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60.キューピッド - 1 崎山 side

崎山が咲と知り合った時の話です。

『あっ崎山さん。例の企画のモデル見つけましたよ』

「本当ですか」


電話の相手は美容室とエステ店数店舗を経営する若手実業家の田沢君。今時の塩顔イケメンでモデルや芸能人とも浮名を流すモテ男だ。

チャラいだけで無く実業家としても優秀で勘がいい。詳しくは聞いてないが凄い相手を味方に付け、大口の取引を取り付けたようだ。

その時に知り合いになったアラフィフの女性が素敵な女性で今回の企画のモデルに推薦してきた。


元々田沢君のお店にウチの商品を入れていた関係で付き合いが始まり、彼の経営センスを見込み共同で新しく企画を立ち上げた。

田沢君はお店の客層は20、30代で新たな客層を狙い、我が社はシニア層向けの化粧品が伸び悩んでいた。

そこで【第二の青春アオハルを私らしく】をコンセプトに、子育てが落ち着いた主婦向けに美容プランを立ち上げる。そこでモデルを探していた。


『その女性は清楚で温かい雰囲気で一緒にいると落ち着くんですよ。だからアプローチしてるんですけどね、その凄い御仁の想い人だから深追い出来なくてね』


田沢君はモテ男で美容関係の仕事をしているだけあり女性を口説くのは朝飯前。しかしその女性はガード強く攻略できなかった上に、凄い人に睨まれヤバかったよう。そんな女性の話を聞いていたら興味が湧き会いたいと思うようになり田沢君に紹介して欲しいとお願いしていた。


そして暫く間があき、その女性が求婚を受けていた男性と別れフリーになったと田沢君が教えてくれた。

その一報を受け心躍る。俺にもチャンスがあるかも知れない。田沢君もアプローチしているようだが相手にされていないようだ。

彼と別れた女性は落ち込んでらしく、元気づけるのとモデルとしてどうか俺に見てほしいらしく会う機会をつくっていた。

そしてタイミングが合い仕事帰りの彼女を田沢君のエステ店に招待しエステ店で顔合わせをする事になった。

彼女が来店する時間前に田沢君のエステ店に着き仕事の話をしていたら彼女が来店した。田沢君は仕事の話に夢中で彼女の入店に気付いてない。それをいい事に横目で彼女を観察する


『なんて穏やかな空気を纏う女性なんだ。どこか懐かしいさを感じる』


あまり彼女を待たせる訳にいかず、彼女に会釈すると気付いた田沢君が紹介してくれた。対面した彼女は背が低く飛び抜けて美人でも無いが、整った顔立ちをして優しい印象だ。彼女がエステを受けた後に食事の場を田沢君が設けてくれた。

先にお店に着き彼女を待つ。こんなに心躍るのはいつ以来だろう。妻を無くし後追いを考えるほど妻を愛していたし、今も妻以外は愛せない。

しかし彼女の遺言で彼女をつくり、潤いのある人生を送る為に女性と大人の付き合いをしてきた。今まで割り切って付き合った女性は数人。それなりに心も体も満たされた。しかし…

着飾り田沢君とお店に来た彼女を見た瞬間。心臓が跳ね上がり


『まるで妻と初めて口付けた時の様に興奮し理性を失いそうだ』


人見知りするのか節目がちな彼女の瞳に映りたくて必死に話しかける。そしてある事に気付く。テーブルに彼女が左手を乗せられていてその手の甲には…


『あれは…”巫女の痣”だ!妻以外で初めて見た!』


間違いない!何代も何年も見てきたから間違う事はない!試しにされ気無く彼女の左手に触れ指で痣をなぞると、指先から懐かしい温もりが全身に行き渡り興奮して身震いする。


彼女も騎士に先立たれたのだろうか⁈ならば俺が今生のパートナーになりたい。どんな美人や若い子も巫女の安らぎには勝てない。


『彼女が欲しい!』


衝動に駆られ襲ってしまいそうだ。そんな興奮状態を必死に隠し紳士を演じ、彼女を得る為に情報を聞き出す。興奮する我を深呼吸し落ち着かせ情報を整理する。彼女は夫と死別している。しかしまだ痣があるという事は…夫は”騎士”では無かった事になる。


『何故騎士が居ないんだ!』


おかしい…俺も騎士だから分かるが騎士の巫女に対する執着は半端なく、世界の全てを敵に回しても巫女を求めるはず。


『”渡の儀式”で何かあったのか?』


前世の記憶を辿り枢機卿の渡の儀式の説明を思い出している。褒章をが欲しい者が騎士になりすます事があり、昔は不正が多かったと聞いた事がある。


『…咲さんは巫女なのは間違いない。半身の騎士が必ずいる。田沢君から聞いた咲さんの別れた相手が騎士なのか?巫女が騎士を拒否し、騎士が巫女を諦めるなんて事はあり得ない。そんな事騎士ができる訳…』


色々考えていたら彼女が帰るという。送ると言ったが笑顔で断れた。澄ました顔をして連絡先を交換して別れ、田沢君に誘われて2軒目へ。移動しながら彼女メールでデートに誘う。会った翌日に誘ったらガッついていると思われるかも知れないが誘わずにいれなかった。結果振られたがまた巫女の穏やかな空気に触れられると思うと口元が緩む。


「崎山さん!咲さん気に入りましたね。彼女は超おススメ!俺が口説きたいけど、すっかりイジれキャラ認定されて相手してしてくれないんですよ⁉︎だから崎山さん気に入ったら口説いてくれちゃってオッケーすよ。今彼女いないんでしょ⁈」

「もちろん口説くよ」

「でもさーあのストーカー女だけは気を付けて下さいよ!咲さんに何かあると俺があの人に抹消しれちゃうから頼みますよ!」

「あの人?」

「そう!超ヤバイ人」

「?」


先程から田沢君の口から出てくる”ヤバイ人”。反社会勢力や反グレ系ではなく社会的地位があり権力を持つ者の事を言っているのだろう。彼女を手にするなら事前に調べておいた方がよさそうだ。


こうして久しぶりに美味しいお酒を飲み良縁に心弾ませ田沢君と別れた。

そして数日後にやっと彼女との初デートに漕ぎ着け至福の時間を過ごす。

彼女と会えば会うほど彼女が欲しくなっていく。先幸いな事に彼女も俺に好意を持ってくれている。

そして田沢君の紹介で咲さんの友人あいかさんと知り合い交際は順調だった。


「ボス…指示を受けた調査対象ですが…」

「あっ何か分かったか?」

「中止したされた方がいい。ヤバいです」

「?」


咲さんの別れた彼が騎士である事を疑い、部下に調べさせていた。急な中止を進言する部下に困惑しながら報告書に目を通すと…


「今反対に先方がウチが調べています。相手が悪すぎます」

「…」


騎士であると思われる男は、世界的に有名な大手企業のCEOで政財界に影響力のある男だった。田沢君から得た情報から調べ出した途端に先方から反対に調査され出したと言う。

顔を青くし撤退を進める部下に調査の中止を命じ、出来うる限りの防御策を講じる。


しかし数日後…


「ボっボス!例の御仁から面会の依頼が…」

「やっぱり来たか。先方の希望を優先し出来るだけ早く調整してくれ」

「畏まりました」


こうして2日後に例の御仁に会う事になり緊張がはしる。

ここまで緊張するのは数年前に社運をかけて挑んだ名門ホテルとの商談以来だ。

下手するとウチの会社は潰される。気合を入れ約束場所に向かう車内で、咲さんからメールもらう。週末誘ったデートの返事だ。


「OKだぁ…こんな短いメールだけでも嬉しい…出来れば彼女を失いたくない」


そう思いながら咲さんの元彼に会う為に約束の場所へ急いだ。


待ち合わせしたのは有名ホテルのフレンチレストランの個室。約束時間の10分前に着いたが、先方はもう着いていた。部屋に入ると資料で見たモデルの様な男前が立っていた。

俺も日本ではイケメンと呼ばれそれなりに容姿に自信があったが、彼の美しさは別格だ。


『こんな財も地位も容姿も整った男を咲さんは振ったのか?』


平凡そうな彼女えみか凄い女性ひとに見えて来た。そして彼は目の前まで来て手を差し出し


「急な面会をお受けいただき感謝致します」

「あっいえ。お会いできて光栄です」


彼の流暢な日本語に拍子抜けしてしまう。てっきり英語で来ると思い身構えていた。まぁ英語できるし俺話せるけどね


「プライベートな話になりますので、お付きの方を退席いただきたい。無論私の方も」

「分かりました。美川下がってくれ」


こうしてジークヴァルト氏と二人っきりになり、料理が運ばれて給仕人が退席しジークヴァルト氏か話し出す。


「咲さんは元気ですか?」

「あっはい…不躾ですか彼女とは?」

「私は彼女に求婚し断られました」

「…」


やはり元彼か…

彼は真っ直ぐ俺を見据えて


「今日お呼びしたのは咲さんに手を出さないで頂きたい」

「失礼だが断られた貴方が口を出す事ではない。嫉妬執着して今後も彼女の交友関係に口を出し続けるつもりですか?」


眉を顰め苦々しい顔をして彼は話を進める。


「彼女は純粋で過去に傷を負っている。悲しい思いをさせたくない」

「ご安心を私が幸せにします」


すると彼は徐にカバンから書類を取り出し俺の前に置き見るように促して来た。資料をみると…


「これは!」

「貴方が遊んで来た女性との調査資料です。寂しさと性欲を埋めるのなら、後腐れない他の女性で遊べばいい」

「…」


それは妻が亡くなってから付き合った女性達の調査資料だった。


『ここまで調べ上げるとか闇深いなぁこの人は…この執着の感じはやはり”騎士”か?やはり探りを入れてみるか…』


資料をテーブルに置きグラスのワインを一気飲みし、彼を見据えて



「私は”巫女”の彼女を悲しませる事は神クロノスに誓ってしない。愛し慈しむと誓える」

「はぁ?」


目の前の彼は目を見開き固まっている。反応からやはり咲さんの本当の騎士の様だ。困惑し言葉が出ない彼を食事をしながら待つ事数分。やっと頭が回り出した彼が振り絞る様に言葉を発する。


「貴方は…マルラン王国の転生か?」

「はい。時渡の儀式で巫女と一緒に転生し、今世は2度目の転生です」


彼はいきなり上着を脱ぎネクタイを外しワイシャツを脱いだ。彼の左胸には懐かしい2本の痣が!やはり彼が咲さんの本当の騎士なのだ。


複雑な表情をした彼に咲さんの巫女の痣から、本当の騎士がいると知り調べた事を話した。


「巫女と騎士は心身ともに一つになると痣が消えて代わりに前世の記憶が戻ります。2度の転生でも同じでした。しかし何故貴方達は交わる前に記憶があり、転生した時に側に居なかったのでしょう?」

「それは…」


ジークヴァルト氏は表情を曇らせ巫女と騎士に起きた悲しい儀式を語り出した。

内容は衝撃的で目の前のジークヴァルト氏に同情した。話には聞いていたが神を騙す様な輩がいる事に怒りを覚える。


「巫女と騎士は何があっても結ばれると枢機卿から聞きました。今からでも咲さんと!」

「崎山さん…簡単な話しではないんですよ」

「?」


詳しくは話してくれないが、咲さんの前世の魂が咲さんを守るために制約をかけ、その制約があり2人は別れたらしい。

顔を歪め話すジークヴァルト氏。初めは妻の代わりに安らぎをくれる咲さんを欲し、ジークヴァルト氏から咲さんを奪い去る気概があった。しかし事情を知り同じ騎士として今はジークヴァルト氏を助けてやりたいと思うようになって来た。


「詳しくは分かりませんが、その制約を無効にする方法を講ずればいい。貴方が咲さんに向き合うまでの間、私が咲さんを守りましょう。私の巫女ではないが騎士である私は咲さんを守りたい」

「崎山さん…」


こうして私は2人を応援すると決め、ジークヴァルト氏と連絡先を交換して食事をした。


別れ際にジークヴァルト氏に発破かける意味で


「私は2人を応援すると決めましたが、貴方が不甲斐なかったり、咲さんが私を選んだ時は遠慮なく咲さんを貰い受けます。彼女は魅力的で安らぎをくれる。私も欲しいですから」

「咲さんをこの世の誰に渡さない」

「その気概を早く咲さんに向けて下さいね。何か有れば連絡して下さい。因みにこの週末も咲さんとデートです。無粋な邪魔はしないでいただきたい」

「…がんばります」


こうして危惧していた咲さんの元彼と面会を終え、安心半分と落胆半分の気持ちで家路に着いた。

疲れた体をベッドに沈め、巫女の安らぎで癒やして欲しいと願うのだった。

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