58.親友
崎山さんが同じ時渡りの儀式で転生した騎士だと知った咲。彼が味方になってくれるのが分かったのはいいが愛華になんて説明しよう…
“♪♪~♪”
着信音で目が覚めた。昨日は衝撃の連続で疲れ果て何もせずに就寝した。着信が入るスマホを見ると朝の8時で着信は予想通り愛華から。
彼女か朝早く起きて8時まで時計と睨めっこして8時丁度に連絡する姿が目に浮かぶ。正直まだ怠くて眠い。諦めてくれるかと着信を放置するも鳴りやまない着信音。
「こいつ出るまで絶対やめないな!」
溜息を吐いて仕方なく出ると
「あっ咲?今起きた。ごめん起こして。気になって6時に起きたわ!今日昼から行くからよろしく。そうそうお昼はお弁当買っていくから用意は要らないよ。じゃーね!」
「あっ!」
一息で言いたい事を言って切ってしまった愛華。彼女らし過ぎて腹も立たない。
「はぁ…お昼まで4時間弱しかないじゃん。考えが纏まるかなぁ…」
重い体を起こしてリビングに向かう。コーヒーを入れて新聞を取り洗濯を始める。
一応新聞を読むが全く頭に入って来ない。愛華に話す話ばかり頭をめぐる。取りあえず元カノの話は真実のままを話して、崎山さんの“正義の味方”?友人が法的処置をしてくれ今後も問題ない事。それから前世の話は…
「やめておいた方がいいよね…ジークさんの事も触れる事になるし、崎山さんに許可貰ってないし」
せっかちの愛華は恐らく早く着くはず。11時までに家の片づけを終わらさないと!テキパキと掃除をして集中していたら11時間前になっていた。
「ヤバい何も考えてない!」
そして…11時5分…
“ピンポーン”
「来た!早っ!」
インターホンのモニター映る愛華は目が爛々としている。溜息を吐いて玄関を開けた。
「混んでると思って早く出たら早く着いたよ」
「早く出たら早く着くわね」
勝手知れている我が家だから挨拶もそこそこに上がりリビングに向かう愛華。ダイニングにお弁当とケーキを置いて当たり前の様に冷蔵庫からボトルに入れているお茶を出す。
こうして早めにお昼を食べて終わると聞く体制になりキラキラした目で私の話を待つ愛華。
『プレッシャー半端ないんですが…』
こうして元カノの話を愛華にする。崎山さんに聞いた話だけして、崎山さんと私の前世の話は結局しなかった。多分話しても理解できないだろうし、話した所で現状が変わる事は無いから…
「“正義の味方”か…ふ~ん解決してよかったね」
「うん」
「で崎山さんとはそのまま付き合うの?」
「付き合うって言うか…お友達?」
「えっ!勿体ない。まだ現役なんだから火遊びしたら?」
「無理無理!そんなの!」
「真面目な咲には無理か…私が火遊びしたいわ」
「旦那さんに言い付けるよ」
「それより咲はハイスペックな男ばかり吊り上げるよね~。結局男は従順で大人しく控えめな女がいいのかね…」
「知らんし」
「崎山さんはちょっと細身だけど、スタイルも顔もいいし経済力あるし火遊びするにはいい男じゃん」
「だから…」
私が頬を膨らませてムキになると笑いながら
「あまり人の目を気にせず思うままでいいと思うよ。私は咲が幸せなら何でも誰でもいい。例えハニー君でも」
「それは絶対ない」
「分かってる。反対にハニー君選んだら趣味疑うわ」
話の感じから多分愛華はジークさんの事を聞きたいんだと思う。でも…まだ無理かな…何も考えなくていい今の状態が心が波打たなくて心地いい。
この後はお互い日常の他愛もない話をして夕方に愛華は帰って行った。
それからはのんびりTVを見ていたら凜から久しぶりの電話があり、凜の愚痴と近況報告を受け休日は終わった。
それからは週末に崎山さんと遊びに行く日々が続き充実した日々を過ごす。仕事も順調で新しく出来たグループのリーダーを任され仕事も充実している。
崎山さんとも更に仲良くなり遊びに行くのは楽しい。彼は話題が豊富だし元騎士だけあり紳士で優しい。
最近の話題と言えば崎山さんと巫女の佐那さんの前世の話。2人は私より150年以上前の人で2人が渡った後のマルラン王国の歴史を話してあげたら興味津々で色々聞いてきた。
「咲さんが巫女になった時の国難は何だったんですか?」
「外国から飛来した害虫による麦の不作でした。崎山さんの時は?」
「私の時はハリケーンにより高波が発生し、農地が塩害に合い同じ様に穀物の不作でした」
「確か歴史の教科書でその出来事を読んだ記憶がありますよ」
不意に崎山さんは抱擁をして額にキスをした。
「!」
「ルール違反を許して下さい。次から許可なくしません。佐那が亡くなってから祖国の話をする機会がなく、懐かしく嬉しいのです。貴女は私の人生に幸運を運んでくれました。クロノス神に感謝を…」
「今回は許してあげます。でも次破ったらパンチですからね」
「はい。でも…貴女のパンチなら受けてもいいなぁ…」
Mな発言をする崎山さんに少し引いてしまう。1年前まで前世の記憶は無く平々凡々おひとり様を満喫していた。それを思い出したお陰で沢山の新しい出会いができて、日々楽しく過ごしている。
気分良くしていたら崎山さんが
「詳しくは聞きませんが、貴女の騎士とはもう会わないつもりですか?」
「…わかりません。ただ今はまだ…」
「貴女を困らせるのは分かっていますが、私も騎士で彼の気持ちが痛いほど分かるので切なくて」
崎山さんの言いたい事も分かるし、今でもジークさんの優しい瞳と大きな手を思い出す。でも…どうしていいか解らないし、今は崎山さんが居てくれ現実逃避している。
「すみません。もうやめましょう。来週は買い物に付き合ってくれませんか?息子の誕生日が近くプレゼントを選びたいのです」
「いいですよ。息子さんはお幾つですか?」
こうして次の約束をして崎山さんに送ってもらった。家から少し離れた所で下ろしてもらい別れ際にいつもハグをする。これは二人の間の約束で崎山さんに安らぎを与えるもので、渡りの騎士だった崎山さんは巫女の抱擁が最高の癒しになるそうだ。
「抱擁だけでなく貴女が望んでくれるなら、その先もお付き合いしますよ」
「佐那さんに悪いので遠慮します。お相手を望むなら大人の付き合い出来る方とどうぞ」
「残念だなぁ…貴女と大人の関係になったら更に充実した日々が送れるのに」
「冗談が過ぎると会いませんよ」
悪い人じゃないんだけどなぁ…どうやらそっち系が強い様だ。今日も適当に躱しデートを終え帰って来た。
そして翌週の木曜日に崎山さんから連絡が入り予定が無くなった。理由は崎山さんの急な出張が入ったから。そして週末急に暇になり家の整理をしていた。そして戸棚の中を整理していたら…
「あっ!こんなところにあった」
出てきたのはハデハデのポップコーンバケツ。ジークさんにシネマランドに連れて行った貰った時に買ってくれたものだ。
「こんな原色で派手なバケツはティーンか子供しか似合わないのに、彼は1日よく持ってくれたなぁ…」
バケツを握りしめ懐かしさに浸る。
「ジークさんは元気かなぁ…故郷に帰ったのかなぁ…ここに居る理由が無くなったし」
目を閉じるとジークさんの温かい若葉色の瞳が浮かびじわっと涙が出て来る。もしかしたら祖国でお母様の選んだ女性と見合いし…結婚…なんか…
「私嫌な女だわ。私が無理だといい別れたのに、ジークさんが幸せになるの嫉妬するなんて…」
バケツを見るのも辛くてまた戸棚の奥にしまった。気分は駄々下がりで片付けを止めてふて寝する。
どの位経っただろう少し寝ていた様だ。テーブルの上のスマホが光っている。手に取るとメッセージが入っているのに気付く。開けてみると愛華からだった。
『来週末は崎山さんを振って私とデートして!シネマランドでヌーピーの期間限定アトラクション始まるの!奈々は彼氏と行くって言って行く人がいない。旦那はすぐバテるから楽しめないし、息子は家に寄り付かないし!付き合ってね断るとか禁止よ。崎山さんには咲を貸してって連絡と許可済みです』
「何だそれ!」
でもここ最近心配かけているからなぁ…
『OK!』
と愛華に返事をしたら崎山さんから電話が入る。崎山さんも残念だけど愛華に譲ると言ってくれた。こうして1年ぶりにシネマランドに行く事が決まった。ポップコーンバケツを見つけたからかなぁ…
シネマランドに行くのは土曜で、前日愛華から連絡が入る。
「土曜日の8時に迎えに行くわ」
「分かった」
「んでさ!限定カフェも行きたいの!限定のスペシャルランチ頼むとシネマランド限定デザインのマグカップがもらえるの!協力して」
「OK」
どうやらヌーピーの映画が15年ぶりに公開されるのに伴い、シネマランドで特別エリアが出来るそうだ。もう興奮状態の愛華に苦笑いしながら、早く寝る様に促し電話を切った。
そして土曜7時半。
「やっぱりか…」
「ごめん!早く出たら早く着いた!」
「早く出たのね…」
目をキラキラしている愛華を怒れない私。行きに朝を食べる事して出発した。
愛華が車を出し運転してくれる。車内はずっとヌーピーのテーマソングが流れててもうヌーピーまみれだ。
予定より30分早く着いて入場ゲートに並び開演時間になった。とりあえず一目散にヌーピーのエリアへ。
ここから愛華に振り回されヘトヘトだ。気がつくと11時前で愛華は私の手をひきヌーピーのカフェへ走り出す。
同じアラフィフなのに元気な愛華に圧倒される。カフェに着くと既に10組は並んでいる。確か限定ランチプレートは30食だ。ギリギリかも…
「!」
「咲?ごめん!引っ張り回した。大丈夫?」
「愛華並んでて!お手洗いに」
そう言い並ぶのを愛華にお願いし、1人離脱してお手洗いへ
「ふぅ…」
お手洗いを出てゆっくり外へ出たら目の前が真っ黒に染まり何かにぶつかり尻餅をついた。
「いったぁぃ!」
「申し訳ない…大丈夫ですか?」
「すみません。前を見てなくて…」
目の前に手がありお借りして握ったけど、引っ張ってくれない。
『助ける気が無いなら手をださないでよ!』
心で悪態をついて顔を上げたら…
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