んな感情が溢れ出て一周って無の境地だ。気が付くと家の前に着いていた。


「咲さん…」


声をかけられ我に返り送ってもらた事とご馳走になった事のお礼を言いうと、包み込むように抱きしめてくれる崎山さん。


『ジークさんとまた違う。安心するなぁ…』


そんな事を考えいたら頬にキスをされ一気に頬が熱くなる。

腕を解いた崎山さんは手を降り颯爽と帰って行った。


家に着いて母に連絡すると叔父さんは早朝に亡くなり、今晩お通夜で明日葬儀が行われる。話の途中でいーさんに代わり


『本来僕は部外者だから行かないほうがいいんだどね、美佐枝ちゃんがまた体調を崩す恐れがあるから僕も同行するよ』


「本当⁈ありがとう。私も母さんも心強いわ」


こうして明日早朝出発し葬儀だけ参列する事なった。直ぐにチーフに連絡し会社を休む旨伝え喪服等の準備を始める。

不謹慎だけどジークさんの件で困惑していたので、冷静に考える時間が出来てよかったのかも。明日は4時起きで5時には実家に2人を迎えに行く。だから早く休む事にした。

眠れないと思ったが疲れてすぐ眠りについた。そして夢を見た。

綺麗な花畑の真ん中に愛らしい女性が座って花の冠を作っている。そして私に気付いた女性は立ち上がり私の前に来て、作った花の冠を私に頭に乗せ何か言った。

でも耳に彼女の言葉は届かない。首を傾げると少し困った顔をして彼女は私に抱き付いた。

甘い花の匂いがして何故か懐かしいと思った。もしかして…


「エミリア?」

『ƢƲȠɱʠ…』

「ごめんなさい言葉が分からない」

『ՁԲաՒփ!』


困った…全く何を言っているか分からないや。困った顔をしたら彼女エミリアは私の頬を両手で包み込み額に口付けた。


「ダイジョウブ」

「へ?」


そう言うと彼女エミリアは目の前から消えそして目が覚めた。まだ完全に目覚めておらず、何気に頬に触れると濡れているのに気付く。


『泣いていたの?』情緒不安定だぁ私…


まだ部屋は暗く時計を見ると4時少し前。夢が気になったが今日は忙しい。あと少しでアラームが鳴るからこのまま起きて出かける準備を始める。

いーさんもまだ現役で車の運転をするが、長距離なのと慣れない道だから私が運転する。礼服は斎場で着替える事にして楽な服装に荷替え戸締りを確認する。4時半を過ぎて実家に向かう。実家に着くと玄関に明りがついていて、車の中から母にメールすると2人は出て来た。


「咲ちゃんごめんな。疲れたら運転代わるから言うんだよ」

「ありがとう。いーさん。大丈夫なので母さんをお願いします」


こうして田舎に向けて出発。道中何度か休憩を挟み時間前に葬儀会場に着いた。更衣室を借りて着替え佐和子さんと伸一君にお悔やみを言いに行くと、疲れた顔をした佐和子さんと伸一君。声をかけると佐和子さんが


「参列してくれてありがとう。この後話す間がないから、葬儀が終わったら少し残ってもらえる?」

「え⁈告別式が終わったら失礼しようと…」


母と顔を見合わせ困惑する。正直に言うとこっちは話なんて無い。相続権も無いし…

あまりにも真剣な2人に断れず仕方なくお骨あげの後の初七日法要まで残る事に。帰りが深夜になる事が決まり仕方なくチーフにもう一日休む連絡を入れた。

こうして告別式を最後まで参列し精進落しは末席に座り静かに食事をいただいた。ふと母もいーさんを見ると疲れているので、お骨上げには行かず佐和子さんと一緒に斎場で待っていた。何かしら話をするのかと思ったが世間話しかせず、やはり全て終わってから話す様だ。

こうして初七日法要も終わり他の親戚がみな帰り私達は伸一君の家に向かう事に。今回はいーさんが居てくれ母も安定していて安心する。伸一君の家に着くと先に着いていた伸一 君の妹さんの利美さんがお茶の準備をしてくれていた。利美さんは私が佐川の家で世話になっていた時はまだ乳飲み子でお互い覚えていない。

部屋を借りて楽な格好に着替え客間に通された。そして佐和子さんは葬儀参列の礼を述べたら部屋に初老の男性が入って来た。

母も私も誰か分からない。親族?

すると伸一君はその男性を“先生”と呼んでいる。


『もしかして…弁護士さん?いや…私は相続権無いはずなのに何で?』


困惑し母を見たら母も困った顔をしていーさんの手を握りしめている。そしてその男性を紹介されるとやっぱり弁護士さん。


「亡くなられた正樹さんから遺書をお預かりしています」

『キタコレ!嫌な予感が…』


唖然とする母と私を後目に弁護士さんは遺言状を淡々と読み上げていく。


「遺産半分を姪の梶井咲さんに残りを妻の佐和子さんと子供の伸一さん、利美さんに法廷分を相続させる」

「はぁ⁈」


何故か私が筆頭相続人になっているし、佐和子さんや他皆さん何故か納得している。慌てて母を見ると顔色が悪く、いーさんが脈をとって私の顔を見た。慌てて伸一君に別室を用意してもらい母といーさんに移ってもらい私一人で話を聞く事に。


「私は法定相続人にならないはず。何故なんですか?」


弁護士さんに詰め寄ると弁護士さんは書類ケースから手紙を取り出し私に渡した。宛名は私で裏には正樹叔父さんの名前が


「これ…佐和子さん伸一君なに?」

「咲ちゃんの日記が見つかって暫くしてから、あの人は遺言を書き直したの。この手紙の内容はあの人から聞いているけど手紙を読んで欲しい、貴女の日記のお陰で私達は最後にあの人を理解出来たわ。だからあの人が咲ちゃんに相続人した事は納得している」

「でもこんな相続あり得ないでしょう。私困ります」


すると伸一君が


「親父と祖母ばぁさんの不器用な謝罪なんだよ。本当にバカな血筋だよ。俺も引いていると思うと嫌悪するよ」

「?」

「読めばわかるよ。そこに書いてある内容は親父がまだ話せる時に聞いている。相続は咲さんの好きにしてくれ。俺たち家族は何も言う事は無い」

「なら放棄で!」

「はっ!即答だね」


当たり前だ。貰う義理も権利もないんだから。ここで断り終わりにしたかったが、弁護士さんも伸一君も皆んな手紙を読んでから返事をしてくれと聞き入れてくれない。仕方なく弁護士の名刺をもらい放棄の返事は後日する事になった。

やっと終わりに帰る事ができる。母が休む別室に行くといーさんが手を握り母は横になっていて、落ち付いていて何とか帰れそうだ。

こうして佐和子さん家族に別れを告げ車で帰る。


「母さん。私も訳が分からないから、分かったら教えるよ。少し時間を頂戴」

「うん。咲には…」

「またぁ!大丈夫だから心配しないの!母さんが調子悪くなる方が辛いんだからね!いーさんの言う事聞いていい子にしてなさい」

「そうだよ。咲ちゃんに任せておきなさい。でもね親としては心配なのも分かってね咲ちゃん」


こういう時に本当に母の再婚相手がいーさんで良かったと思う。こうしてバタバタの叔父さんの葬儀を終えやっと無事に帰って来た。

翌日…起きたら9時を過ぎていた。昨晩は家に着いたのが深夜1時で、化粧だけ落し直ぐベッドに潜り込み寝た。


「はぁ…体が怠い…流石更年期のおばちゃんだ…」


暫くベッドでまどろみさっぱりしたくてお風呂に入る。

”正樹叔父さんの手紙”…読むのが怖い。日記を貰いもう過去の出来事に区切りを付けて終わったと思ってたのに

『ここに来てまた?』って感じ。

正直読みたく無いし遺産も要らない。


「スルーしちゃダメかなぁ」現実逃避中の私です。


お読みいただき、ありがとうございます。

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